【1話完結】山手線がくれた甘い恋の魔法

空豆 空(そらまめくう)

山手線がくれた甘い恋の魔法


 カタンカタンカタン カタン……


 私は今、背中にぽかぽかと暖かい陽射しを浴びて、電車に揺られている。


 カタンカタンカタン カタン……


 私は、金曜日のこの時間がだいすき。

 だって……



  プシュー


 ドアが開いた。


 ほら、だって。

 ここから私の幸せな時間。

 彼が……乗ってきた。



 カタンカタンカタンカタン……

 ドキドキドキドキ……


 いつも、彼は座ってる私の斜め前に立つ。


 顔なんて見れないけど、もう、それだけでドキドキしてしまう。


 カタンカタンカタンカタン……

 ドキドキドキドキ……


「次は〜◯◯駅〜◯◯駅〜」

 車内に流れるアナウンスの声。

 すると、ほら。


 私の隣に座ってるおじさんが、降りる準備をするために立つ。そして――


 ストンッ――


 彼が、私の隣の空いた席に座った。



 カタンカタンカタンカタン……

 ドキドキドキドキ……


 金曜日のこの時間、いつも隣に座って電車に揺られているうちに、いつの間にか好きになっていた。だから、会話なんてない。もちろん名前も知らない。


 けれど、言葉も交わさず隣にいるこの距離だけで、私はいつもドキドキしてしまうんだ。


 カタンカタンカタンカタン……

 ぽかぽかぽかぽか……

 


 え、うそ。彼が……

 眠ってしまった。


 私の肩に感じる、彼の重み。

 私の頬に感じる、彼の柔らかい髪。


 カタンカタンカタンカタン……

 ドキドキドキドキ……


「次は〜□□駅〜□□駅〜」


 あ、どうしよう。そろそろ降りる駅。


「□□駅〜□□駅〜」


 プシュー



 あ、どうしよう。降りられ……なかった。

 だって、この幸せな時間を手放したくないんだもん。



 いいや! 今日の講義はサボっちゃえ。

 このまま、山手線を一周しちゃお……



 



 駅はどんどん過ぎて行く。




 カタンカタンカタンカタン……

 ドキドキドキドキ……


「次は〜○□駅〜○□駅〜」


 相変わらず私の肩には彼の重み。

 私の胸はドキドキしてる。


 そういえば、彼は何駅で降りるんだろう?

 起こさなくていいのかな。




 カタンカタンカタンカタン……

 ドキドキドキドキ……


「次は〜□△駅〜□△駅〜」


 ピクッ ……


「あ! ごめんっ!」


……彼が、起きた。


「いえいえ。大丈夫です。ところで、ずいぶん寝ちゃってましたけど、……降りなくて大丈夫でしたか?」


 ドキドキする胸を抑えて返事した。


「あ! しまった〜降り損ねたー。いや、それよりも。君こそいつも降りる駅過ぎてるよね? ごめん! 俺のせい?」


 申し訳なさそうに頭を掻きながら言う彼。



「あ、大丈夫です。今日は天気がいいから、このまま山手線を一周しちゃおうかと思って」


 彼が可愛くて、思わず笑みがこぼれる。


「あ……そか。ごめんな。俺も……このままもう一周確定」


 バツが悪そうに言う彼に、「あはは」と答える。



「ねぇ、君、もしかして△△大学の学生? いつもあの駅で降りるよね。俺は×◯大学なんだ」



 信じられない。

 これは、山手線がくれた魔法?


 降り損ねた駅からの約60分。

 彼との距離を縮める時間になった。



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【1話完結】山手線がくれた甘い恋の魔法 空豆 空(そらまめくう) @soramamekuu0711

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