お母さんと私
女の子:…おじさん……
なんでお母さんにあんなにひどいことをしたの?
-パトカーの窓越しに話しかける
女の子:お母さん、なにも悪いことしてないよ!
私がおじさんにぶつかったのが悪いんだから私を殴ってよ!
何か言ってよ、おじさん!!
-パトカーが去って行く
女の子:(M)私は産まれたお母さんと二人暮しをしていた
幼稚園、学校へ行っているとき以外はずっとお母さんと一緒
…今日の晩ごはんは何にしようか?と話しながら近所のスーパーへ行く途中だった
女の子:私が悪いのに…
女の子:(M)私がおじさんにぶつかった
お母さんはすぐおじさんに謝った
なのに……おじさんは何も言わずいきなりお母さんを殴りだした
殴られてもなお、謝るお母さんを何度も何度も殴った
お母さんの顔は大きさが倍くらいになって紫色になって…動かなくなった…
私は泣き叫ぶことしか出来なかった…
女の子:…私がおじさんを殺せるくらい力があったら……!!
死神:殺せるくらいの力、ですか?
-一瞬、沈黙が走る
死神:失礼致しました
悲しまれているのに、突然話しかけてしまって
女の子:気にしないでください…
(死神の鎌を見る)………?!!
死神:ああ、これですか
私は死神、これは死神専用の大鎌です
女の子:死神…??…私の魂を取りに来たとか…
死神:死神の基礎知識はお持ちのようで
女の子:図書室にあった童話に出てきた死神とは少し違うけど…あなたは死神なんですか?
死神:はい、勤続400年超えのベテラン平・死神(ひら・しにがみ)です
女の子:は、はあ……
死神:貴方がとても強い意志で「私におじさんを殺せるくらいの力があったら」と言っていたので
私が出来る仕事があると思い、お声掛け致しました
女の子:…死神の仕事、ですか
死神:はい
女の子:どんな仕事をしているの?
死神:私の仕事は業務委託契約を結び…あ、まだ小学生の貴方には複雑なお話になりそうですね
死神:配慮が足りず申し訳ないです
女の子:謝らなくてもいいですよ、それに私は6年生です
多少難しい言葉でも分かると思います
来月には中学生になるから…
-女の子が突然、涙を流す
死神:こちら、どうぞ(ハンカチを渡す)
女の子:(泣きながら)うっ……ありがとうございます……
死神:貴方はお母様とずっとお二人で先ほどまで生きてきたのですものね
女の子:お母さんと入学式…行きたかった…
中学校の校門の前で二人で写真撮りたかった…
…中学校で制服きた私を見てもらいたかったよ(さらに泣く)
死神:貴方のお母様を殺したおじさん、消し去ってしまうというのはいかがでしょうか?
女の子:え?
死神:私は貴方から対価を頂き、対象者となる人間の魂を消し去ることが出来ます
女の子:…魂を取りに行く、ということですか?
死神:いいえ、魂を取るのは新人死神の仕事です
私の言う魂を消し去るとは、
最初からその人間をこの世にいなかったことにすることです
女の子:………そんなことが出来るんですか?(徐々に涙がおさまる)
死神:貴方から対価を頂くことが出来れば可能です
女の子:……
死神:あとは「生き地獄」行きにすることも出来ますよ
「生き地獄」行きですと貴方はこの先、一人で生きていかなければなりませんが…
女の子:あのおじさんが最初からいなければ…
死神:お気づきになられたようですね
女の子:お母さんが殺されることも起きない……ということですよね!
死神:はい、魂を消し去れば
あのおじさんはこの世に存在しませんので
貴方のお母様があのおじさんに殺されるということは起こりませんね
女の子:それなら私が対価というものを死神さんに渡せば…
お母さんとこれから先も一緒にいられる…そうですよね
死神:魂の消し去りをご希望されるのですね?
女の子:はい…私はお母さんともっと一緒にいたいんです
死神さん、対価とはどういうものですか?
-死神の口角が上がる
死神:対価はこのように…こちらのタブレットをご覧下さい
女の子:はい……(タブレットを見て)え?…
死神:魂を消し去る…この世の理(ことわり)を捻じ曲げる、ということですので
それ相応の対価が必要です
女の子:…私の寿命88年なんだ
そこから70年の寿命を差し出す…
つまり私は18歳で死ぬ…
死神:そういうことになります
あなたは聡明で、稀に見る超健康体です
それにとても優しい心をお持ちで人望もあります
女の子:死神さんがそう言ってくれても
私があのおじさんをいなかったことにするには
寿命を70年を渡さないといけないんですよね…
死神:はい、88歳までお母様も身寄りもない人生を歩まれるか
18歳までお母様との日々を過ごされるか
この二択になるかと
ちなみに余談ですが「生き地獄」行きですと、対価は貴方の両足です
女の子:…でも「生き地獄」行きを選ぶと…お母さんはいない
そして私は歩けなくなる、ということですか…
死神:理解が早くて助かります
そういうことです
女の子:……
死神:お母様も見たかったでしょうね、貴方の成長を
女の子:……!
死神:貴方の中学校の入学式まであと二週間でしたのに、本当にお気の毒です
女の子:(涙が溢れてくる)……お…お母さん……っ!!
死神:貴方のお母様の幸せは
大事な大事な一人娘の成長を見届けることでしたのに
女の子:………!
死神:突然不幸な死を迎えることになるなんて…
女の子:……お母さんっ!
死神:殺された人間の魂は向こうで天国行きか地獄行きか審査に時間がかかるので
寿命を全うされた魂より早めに回収されます
女の子:え?
死神:お母様の魂が回収されますと
貴方が寿命を70年差し出してもお母様に会うことは叶いません
女の子:そんな……
-着信音が鳴る
死神:話の途中で失礼致します
新人死神の部下から連絡が入りました
女の子:新人死神……お母さんの魂を回収しにくるの?
死神:はい、隣町での魂回収が終わり次第こちらへ向かうとのことです
女の子:…嫌……嫌っ!!
死神:急がせてしまい申し訳ないですが
今すぐの返事を頂きたく存じます
-少しの間、沈黙
女の子:……お母さん、私決めたよ
死神:魂を消し去る…ということで宜しいですね?
女の子:はい、お願いします……
死神:説明は以上です
ご理解、ご納得を頂けましたら
こちらの欄へお名前をフルネームで記載をお願い致します
女の子:(M)私は寿命を70年差し出して、お母さんを殺したおじさんの魂を消した
女の子:(M)あの後、学校の図書室や町の図書館で死神について書いてある本を読んだけれど
魂を消し去ることや「生き地獄」行きに関して書かれている本は一冊も無かった
あれは本当に死神だったのかな…と疑問が頭をよぎった
女の子:(M)だけど今、お母さんは生きていて一緒に日々を過ごしている
死神:あれから6年の月日が経ちました
そろそろ仕事へ向かわないといけませんね
女の子:(M)今日は高校の卒業式
私も友達とたくさん泣いたけど
式中もずっと泣いていたのは私のお母さんだった
卒業式の帰り道…晩ごはんの材料を買いにお母さんとスーパーへ向かう
女の子:(M)お母さんに「カゴをのせるカート持ってくるね」と言い、お母さんと離れたとき
女の子:大鎌を持った見覚えのある顔が私を待っていた
死神:お久しぶりです
この度はご卒業おめでとうございます
女の子:ありがとうございます…お久しぶりです
死神:この世に存在しないお母様を殺したおじさんの記憶を消さずに今日まで過ごされるとは…
死神:珍しい御方です
女の子:(M)魂を消し去る契約を交わす際に
この世に存在しない人間の記憶を自分から消すことも出来たけど…
私は敢えて記憶を残すことにした
死神:お母様に最後、なんと伝えたかお聞きしても宜しいですか?
女の子:はい…
今日まで一緒に生きてくれてありがとう
と、カーネーションの生花は買えなかったので造花を渡して伝えました
死神:お母様はさぞ、お喜びになられたでしょうね
女の子:はい、とても優しく眩しい笑顔でした
死神:そろそろお時間です
女の子:…お母さんと一緒に生きる時間を長くして頂き誠にありがとうございました
死神:いえいえ、こちらこそ
契約して頂き誠にありがとうございました
女の子:私の分まで長生きしてね、お母さん
世界で一番、大好きだよ
-魂の回収、完了
死神:この契約を締結出来たこと、親孝行だと思いますよ
死神:ですが、親より早く死ぬのは親不孝ですよね
-END
平・死神と一緒 ネコ山 @nekoyama0312
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