隣の美少年を食べたい

武州人也

隣の美少年でお腹を膨らませたい

 「恥の多い人生を送ってきた」……なんて言うほど恥じらいのある女じゃないけど、他人様ひとさまにあまり言えないようなことが多い二十数年間だったのは確かだと思う。


 とりあえず大学に進学したけど、就職活動始めた時期には例の新型ウイルスが大流行。就職に難航した挙げ句、入った会社は一年もたずに辞めてしまった。


 まともに稼ぐ能力がなかったもんで、お金を持ってる中高年男性とデートして大金をもらうやつで生活を立てていた。Pがつくあの活動。多分、普通に就職した同期の子よりも口座にお金はあったと思う。


 その後、運よくが上手くいってしまって、都内のタワーマンションの一室と働かなくても生きていけそうな額の大金が手に入ってしまった。


 贅沢をしようと思えばできた。でも私はヘンに臆病でケチくさい性分なもんで、酒池肉林! みたいな派手な金遣いはしなかった。何分稼ぐ能力はゼロなので、「派手に散財して文無しになったら終わりだ」という危機感を常にもっている。そのおかげだ。


 そんなもんで、私は怠惰な暮らしを送ってきた。いつも大体家でゴロゴロしてスマホをいじってる。たまに出会い系アプリで男を釣ってセックス。こっちの身元は明かさない。あくまで体だけの関係。金をたかられて食いつぶされるリスクは潰しておきたい。


 変わり映えはしないけど、穏やかで波風の立たない生活。そんな毎日が一変したのは、隣にファミリーが越してきたのがきっかけだった。


 隣に転居してきたのは、中年夫婦と一人息子だった。廊下で会ったとき、夫婦の方は物腰柔らかい風に挨拶してきたけど、息子さんの方は不愛想というか引っ込み思案な感じで、何も言わずドアの奥に引っ込んでいった。


 息子さん……畠山はたけやま響輝ひびきくん。彼は私の退屈で平穏な人生に舞い降りた天使だった。


 こんな愛らしい少年が、この世に存在したのか、と思った。まるで幻獣のような存在だ。大きくぱっちりした両目は形がくっきりとしていて、目尻はやや上がっている。その目はやや細い眉と、くるんと巻いた長いまつ毛に守られている。鼻筋は高く、小さな口元は上品で、まるで彫刻のような輪郭をしている。ストレートの前下がりボブはサラサラで、手でいてみたくなっちゃう。


 かわいらしく、クールで、儚げ。そんな言葉が似合う美少年だった。私は寝ても覚めても、響輝くんのことばかり考えるようになった。彼への激しい情欲の炎が灯るのに、さほど時間はかからなかった。


 響輝くんがマンションのエントランスを出る時間に合わせて、私はゴミ捨てに行くようになった。私はいつも胸元が見えるエッチな服を着て、ゴミ捨て場の前を通る響輝くんに「おはよう」って挨拶する。響輝くんはきまって小さな声で「おはようございます」と言って、そそくさと離れていってしまう。私はその態度に、警戒心を感じとった。ただ単に大人が苦手なのか、それとも私が最悪な人間であることを何となく察知しているのか。


 そんなつれない態度の響輝くんに、私はより一層のめり込んでいった。もう男漁りなんかどうでもよくなった。セフレとの関係は、ほとんど自然消滅に近い形で切れた。まぁ、どうせ向こうも新しい女を見繕ってるでしょ。


 響輝くんとキスを交わしたい。あのかわいらしい唇に熱い口づけをして、口の中を舐め回したい。それから、彼の細い首を撫で回したい。服を脱がせて、白くて薄べったい胸板に手を這わせたい。


 響輝くんとエッチしたい。あの不愛想だけどきれいな顔を、思いっきりとろけさせたい。未知の快楽でとろとろにして、脳みそを快感物質でいっぱいにしたい。死ぬほどイキ狂わせて、出すもん全部搾り取ってやりたい。


 私、本気で頭おかしいんだと思う。彼とエッチしたいし、彼との子どもだって産みたいと思ってる。理性ではダメだってわかってるけど、本能が彼を求めてやまない。


 あー、どうすれば響輝くんとセックスできるかな。彼も男の子だし、一発ヤッちゃえば簡単に落ちそうだけど、きっかけが難しい。胸元谷間チラ見せ作戦だけじゃ、警戒されてるっぽい現状を打破できない。もしかしてまだ、女の人に興味を持ち始める前なのかも……


 そんなある日……私は絶好のチャンスをつかんだ。正午すぎ、昼ご飯を買いに行こうとしたら、ちょうど廊下の向こうから響輝くんが歩いてくるのが見えた。相変わらず、きれいな顔をしている。中性的というか、女の子よりも美少女してるんじゃないかってぐらいかわいい。


 帰ってくる時間が妙に早いな……と思ったけど、そういや学校には午前中でおしまいの日とかあったな。今日はそうなのか。


「あっ、畠山さんのお子さんよね?」

「えっ、あっ、はい」


 すれ違う手前で、声をかけた。響輝くんは急に呼び止められて戸惑っているようだ。そんな様子もまたかわいらしい。今すぐ食べたい。

 

「実はさ、お米たくさん届いちゃって、おすそ分けしようと思うんだけど……今日お母さんいる?」

「あ、今はいません。お仕事なので、多分夜になっちゃうと思います……」


 あら、意外。畠山家の生活ぶりから、母親は専業主婦だと思ってたんだけど、もしかして共働きだった? でも旦那さんの稼ぎだけでここに住むってのは難しそうだし、奥さんは今までリモートワークでもしてたのかな。例の新型ウイルスが落ち着いてきて、リモートワークやめちゃう企業とかもあるっぽいし。


 ……それにしても、うっかり屋さんだなぁ響輝くん。私みたいな悪い虫にそういうこと教えちゃあ。いくらお隣さんで、隠し事しづらいからって。


「まぁいいや、ちょっとそこで待ってて」


 そう言って、私は自分の部屋に引っ込んだ。そしてキッチンからお米5kgを持ち上げると、急ぎ足で玄関を出た。


 このお米、本当はもらったもんなんかじゃなくて、自分で買ったものだ。まぁこんなもの、後でまた買えばいい。


「ごめんね~。お待たせ」

「ああ、すみません」

「これ重たいからさ、おうちの中まで持ってってあげるよ」

「えっ、そんな悪いですよ」

「いやいや、私これでも結構力あるし。さぁさぁ」


 私に急かされて、響輝くんは渋々といった風に鍵を開けた。そしてドアを開け、私という悪い虫を招き入れてくれた。


 中は私の汚部屋が恥ずかしくなるぐらい小綺麗だ。端的に言って、丁寧な暮らしをしてるんだなぁと思わされる。


 キッチンの床にどかっとお米の袋を置いた私は、勝手にソファに腰かけた。


「響輝くん、だよね」

「あ、はい」

「響輝くんもモンスターハンティングやってるんだ」

「はい……5のときからやってます」

「へぇ~そうなんだ……私もやってるんだけど、知り合いにやってる人いなくてさ、なかなかソロだと強いモンスター倒せないんだよね……」


 私は充電器につながれているゲーム機に大人気狩猟ゲームに出てくるドラゴンのシールが貼ってあるのを見て、それを会話の取っ掛かりに利用させてもらった。そのゲームは私が子どもの頃から今までずっとシリーズが続いてるから、私も知ってるしやってたこともある。最近はやらなくなっちゃったけど、ついこの間まではセフレに勧められてプレイしてた。


 ホントはすぐにでも響輝くんを押し倒してアレコレしたい。でも、まずは普通に会話して警戒心を解かないと。親しみさえ覚えてもらえば、後はこっちのものよ。急がば回れ。私の好きな言葉です。


「だからさ、お願い。フレンドになってほしいな」

「え、あ、はい……いいですよ」

「今ゲーム機持ってないからさ、RINEリィネの友達登録してくれないかな。そしたら後でフレンドコード送るから」

「あ、はい」


 響輝くんはテレビ台の上に置いてあったスマホをつかんでソファに腰かけた。響輝くんは遠慮がちに、人一人分あけて私と反対側の端っこに座っている。


 響輝くんのスマホ、これ最近出たばっかりの新しい機種だ。やっぱお坊ちゃん育ちなんだなぁ。金持ち美少年とか超絶にエロいわ。絶対に落とす。


 私も左手でスマホを取り出して、響輝くんと距離をグッと詰めた。そして体を傾けてスマホを近づける。このとき私は、響輝くんの左肩におっぱいを当ててやった。


 私の武器は、この母親譲りのメロンサイズおっぱいだ。響輝くんの表情はこの体勢じゃよく見えなかったけど、多分少しぐらいはこう……グラッと来ているはず。もうちょっと攻めてやれば、赤ちゃん作りたくなって下半身に血が集まったりするかな。


 そうして、私たちは互いのアカウントを友達登録した。しめしめ。私は火を吐くドラゴンとか雪山を泳いでるサメとかじゃなくて、響輝くんをハンティングしたいんだよね。


「響輝くんさぁ、普段はどうしてるの? 響輝くんイケメンだし……カノジョとかいたりして」

「いや……さすがにいないです」


 それを聞いて、私はホッとした。同時に私は、もうほとんど心の中から消えかけていた嫉妬の感情が自らの中に巣くっているのを自覚した。同年代のクソガキ女たちに響輝くんを取られたくない。そうなる前にさっさと大人の階段を上らせて、周りの女じゃ我慢できないようにしちゃいたい。これでも私は大学時代からの遊び人で、童貞イーティングにも慣れているから、寝室での格闘では負けないつもりだ。


「そっか……じゃあいつもは男友達とゲームとかして遊んでるの?」

「はい……テレビ電話つないで、何人かで会話しながら一緒にモンスターハンティングやったりします。僕ヘタなんで、みんなより狩人ランク低いんですけど」

「へぇ~……」


 私も、響輝くんと遊びたいな……そう言って、そっと肩を抱き寄せる。それでエロいムードにするはずだった。残念ながら、「私も、」と言いかけたそのタイミングで、響輝くんのスマホが鳴り出した。電話みたいだ。響輝くんはしばらく通話した後、


「友達に誘われて、ファミレスでお昼食べることになりました」


 と言った。そう言われては、さすがに引き下がらざるをえない。残念だけど、今日はここまでのようだ。


「そうなんだ。それじゃあ私はこの辺で失礼しようかな」

「あの、お米ありがとうございました。後でフレンドコード送っておきますね」

「ありがと。今度ひと狩りしようね」


 そんなやりとりを経て。私は自宅へと戻った。リビングのソファに寝転んだ私は、ニヤニヤが止まらなかった。


 ああ、エッチ。エッチしたい。響輝くんとエッチしたい。あの白い肌が興奮で熱を帯びて、赤く色づいていくのが見たい。呼吸を荒くして、切ない顔をして、快感の波におぼれていく姿が見たい。女の子よりも美少女している彼が、オスとしての本能に抗えなくなる姿が見たい。子孫を残そうという生殖本能の命令に従って、己の種を植えつける響輝くんが見たい。


 本丸には迫れなかったけど、外堀は埋められた……と思う。次こそはきっと大将首を狙いに行く。なぁに、響輝くんは死んだりしない。むしろその逆で、私の中に響輝くんの遺伝子を継いだ新しい生命が誕生するだけだ。


 ……もしことが思い通りに上手く進んだとして、本当に響輝くんの子ができたらどうしよう。さすがに認知はさせられないし、一人で産み育てることになるのかな。お金ならいっぱいあるけど、金だけあれば育てられるもんじゃなさそう。


 最近は国もなりふり構わなくなってきて、色んな子育て支援制度があったりする。だから、シングルで婚外子出産でも一人ならなんとかなるかな……? 私みたいなどうしようもない外道畜生の類でも、立派に少子化対策に貢献できるんだからサイコーじゃん。


 ……いや、そもそもそういう問題じゃない。せっかく響輝くんの遺伝子を継いでるのに、私みたいな最悪人間を親に持ったら子どもが可哀想な気がしてくる。私、自分で言うのもアレだけど、本当にしょーもないクズだからなぁ。


 まだ一線すら超えてないのに、こんな妄想をしてもしょうがない。さて、次はどうするかな。とりあえず交流するために、今晩一緒にモンスターハンティングしようかな。まぁ、ゆくゆくは私が響輝くんのことをハンティングしに行くんだけどね。


 よーし、絶対エッチするぞ!

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隣の美少年を食べたい 武州人也 @hagachi-hm

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