第38話

 アリドーシの車に乗り込みしばらく経った。長く続いていた巨木のアーチの先に光が見えてきた。まるで長いトンネルがやっと終わりを告げるようだ。マキーノは本当に森の国なんだな、とダリルは改めて思った。

 森を抜けると一気に陽の光が広がった。久しぶりに太陽光を直に感じている気がする。先ほどの緑と対照的に広大な乾燥地帯が広がっており、赤土の地面や岩肌が露出している。陽もすっかり昇っているようで、振り返るとマキーノの緑が一層鮮やかに見えた。

「一見すると荒野だろう。マキーノから突然木々が生い茂り出すが、このグルヴェイグからは突然緑が少なくなっちまう。緑はあるにはあるが乾燥に強い植物ばかりだな。」

 アリドーシはダリルの心を読んだようにそう話し出した。

「マキーノを森の国とするならば、グルヴェイグは岩の国だな。鉱山資源が豊富で、鉱山の国なんて言われたりもする。中でもゴルディア領はグルヴェイグで一番の規模だ。」

「大きな町なんですね。そんな大きな町で病気が流行ってしまうと大変ですね。」

 アリドーシとダリルはこれから先、自分たちの身に襲い掛かりかねない病魔を警戒していた。

「ゴルディアは人ヒト系統の者も多く住んでいる。そうしたことも関係したのか。いや、でも分からないな。鉱物資源が豊富なのの裏返しもあって、火山地帯が広く分布していてな、ダリルはあまりなじみがないかもしれないが「温泉」ってのが有名なんだ。」

「おん..せん..?」

「そう、「温泉」。簡単に言えばでっけぇ風呂だな。いろんな成分が溶け出た温泉に入ると身も心もリラックスするんだ。「湯治」なんてものもあるくらい効果があるんだぜ。」

「でっかいお風呂ですか。話には聞いたことがあります。お湯を溜めるものですよね。」

「おっと、そこからか。確かに湯を溜めて入る方が珍しいのかもな。」

「大きなお風呂にお湯を溜めるとなんだか贅沢な気がしちゃいますね。」

「なぁに、一人で独占するわけじゃないさ。みんなで入るのさ。」

「!?みんなで?」

「そうさ。もちろん性別で分かれるのが基本だがな。」

「そのお風呂ってのにみんなで入るんですか?!てっきりお風呂は裸で入るものだと思ってました。」

「いや、裸だけど?」

「え!?裸で、大勢で入るんですか?」

「そうだとも。なんら不思議なことじゃないぜ。」

「え!?」

「基本、近所の知り合いや見も知らずの者たちと一緒に入るもんだぜ。」

「は、裸なんですよね?!」

「そんなに変なことじゃないだろ。だって風呂に入る時に服なんて着てたらおかしいだろ。」「た、確かにそうですけど。その、他人とお風呂なんて一人でシャワーを浴びられるようになってからは一度もなかったので。それに、知らない人や大勢でだなんて…。」

「おやおや、ダリルちゃん。もしかして、そういった経験はまだまだ浅いのかな~。」

 アリドーシがしたり顔でダリルをいじっている。どこか張りつめていた空気が少し和んだ感じがした。ダリルは妙にどぎまぎしながら赤面した。

「まぁ、でもだ。そうした衛生施設が他よりは発達している国なんだ。だから、伝染病とかそういったものはあまり縁がないとも思っていたんだがな。」

 アリドーシはすっと真面目な声の調子に戻り考察した。

「さぁ、ここからは基本昇り道だ。この先がゴルディアだ。」

 ダリルたちの眼前には大きな山が聳え立っており、遠くには噴煙だろうか、煙がたなびいていた。

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夕陽色の瞳 寛ぎ鯛 @kutsurogi_bream

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