光の湖畔編

第56話 朝食にシチューはイケる派

 ふかふかのお布団……ん。

 薄暗い部屋で目が覚める。

 見上げた丸窓から眩しい光。


 ほげぇ〜 えっと……


 あー、昨日お酒飲んで眠くなってソファーで寝落ちしてしまったような……


 あー、また抱っこしてもらったんか……


 あー、しょーもな! 申しわけな!


 あー、なんか部屋が微妙に酒臭い……

 昨日習った通り、クリアにしてから網戸機能使う。


 昨日は久しぶりにお酒飲んだから、酔っ払っちゃったなあ。

 眠くなって、いつもみたいになんだか訳わかんなくなって、最後なに話したか覚えてないやあ。

 多分変なこと言ってない、大丈夫だって思いたい……。


 ベッドを整え、チェストの上のヘアゴムを手首につけて、と。

 まだ朝だといいけど……何時だろう?

 颯爽とドアを開けて朝? のご挨拶だ。


「おはようございます!」


 居間では既にエタンがくつろぎ、クレールが台所に立っていた。


「おはよう、よく寝れたか?」

「おはようコニー。体調はどう?」


「お陰様でよく寝れて調子いいよ。

ていうか、昨夜はごめんね。そのままここで寝ちゃって。その、運んでもらっちゃって……」


「ん、初回より酒分重かったけどヨユー」

あ、抱っこはエタンさん担当なんだね……二度に渡りすまぬ……。


「洗面所行っておいで。朝ご飯はシチューにしよう。昨夜僕らもなにげに満腹でね。食べずにそのまま冷蔵庫にしまったんだ。もうすぐ温まるから」


「ありがとう、パッと手洗いうがいだけしてくる。そしたらすぐ戻って味を仕上げてから、ちゃんと身支度整えるよ。待ってて」


 洗面所から急いで戻り、生クリームを出してもらい、ちょっと入れて、塩、胡椒、ナツメグ。

 味身して、追加で生クリームと塩もうひとつまみ。

 うむ、これで良し!!


 支度を整えてもう一度戻ったら、カウンターに2人がスタンバイしてた。

 パンはこれでちょうど終わりとのこと。

 ご飯結局炊かなかったなあ、ごめんと謝った。


 3人でいただきますして、いざ実食!


「おおお! 見た目も食感もどろりとしてる……。濃厚さが増して、食いでがある上にコクがあって格段に美味ぇ!

クレールのいつものスープが大出世だ。マッシュルームの風味もマジ美味い!」


「相変わらずの食通感想凄いねえ、エタン。ありがとう。とても嬉しいよ」


「グラタンがスープになるだなんて、あるようでなかった新発見だよコニー! 特にうちの実家があるフランセ州では人気が出ること間違いなしだ!」 

 

 なるほど。

 あと一歩のとこまで来てたけど、コラボしなかったんだね〜。

 そういえば、昨日の前菜たちも手放しで褒めてくれたけど、元王家所属なら小洒落こじゃれたもんクレールは食べてそうだけど? 


 クレールに聞いたところ、なんと。


 地域によって差はあるものの、基本的にはどかーんと自分用の一皿飯か、大皿にどんと数品出してみんなでシェアする食事だそうな。

 高級な食事でも一盛りが多いそうな。

 それが前菜であっても。


 アメリカ的っていうか外国的っていうか。

 子供の頃、叔父さんが連れてってくれた沖縄米軍基地関係の会員レストランでの思い出。

 ステーキの付け合わせが丸一個のどデカい芋に、

ご飯茶碗山盛り一杯分ぐらいあるグリーンピースだった。

 もちろんステーキはビーサンビーチサンダルサイズ。

 きっとあんな感じかもねぇ。


 さらに教えてもらったら。

 地球のファーストフード的な、ハンバーガー、ピザ、フライドポテト、アイスクリームも充実してるそうな。

 おお、アメリキャ〜ン!

 ドイツのおヌル様登場でホットドッグも参戦。


 そして蛍様以降、つまりここ十数年来。

コロッケ、唐揚げ、オムライス、お好み焼き、餃子など、日本のボリュームある庶民の味方も人気ラインナップに加わったようだ。


 さらになんと! 蛍様よりうんと前に、雪之丞ゆきのじょう様という江戸時代から呼ばれた方がいらっしゃったそうな。

 和食のベース、米、醤油、味噌、天ぷら、そば、寿司などはその時代に開発されたらしい。

 

 麺類は、日本よりエントリーはそば、うどん、ラーメン、焼きそば。

 イタリアからはいろんなパスタ。


 おやつは最近蛍様の影響で、菓子パンやシフォンケーキ、日本風ショートケーキなど、柔らか食感ブーム。

 和菓子は雪之丞様時代のものに若干レパートリーが加わった模様。

 昔ながらの硬めしっかりプディングも、柔らかプリンにリニューアル傾向。

 ホットケーキもかわいいデコレーションが人気だそうだ。


 ふーん。

 なんか食事は、もう地球とあんまり変わらないというか。

 とくに私がこれといって出張でばることもないかな、って感じ。

 むしろ魔素とか、私の方が驚くことの方が多い気がする。

 おヌル様基金、使うのますます申し訳ないや。


 あ、でも,昨日の大袈裟なほど、2人が驚いて褒めてくれた私の作ったおつまみって……


 「じゃあ、〈会席料理〉とか、〈アミューズ〉とか〈ピンチョス〉とか聞いたことある?」


 あ?! 今脳内で翻訳されてないってなんか分かった。 

 ふーんこの感覚なのね、覚えておこう……。


「聞いた事ないな……。全部食べ物?」


「んーカテゴリー(あ、これ英語のままいける)っていうの? 

小さな寸法で、それ本体や盛り付けを凝らして、美しいちょっとづつの一皿を食べていく。

そんな食文化があるんだよ。とりわけ日本独自の感性は世界に大きな影響を与えたと思うよ」


「今までのおヌル様たちは、その食文化についてリンゲル島での発信はなかったなぁ。

彼らはそれを知らなかったのかな? なぜだろう?」


「うーん……一概いちがいには言えないけど。

ちまちまっとして綺麗なものを一口づつ、色彩にもこだわる。

ああいった食べ物ってさ。特別で贅沢っていうの? そういう位置付けなのかもしれないね。お祝いやパーティー、お外でちょっと高いお金払って食べる的な。

勿論お客様をお家にお招きするときも、職人でなくても普通の家庭で、そんなの作ったりするんだけどね。

でもやっぱりそれも、外で本職のを食べた記憶を元に見た目をマネしたり、本を読んで挑戦したり。

自分に引き出しがないと家で再現出来ないし、しようとも思わないかな。

食べ物にかかわらず、美的な感覚を常に開放して。

知識や情報、心動かされたものを、取り込んで、それを落とし込んで、料理やケーキ、盛り付けに表現してく。

まあ簡単に言えば、お洒落心や遊び心よね。

生活や時間に潤いや余裕があって。

食べることがすごく好きじゃないと踏み込まない領域かもね」





〈解説〉

お酒や料理を楽しむ和食コースが『会席料理』

濃茶席の前に食べる茶懐石を料理屋さんで食べるもの、色々規定がある上に満腹にならない系が『懐石料理』


コニーは他のおヌル様の国や、年代、生活スタイルなんかも、ちろっと探った訳なのです。


前菜概念はクレールにあるようなんで、『アミューズ』(アミューズ・ブーシュ)を。フランチの前菜の前に出される一口サイズの美しさを意識して作られるそれを聞きました。

日本の先付け、お通しにあたるものです。

フランスのシェフたちが日本の会席料理に影響を受けて、1970〜80年代にヌーベルキュイジーヌとして登場した新しめの文化です。


ピンチョスはスペインのバスク地方がルーツ。

タパスは小皿料理でフォークで食べます。

ピンチョスは串に刺さった小振のサイズの料理を言います。


--------------------------------------------


新章【光の湖畔編】スタートしました。


クレールのお家から外に出たり。

いろんな人物と会話したり。

新しい仲間が加わるかも?

この世界のことが少しわかるエピソードが増えてゆき。

コニーの謎がまたまた増えて、解明されたり、謎のまま放置されたり(笑)


相変わらず仲良しトリオです。

相変わらず嫌なことは起きない予定です。(リアルにとっちゃそれこそ真のファンタジー!)


少しずつ簡単なお菓子を作ったり。

お料理したりしなかったり。


一体いつになったら、

コニーは、はかりを手に入れられるのか。

コニーは、新しい異世界下着を手に入れられるのか。


新章も楽しんでお読み頂ければ何よりです。

どうぞよろしくお願いします。


【次回予告 第57話 今何時?】



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る