第2話 深夜の工場
仕込んでおいたショコラのムースの上に、出来上がったフランボワーズのムースを絞り袋で絞り入れ、パレットナイフでならす。
三台分の載ったバットを二枚、計六台を冷凍庫にしまう。
はふうぅ……
疲れがどっと押し寄せる。
ちらっと壁の時計を見上げると、
深夜1:13
さっきラジオで番組が切り替わって一曲終わったところだから、まあそんなもんだろう。
あともうちょいやるか……
コニーこと私、
いつも朝は八時過ぎに起きる。
そう早くはない。
なぜなら早起きすると、一日が長すぎてラスト立ってるのがしんどいからだ。
起きてすぐ工場に行く。
そして閉店20時過ぎまで、12時間トイレ以外座らない勢いで立ち仕事をして過ごす。
閉店後はベランダで繋がった隣棟の居住スペースへ帰って、急いで夜ご飯とお風呂を終えて、22時には布団に入って仮眠をとる。
そして零時ちょい前に起きて工場に再び向かい、日中に接客しつつ進めていたケーキを仕上げるのだ。
終業は深夜二時程度を目安にしている。
今日は気持ち早く終わったとはいえ、もはや立ってるのもつらい。
流しに突っ込んだ器具を洗うのはいつものごとく朝にして、もうちょい座り仕事をすることにしようかな。
業務用冷凍庫脇に張り付けてある数枚のメモ用紙、そのうちの一枚を手に取った。
思いついた時点でその都度書き足して、まとまりつつあったKCフーズへの材料注文メモだ。
送料無料規定額に達するまで、不足分あと約四千円。
ケチ臭いがそういった節約が大事だと常々思っている。
私がたった一人で切り盛りするこのケーキ屋は食材にこだわっている為、儲けが少ないのだ。
ケーキ屋といっても、古い揚げ煎餅工場の一画、段ボール置き場のさらに奥、昔の社員用の食堂だった場所をリフォームして作った、お客さんに「怪しさ満点」と称される店だけれど。
ふむ。どうせなら常備品を追加で過剰にまとめ買うよりも、新作の為に使うものを買い足そうかしら。
よっしゃ!
師匠が毎年行なっている新作発表講習会の
ファイル二つに分けるべきところ、面倒くさがってその一冊に毎年追加しまくって限界越えの盛り盛り特盛ファイルだ。
どっこらしょ、と小脇に抱えて振り向いた斜め後ろ、視界の端にザルを載せたボールが目に映り込む。
ボールの中身は裏漉した卵白。
あ、卵白忘れずにしまっとかなきゃ……
さてと……うーん……
前から作ってみたいと思ってたアレやってみようかなぁ。
それともこの季節ならあっちのほうがいいかなぁ……
新作のお菓子についてぐるぐると考えあぐねつつ、ファイルを左脇に抱えたまま、すぐそばの冷蔵庫に向き合った。
前回ほんの少ししか中身を入れずに冷蔵庫にしまってあった、大きな容器にその卵白を追加する為に。
扉をパッと開け、サッと上段にあるバケツ状の容器の取手を片手で掴む。
「冷気の放出は最低限に素早く」これ大事。
軽いから片手でヒョイ。
と思った瞬間
「えっ??!!!」
何が起きたか一瞬分からなかった。
【次回予告 第3話 青天の霹靂】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます