第57話 今何時?

「例えるなら……すっげぇ女物ドレスみたいなもんか? 高尚な感性の元、贅と技術を凝らした。

田舎じゃお目に掛かれないし、見たことあるやつも価値がよく分かんなきゃすげ〜で終わっちまって、人に広めるなんてとても無理。

そういうの大好きなやつが見て感動して、家に帰ってから時間や金を使って、得意なやつに依頼したり、自力で自分で気に入った要素を真似てみる。

そもそも普段に着れねぇもんより、日々の実用性を追っちまうのが庶民だ。

 

そんなとこであってっか?」


 エタンがさっと3皿まとめて持って、流しに向かいながら聞いてくる。

 あわわ、出遅れた。

 惚れ惚れするほど、リアルお片付けと、思考内の言葉のお片付けが速い人だなあ。

 まんまエタンに伝えると、そうか? としれっとしてた。


「うん。概ねそんな気がする。

それか……サイズがちっこいだけに、なんかちょっとした小物っぽい例えのほうがしっくり気もするなあ。んーお洒落な下着?」


 あーなんかこれは男子と朝から深掘りするネタじゃないね。

 お洒落じゃなくてもいいので、ギブミー女性用下着の切なる願いが、ついこぼれ落ちてしまった。


「そうだ。温かいの飲み物でも、私入れよっか?」


「コニーは座ってて。僕が食後の紅茶淹れるから」


 えええ〜! よろしんですの?

 この2人、私に大甘おおあまで朝から蕩けてしまう。


「じゃあ甘えちゃう! コーヒーも好きだけど、紅茶も緑茶も大好きなの。

エタンもクレールもありがとう。

……ああっ! まって待って。お鍋は私が!」


 お家でカレーやシチュー作ると、鍋にこびりついたのがもったいないから、お湯入れて蓋して蒸らしつつ、汚れ落としも兼ねてインスタントなスープ作るの。

 それに水道の話が衝撃的だったから、ここでの生活はぜひとも節水したいしね。

 お昼ごはんはそれと。

 あとは、なんにしよっかな〜。

 そんなことを考えながら、ほぼ空のお鍋を腐敗防止のために、冷めたのを確かめてまた冷蔵庫にしまった。


 クレールの入れてくれた紅茶を飲みながら、今日の予定の話をする。


「ねえ、ところでいま何時なの? 時計は無いの?」


「そういえば1階には無かったね。ちょうど9時ってとこだね」


 なんか銀の板みたいなの出した。


「スマホ便利だよねー。コニーはこっちに持って来れなくて残念だったね」と見せてくれる。


「ん? こういうのは持ってなかったよ? 最近発売されたりんごマークのやつでしょう。へーっ。こっちの世界では浸透してるの? 本物は初めて見たよ」


 「「え??」」


「……コニーの家は、とても田舎にあるとか、暮らしがその、ちょっと大変だったのかな。

そもそも携帯電話なんて、必要かそうじゃないか選択するのは、本人の自由だからね。無神経なこと言ってごめんね」


 ん? なんか気を使われてる?


「最新機種じゃなかったけど、ちゃんとどこにでもかけれる携帯電話持ってたよ」


「写真やメールは……」


「ん? メールはできるけど、安いやつだから写真は撮れないよ? クレールたちのは最新機種みたいにいろんなことができるの?」


「……クレール、蛍様の話となんか違うぞ?」


「ああ……。ちょっとなにか食い違って、おかしい感じがするな。蛍様の悪阻つわりが安定したら面会を急いで叶えてもらったほうが良さそうだ」


 さっきから、2人ともヒソヒソしとるね。 

 隠しごと無しにするんじゃないんか? 

 多分2人で話がまとまったら、あとで話してくれるだろう。

 こっちのこと私なんも分からないし、まあいっか。


「主に使うのは電話とメールだけ。写真や画像通話、僕のは15秒ぐらいの撮影もできるんだけど。

エネルギーの消費がべらぼうに大き過ぎて。魔素体質でない人間にとって電話とメールでさえも、使用は容易じゃないから。

だから一般市民までは、なかなか普及してないのが実情だよ。

でも家庭用の大きなテレフォンはあるよ。

写真は写真館で撮ったり、出張してくれる業者に頼んだり。個人では撮らないね。

それと各省の中枢と大病院にはコンピューターもあるよ。蛍様の前のおヌル様はスウェーデン人の産婦人科の先生だからね。医療とSDGsがグンと進んだんだ。」


「スマホは蛍様によってもたらされたばかりの文化だ。まだ政府とか、虹の院支給のもとでの使用が中心になってる。

まあお金と魔石や魔力が、潤沢にあれば誰でも購入は可能だが。

俺とクレールは支給されてる。

ちなみに王族のクレールの両親も、その専属侍女の俺の母親も持ってる。それで連絡を取ろうとクレールと話してたんだ。

王宮で暮らしてなくても、王家の人間のテレフォンは全て通話係に聴かれている上に、記録もされてるからな。だが、スマホはその対象外だ。

コニーもいずれ必要となるなぁ」


 おお、そうだ。

 私ってば濡れ手で粟ならぬ、昨夜は両手で魔石であった。

 このまま上手くいけば、この世界では食うには困らぬ、そんな感じになりそうだったではないか。

 コンスタントに魔石が生み出せれば……の話だけど。


「うんそうだね。今はクレールとエタンしか、やり取りする相手いないけど。これから知ってる人増えたら電話やアドレス交換するかも知れないしね。

それに支援指導係とはいえ、始終べったりしてるわけじゃないでしょ? 私も2人への連絡手段を持たないとね」


「僕らどちらかは基本コニーにべったりだよ。安心して」


「え? いやぁそこまでしてもらわなくても、ちょっと慣れたら大丈夫だよ? 言葉通じるし」


「でも」


「どっか住み込みで飲食の仕事でもしてお金貯めようって思ってたんだけどさ。

もしも魔石製造で当面のお金の目処が立つんなら、旅をしながら気に入った土地でしばらく暮らすのも悪くないかな〜なんて」


「そ、それなら余計にだよ! 絶対僕はついていくから」


 えええ〜?! 心強いけど、1人自由気ままっていうのも捨て難いんだよね

 若い頃の南の島での居候、旅のあれこれを思い出す。


 語学苦手な私にとって、外国旅行は語学堪能な友人が頼りだった。

 おしゃべりな私は片翼を封印されたようで、どことなしにもどかしくてコンプレックだったから。


 ああ〜! 言葉喋り放題聞き放題の外国(ある種、間違いではない)旅行って、めちゃくちゃわくわくする〜。


 それに支援指導係だからって、クレールやエタンになんでもかんでも頼りっきりって、ちょっとアレじゃない?

 子供じゃないんだしさ。


「治安も何も分かってない国で不用意な考えで動くもんじゃないぞ。

それにコニーはおヌル様の上に、女の子なんだからな。簡単に考え過ぎたらダメだ」


 うぐっ、ごもっとも……


 確かに浮かれポンチでありました。

 ここが。

 この2人が安全地帯過ぎて、この世界もそうであるかのように勘違いしてた。


「エタンの言う通りです……。ごめんなさい、軽率だったね。

あの、こっちの世界って治安とかその辺どうなのかな?」





--------------------------------------


【次回予告 第58話 この家と街の家】

リンゲル等での魔素やエネルギーの扱い、考え方に、触れていきます。


いつも読んでくださる方々へ


【今回は連載始める前に作者が描いた、コニーのラフスケッチ付き】


近況報告「ヨムヨムさんヘ④ (読み専様宛)」

にて感謝のお手紙書きました。良かったら覗いてみてくださいませ(๑˃̵ᴗ˂̵)

(2023/9/1〜10/4アクセス分)

それ以降のアクセスの方は、もう少し読み進めたらまたこんなのがあります。

♡、コメントお忘れなきよう(*´-`)

準備はいいですか? じゃあ、レッツクリック!


https://kakuyomu.jp/users/ayaaki/news/16817330664677883033

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る