第11話 使ってみよう

「さてと」

 お言葉に甘えて色々お借りして、スッキリしてとっとと眠りたい。


 トイレは日本の良いやつと同じだった。

 便座もほんのり温かい。


 中国、モンゴル、トルコ、アメリカ、イギリス、フランス、モルディブ、メキシコ、フィリピン、タイ、エジプト……

 色んな国でいろんなトイレに入ったけど、日本の近代トイレが一番快適じゃ~。


 日本のしゃがむぼっとん便所も、最低最悪の部類じゃ全然ないと思うよ。

「怖い臭い緊張感ともなう」けどそこまで汚く使うシステムじゃないじゃん。

 深くて覗かなきゃブツ丸見えじゃないし。

 使い方っていうか国民性っていうか。

 水洗トイレが流れないままで汚染の限りを尽くすトイレや、座る便座がどうやって使ったらこんなに汚せるんだってなっちゃってる恐慌状態トイレや、家二軒分ぐらいのだだっ広い敷地をただ塀で囲ってトイレですって、どないしたらええねんトイレとか。

 みーんなまとめていっそ野〇〇の方が快適ってヤツ。

 ばっちぃの上には上があるんだよね!


 そんな事考えながら脱衣コーナーへ。


 洗濯屋って多分……。

 疲れてる私をおもんばかって、さりとて男の自分が女性の下着に触れるのもって、配慮なんだろうなぁ。

 ありがたいことです。


 脱いだ服はいつもは、裏返ったそのまんまクシャリ籠ポイだけど、今日はちゃんと畳んで、パンツとブラと靴下は服と服の間に隠すように挟んだ。


 ネックレスは……なんか怖いし、外すよう指示されてないからつけっぱなしにしといていいよね。

 ぜひそうしたい。


 いざ湯殿ゆどのへ。


 ジャグジーをつけてボコボコお湯がいってるせいか、湯気も香りも温かさもさっきより増してる。


 サッと洗って早く中に入りたいな。


 シャワー、お湯を出してちょい待ちしなくてもすぐ温かい、優秀。

 椅子をお借りして……。

 おお、彼ら脚が長いせいか普通に椅子の高さ。

 介護用の風呂椅子みたい。

「ごめんね、お世話かけるね、ありがとう」そう私に言った、力無い母の顔を思い出して胸がぎゅっとなった。


 ヘアゴムを外し三つ編みを解く。

 まずは卵白をよくすすがないと。


 シャンプーは普通にポンプ式で、きめ細かな泡で出てきた。

 無香料……良いね。

 天パ猫っ毛だからからみつきが心配だよ。

 実際のところ、今まで試しに試しまくった結果、こんがらがらない、無香料(微香料)ノンシリコンでちゃんと洗浄力のあるシャンプーは、ほんの数種類しか見つかっていないんだよね。

 ただし出せて最高三千円までだけど。

 しかしまあ今回絡まってアウトなら、いつものようにばっさり切ってショートカットにすれば問題なし。

 贅沢言っちゃダメダメ。


 ふおおおお~良いではないか!

 お湯で流してもからまってこない!


 リンスいってみよー。

 微香料、植物由来、ユーカリ的な&ヒノキ的な&ローズマリーも?

 花っぽさは感じられず、男の人らしく甘さは無い。


 髪を丸めてくくって浸透させてる間に身体を洗う。

 この石鹸は昔使ったことのある、フランスのオリーブ石鹸に似てる。

 マイルド~。


 ではリンスを……すすいだらほぼ香りが残らなかった。

 とても良いね、ツルっとしてモジャけてない。

 さすがうるツヤ髪のクレールさんお薦めなだけある。

 きっとお高いんでしょうねぇ。


 顔もこの石鹸の泡で。

 さすがのクレールさんも基礎化粧品系は出てこないかな?

 彼女or元カノとかの貸してくんないかな~?

 図々しさを召還して、お風呂から出たら聞いてみようっと。


 待望のジャグジー様……。


 恐悦至極きょうえつしごくにござりまする。

 とろける~。


 江戸っ子だから熱いお湯好きだけど、今日はこのぐらいでゆっくり温まっていきたい。


 本日二度目のお風呂、日にちまたいでるけど。

 言い換えれば今夜や二度目の……ええぃ、こっちは朝なのかーい。


 ふぅう……温かくて気持ちいい…


 このシャンプー&リンス良かったな。

 二人の髪の毛や瞳の煌めきはほんと不思議だよね。

 魔素だっけ?


 クレールさんのあんず色のストレートの長い髪ったら、惚れ惚れするほど艶っつや。


 エタンさんの、暗めな焦茶色で無造作ゆる癖毛長髪に無精髭ぶしょうひげ

 ワイルドでちょいワル風なくせして、魔素でキラキラな上にキューティクルで天使の輪出来てるし、髭もむっさいのに艶があるってどういうこと?


 昔見た「カリフォルニア」ってロードムービー・バイオレンス映画の、イカれたサイコパス役だけど悶絶級にカッコいいブラピを彷彿とさせる。

 しかもその上をイってると思う。


 あえて気軽なことをつらつら考える……


 二人とも朝起きて着の身着のままで飛び出して来てくれたんだろなぁ。

 パジャマ姿に家着姿で、髪もかしてなくっても、颯爽としてカッコ良くて、でもチグハグな感じがちょっと滑稽こっけいで、それが私の警戒心を少し溶かしたように思う。


 なるべく一番大事なこと考えないように遠ざける……


 何で私こんなとこでいま風呂入ってんのかなぁ

 いつ戻れるのかなぁ

 ヌルヌル落としたからもう戻れるかなぁ

 寝て起きたら戻ってるかなぁ


 楽観さを満たした湯船に、ボコリボコリとあぶくが絶え間なく湧き、パチンパチンと割れて中から不安がはじけ飛ぶ。


 意識が……

 

 なぁ……なぁ……と自分の問いかけにエコーがかかるように……


 遠ざかる……






【次回予告 第12話 コーヒー (エタンセル視点)】


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