第55話 Fée de clarté (クレール視点)
「ドロリとさせたミルクスープ今から食うか?」
「おまっ、言い方! 合ってるけどなんかマズそうだぞソレ。あー、えーと……確か〈ホワイトシチュー〉だ。
僕は明日の朝にするよ。今夜はもうすっかり満足だから。
それにしてもコニーの作ってくれたあれらには驚いたな。こじんまりとして、魔石のように美しくて。しかもとびきり美味しい前菜たち。
ああやってのんびり飲みながら食べると、案外お腹いっぱいになるというか。心も身体も満ち足りるというか……」
「ああ。俺たちの世界にある、美味いがどかーんと存在感のある食事とはまるで違うな。
豪華なもんもしょっちゅう喰ってる舌の肥えたお前が驚くなら、全くの新しいものってことだよな。
今までのおヌル様たちの日常にはない、コニーが独自に培った価値観によるものなんだろう。
実は俺もな、あの余韻に今日はこのまま浸りたい気分だ」
「なら、酒でも飲むか」
「そうだな」
シチューを鍋ごと冷蔵庫にしまい、僕はブランデーを、エタンはウィスキーを。
コニーが半分以上残して眠ってしまった冷製の皿。
彼女の分の野菜のゼリーは相談の結果、じゃんけんではなく2人で半分にして、食べてしまうことにした。
ちびりちびり酒を飲みつつ話をする。
コニーの舌が光った事や、桁違いの魔石を生み出す生成能力と、石への吸着率。
にも関わらず、魔素の蓄積はしていないと。
網糸の不具合の疑念もあって、寝ている間に魔石を増やす際にこれも丸ごと取り替えたが、やはり蓄積を表す変化はなかった。
歴代のおヌル様たちは、それぞれ特別な能力を持っていた。
蛍様は、多彩な色合いの魔石を生み出すことができる。
想像した好きな色だったり、その時の感情を反映した色だったりと。
そして蛍様の魔素の煌めく箇所は、手の爪であった。
もちろんリンゲル島にいらした最初からだ。
途中で光ったり、消えたりはしない。
きっとコニーのそれらの現象もコニー特有の、なにかの能力に違いないのだが……。
「出現の時期から親和性の高さまで、今までの文献ではみたことがない……。コニーはほんと規格外のおヌル様だよね」
「俺らによって初っ端から囲い込まれた、秘匿性の高さも規格外だな」
エタンがニヤリと皮肉な口調で言った。
「あの人懐っこさ。もしも僕ら以外が第一発見者で、まだ僕と出会っていないかもしれないだなんて、考えただけでゾッとする」
「ああ。宿舎の奴らの嬉々として群がってくる姿が簡単に想像できるわ、やべぇ」
王宮側でいったら、犯罪的に変態のアイツとか、漫画マニアの超絶変態のアイツとか。
いまだ独身の筈だ。
鉄壁のバリアを張ってバイ菌から守り切って見せよう! とエタンと誓い合う。
物理的に姿を隠す、夢の魔法みたいな魔道具が欲しいところだ。
「なあ、エタン。
コニーはさ、今までの会話からして、どうしたいか、どうありたいかって。
自分自身にいつも問うて頑張って生きているような気がするんだ。
うーん……その基準……っていうのは良い悪いじゃなくて、彼女が彼女であることが大事っていうか……」
「ああ。言わんとすることは分かる。
彼女が強くありたいと願えばその時の彼女はそうであるってことだろ。
本当は強い女じゃなくても。
でもその時のコニーは紛れもない強さを持っているし、持とうと努力している」
「それは無理をしている、ってことだろうか……」
「んー。上から『着る』感じってとこか?
自分は変わらない、変われない、このままでいい。実はコニーはそんなふうに奥底で思ってるのかも知れない。そうだな、足す、感じっていうのか?
本人がそれを着たいのだから、好きにさせたらいいんだと俺は思う。
ただ俺らの役割は、重くてその身がしんどくなっちまうようもんを、なるべく着せない、長引かせない。そんな状況を露払いだすることだ。
そんでコニーが勇ましく甲冑を着るっつうんなら、俺らも着て共に挑むまでよ」
「相変わらずオマエは、モヤっとした思いや考えをこうして言葉に形作るのが本当に上手いな。
俺には真似できないオマエの長所だ」
「ははは、照れもせずそう口に出せるお前もな」
2人してコニー感化されたのか、今まで改めてお互い口に出しとこともないセリフを吐き、若干居心地が悪くなる。
「さてと寝るか。 洗面所エタン先使えよ」
グラスに残った酒を飲みながら、今日あったことを箇条書きにメモしていく。
コニーから習ったこと、報告書案件、必要なもの、コニーに教えると約束したもの、などなど。
さっと終え、立ち上がる頃にエタンが戻ってきた。
そして、僕がトイレや洗面所から戻る頃には、エタンは部屋に行ったあとで、全て食洗機に入れられ机が綺麗になっていた。
これもアイツの長所の一つだ。
布団に入る直前、シーツを変えてないことに気づく。
……コニー今日は着替えずに寝落ちしちゃったけど。
でもあれも僕の服だし、明日からコニーが僕の寝巻きに包まれて寝るんなら、僕もコニーのシーツに包まれたって、それはおあいこっていうもんじゃないか?
でもあれは洗ってあるか……
……うん、よし。
そのまま僕は布団に入った。
残念ながら、僕には特別な彼女の香りが、シーツからするかどうか分からなかった。
エタンは本当に分かったんだろうか?
それにシーツからいい匂いがしてきたら、寝不足になっちまう。
残念なようなホッとしたような。
「ちゃんと伝えていこう」なんてさっきは言ったが、明日コニーにシーツのことを訊かれたら、きっと僕は嘘をつく。
コニーとエタンと共に甲冑を纏うのも辞さないが、彼女を寝巻きで甘やかす柔らかなシーツに僕はなりたい。
ああ、そういえば……
〈
光の妖精と、フランス語でコニーは起き抜けに確かにそう言った。
なぜ僕の子供の頃の家族だけに呼ばれていた愛称を? と思ったが、コニーが知ってるわけは絶対ない。
あの時は彼女が目覚めた喜びで慌てふためいて聞き流してしまったが、確かにそう言った。
偶然にしても、
そして、いつかそんなふうに特別な呼び名で互いを呼び合える仲になれたらいいなぁ……。
なんだかこそばゆいような、天にも登る幸福感に包まれて僕は眠りに落ちていった。
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今回のクレールおやすみイメージBGMご紹介です。
まさに歌詞があつらえたかのようなんです(๑˃̵ᴗ˂̵)
歌詞&和訳はリンクを下記に。曲自体はYouTubeで検索するとあると思います。
サラ・ヴォーン、ラヴァーズ・コンチェルト
Sarah Vaughan - A Lover's Concerto (1966年)私は彼女のバージョンが1番好き。
歌詞
https://www.worldfolksong.com/classical/bach/lovers-concerto.html
まあ当小説。舌先三寸に覚えありでは、クレールの一方的な思いですが(笑)
次回からなんと、新章ですよ。
【新章 光の湖畔編】
【次回予告 第56話 朝食にシチューはイケる派】
って事で、ただいまメチャクチャ区切りがいいんです!
押しちゃう? ☆あげちゃう? ふふ、もらっちゃう〜(*´◒`*) 本当にここまでお付き合いありがとうございました!!
でもまだオヤツ食べてないけど?
新章はオヤツ付きです。新キャストも登場。
このまま作者と一緒に仲良しトリオを見守ってくれたら幸いです。
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