第54話 丸まったお姫様 (クレール視点)

 ***(クレール視点)


「コニー? 寝ちゃった?」


「みたいだな……。部屋連れてくか」


「あ、僕が」


「いや、俺が。クレールはドア開けたり灯りを頼む」


 ソファーにもたれ脚を上に乗せて、あっという間にすーすー眠ってしまったコニー。


「……分かった。少し待っててくれ。ネックレスを」

ネックレスの満タンな2つの魔石と取り替えるために、からの魔石を持ってくるからとエタンに告げ、2階に行った。


 魔石を手にし、階段を降りる前にふと、なんとなしに手すりに近寄って2人のいる下を見下ろした。

 エタンはソファー机を押しやり、その隙間にコニーを覗き込むようにしゃがんでいた。


「なんだか丸まってて可愛いな」


 そう独りごちて、壊れ物に触るように、そっと彼女の頭に触れていた。


 なんだか僕は親友のポケットの中を覗き見てしまったような、落ち着かない気持ちになった。

 例えそれが、糸屑や、噛んだガムが包まった紙切れや、小銭が入っているだけだったとしても。


 アイツ、初等科の遠足で行った「触れ合い広場」でモルモットを長いこと膝に乗せて、ああして撫でて可愛がっていたっけ……。


 20年も前の、忘れていた幼い頃の思い出がなぜか頭に浮かんで、僕は階段をいそいそと降りていった。


「お待たせ」


 魔石を補充したネックレスを彼女の首元にへと付け、エタンが起こさないように膝裏へ手を差し入れ抱き上げた。

 2人してかど部屋に向かい、寝台へとコニーを横たえる。


  彼女の結んだ髪を解く。

 チェストにクッキーの髪飾りを置いた。

 洗いたての濡れた髪は思ったより長くて意外だったな……乾燥ブラシをしたときの、2人で過ごしたあの時間を反芻する。

 こうして乾くとふわふわで、波打ってるせいかもう少し短く見える。


「おやすみコニー、良い夢を」

髪の一房を手に取りキスを送る。


 家族でも髪にキスはすることだ。

許されるだろう? きっと。


 小さな頃、家族皆が「私の小さな光の妖精ちゃん」そう僕を呼んで、しょっちゅう頬や頭や髪にキスを送られたものだ。

 母上と姉上を筆頭に、父上と兄上からも。

 初等科に上がった頃には、さすがに僕も照れ臭くて拒否ったが。

 母上は隙あらば仕掛けてきたけど。


 中等部以降は家族にもされなくなったし、自分でいうのもなんだが、僕の髪は目立つ色の上に、魔素でキラキラしてるから触りたがるやつが多くて、とても嫌だった。


 そういえば、髪にキス。

 恋人にしたこともさせたこともなかったなぁ。


 てことは……コニーに無許可でしちゃダメだったってことか……。

 ま、まあ、うん。

 よしとするか。


 湖に面した大きな窓を不透明な壁にし、暗くする。

 明り取りの丸窓はそのままで。

 最後に照明を消し、もう一度彼女を振り返る。


 丸窓から差し込む夜の淡い光は、さながら小さな星の小さな月のようで。

 布団にこっぽり包まってすやすや眠る彼女は、甘やかな月の光が降り注ぐ、隠された御伽噺の小さなお姫様みたいだと僕は思った。


 誰にも見られないように、自分だけの秘密にしたくてお姫様を連れ去る悪役のドラゴン。

 僕が子供の頃よく読んでた絵本だ。

 まさか助け出す王子じゃなくて、この歳になってドラゴンの気持ちに共感を覚えるとは。

 

 ドアを開け部屋を出て行く間際。

 僕の背後で、宝物を捧げるようにそっと。

 彼女の髪の一房を手に取るエタンが、視界の端に入ったような気がした。






 エタンと2人居間に戻る。

 お互いの定位置のソファーに腰掛けた。


 僕も、そして多分エタンも。

 2人とも、コニーの独白に胸が痛くなっていて、口を開けずにそのまま座っていた。

 不意にエタンが話をし始めた。


「俺さ。この世界で最初に出会った俺たちが、コニーの縁とゆかりになるって。

あの子にそう言っただろう?

あんな話聞いちまったら、なんつーの。

この世界つうか、全ての、この世の丸ごとにおいて。

絶対味方になってやりたい、なんてガラにもなく思っちまった。

まさか結婚前に父性に目覚めちまったってヤツか?

それかさ。初等科の頃、お前と2人で雨の中拾った、あの時の猫の子と同じ保護欲か? 雨より酷ぇヌルヌルまみれだったしな。

はは、どっちにしろ支援指導係として大事にしてやりてーなぁ」


 エタン。

 それは父性なのか? 妹のエレオノーラにだってそんなの感じなかっただろう?

 猫、そう言えばそんなことあったな、懐かしい。

 保護欲ねぇ、お前面倒見いいもんな。

 しっかし係って……俺の護衛係も昔っから片手間感丸出しだっただろ? 


 まあいいさ。

 いつまでもそういうことにしてたらいいエタンセル。 

 でも僕は、お前だったらライバルとして不足はないから、いつでも歓迎だ。


 そんなにやけた顔でコニーの話すんな、バーカ。


「ああ、そうだな。僕もそう思うよ。エタンに賛成だ。

だが確か蛍様も地球で家族や居場所が無かったんだよな……共通項がそれって……虹の方様は実は単なる誘拐犯ではないのかもしれない、なんてな?」


「こればっかりはわっかんねーな。とにかく早めに蛍様とは会わせてやりたいな」


「本当にそうだな……」

 

 



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クレールドラゴン、エタンセルタイガー。

コニーを守る龍虎爆誕ですね(๑˃̵ᴗ˂̵)


クレール視点もう1話続きます。


【14話 目覚め】の伏線回収であります(⌒-⌒; )

https://kakuyomu.jp/works/16817330657176740967/episodes/16817330657237337511

(お忘れの方に一応リンクを)


【次回予告 第55話 Fée de clarté (クレール視点)】

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