第58話 この家と街の家

「蛍様が言うには、普通だって。外国みたいに物騒な感じではなく、日本のように基本安全。でも悪いやつはどこにでもいるから、それは仕方がないと言っていたね。

それとエコロジー社会の最先端SDGs。だからちょっと昔っぽい、てさ」

 

 日本ぽいのであればひとまず安心かな。

 エコロジー社会なのか……。

 水とか大事に使うし、洗面所でも使い捨ての容器や、ラップも無いしね。

 

「SDGsってなあに? 最先端で昔っぽいって?」


 クレールとエタンが顔を見合わせる。


「この島の普通の住人は、大概のことを手作業で

行っているんだ。衛生的で文化的な生活を送っているけど、自然を壊さずにエネルギーや物資を無駄遣いせず、やれることは極力自分で。魔道具に頼らないってね」


「リンゲル島の主なエネルギーは魔素を変換したものだ。

この光の湖、光の森では魔素は無限に溢れていると思われるが、どんぐらいあるかなんて不明だろ?

地球のもたらす最新の科学化学ですら想像の及ばないものが、この世界には溢れているんだ。解明のできない謎や神秘を享受して、俺らはこの島で生き、暮らしている」


「コニーは植物や海の珊瑚などの生き物が二酸化炭素を吸って、酸素を排出しているのは知っているでしょう?

こちらではそれに加えて、魔素で煌めいた動物・植物が魔素排出を担っていることが判明してるんだ。恐らくこの光の湖自体も。

ただし魔素体質の人間においては、それは当てはまらないんだけどね。そのかわりに魔石が作れるけど」


「だから俺ら魔素体質の人間もなるたけ節約をして、魔素使い放題ってわけじゃない。

そもそも魔素体質でない街の住人の生活様式が一般的だ。太陽光やその他自然エネルギー、魔道具を利用して、エネルギーを少しでも多く集めているんだ。

ほらそこの。タピルラン。運動がてら、めっちゃエネルギー貯まるぜ」


 エタンが指差したのはルームランナー。

 へー! あれ、そういう意味もあるんだ!


「この家はほんと特別なんだよ。

ここは人手もなく不自由だからね。清潔な生活を維持するのに必要な魔道具、そして僕が携わったり研究開発した最先端の便利な魔道具に溢れてる。

巷にあまり出回ってないものや、ここだけで使用や維持が許されているものもかなりあるんだ」


 そうだったんだ! なるほど〜!

 どうりでスペシャルで見たことのない、ミラクルな魔道具に満ち溢れてると思ったよ。

 地球と全く遜色のない電気製品のフルコンボとか。

 多分、街はもう少し素朴な暮らしなんだな、きっと。

 

「僕は自分の意思で、ここに住んでいるんだけどね。虹の院や国からも、ここに住んで欲しいと思われているんだ。王家森番として。

魔素がたっぷり溢れるこの湖の畔に、ずっと滞在出来る人間は少ないから、僕が適任ってわけ。

しかも、僕の能力が最大限に発揮される場所だからね。

魔道具回路の研究開発には、魔素がたくさん必要だし、僕は魔石も毎日生み出せるから」


 ここで暮らすことは、クレールにとって仕事でもあるんだね。

 滞在客が多いのは隠居生活然とした、クレールに会いに来ている意味もあるのかもしれないな。

 そしてクレールもまた、丁寧な数々のおもてなしグッズを準備していることも……。


「なあ、コニー。これから湖へ散歩に行かないか?」


「え? ほんと?! 行く! めっちゃ行くよ!」


 あれ以来外に出てない。

 近くで不思議な湖も見てみたい!


 それから、話し合いにの結果、私は万が一他の人に見られてもいいように変装することになった。

 クレールの親戚の男の子として。

クレール筋イコール王家関係だから、誰かに会っても深く突っ込まれないだろうってことで。


 なぜ男の子かというと、興味を持たれないように、だって。


 基本的に光の湖の職員は力仕事ということもあり、男性だそうで。

 魔石も作れるし国家公務員なので、この職業の男性は、めちゃくちゃ女性にモテるとのこと。

 そんで女性職員が、いわば隔離されたこの泉の森の空間にやってくるとなると……。

 ターゲット目当ての肉食女子が殺到したり、互いに男女風紀が乱れるので、女性は夫婦限定、隣棟の家族寮ヘ入居となったそうな。


 つまりフリーの女性はほぼ見かけない実状。

 

 100年ごとのおヌル様がお呼ばれする前後は、女性職員も大量雇用待機となるらしいけど。


 あと日本人アジア人的な顔について。


 この世界に日本人顔は蛍様だけ。

過去日本からお呼ばれした雪之丞様は、子供は無く、子孫がいないからとのこと。


 冒険家かつ民族学者であった5人目のドイツ人おヌル様。

 彼の見解によれば、アメリカ人初代様に次ぐ2人目のおヌル様は、インドネシアのどこかの小さな島出身ではないか? と仮説を立てている。

 なぜなら彼自身が、自分がどこの国からきたのか把握していなかったからだ。

 彼のもたらしたもの、肖像画、残された文献などを紐解いて、そう判断したようだ。

 

 私の日本人にしては彫の深い、クウォーターふうの顔は、色の白いインドネシア系でイケるのでは? と2人に言われた。


 なるほど。

 インドネシアの方の顔特徴は私にはまるで分からないが、もっと若い頃にバックパッカーの人から、「ウイグル族の美少女っぽい顔だね」と想像できないけど、なんか褒められたことあるし。


 煌めいてない人間が湖にいることは怪しくないの? 

  その問いには、見えないところに魔素体質の特徴が出る人もいるから大丈夫、と答えてくれた。


 軽く本日の予定の打ち合わせが終わったとこで、

よっし! それではみんな行動開始! となった。


 なんかしゃべってるクレールとエタンを残し、私はそそくさと自室に向かった。 


「若い日本人なのに、スマホやSDGsを知らないなんて。たまたまか、それともなにかあるんだろうか。ともかくなるべく早く蛍様との面会を取り付けたいところだね」



 

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次回! くるよ、きますよ! タイトルに偽りなし!

ようやっとコニーのオヤツ作り回が(๑˃̵ᴗ˂̵)

はかり無しで作るシンプルなマフィン2種です。


【次回予告 第59話 オヤツの準備】


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