平・死神と一緒

ネコ山

ブラック企業勤務


男:なんであいつだけ評価されるんだよ!!

ギリギリまで残業して会議の資料作ったの俺なのに…!!


男:「新入社員のお前がこの資料作ったって記載してもお偉方はだーれも信じちゃくれないから俺の名前に変えておいた」

そう言って、あいつ…先輩は俺のやった仕事を全て自分の手柄にした

俺の勤める会社は実力よりもどれだけ長く会社に勤務しているかで評価も態度も給料も変わる

完全年功序列の古き悪しき昭和初期創業の老舗卸売会社だ


男:…殺してやる!!


死神:殺してやる?


-少しの間、沈黙


男:……は?


死神:あれ?貴方、私の声聞こえますか?


男:あんたどうやって俺の部屋に入ってきた?


死神:私の姿、見えますか?


男:……手元の鎌は本物か?


死神:質問ばかりしないでくれません?

先に質問したのはボクです


男:(舌打ちする)声は聞こえる、姿も見える…


死神:承知致しました、ボクの質問に答えてくださったので

次は貴方の疑問に答えます

私は死神、死神の中ではこの世で言う平社員みたいなものです


男:死…神…?


死神:そ、死神


男:死神なんかこの世にいるもんか、俺の部屋に入ってきた目的は盗みか?

悪いが金目の物は何も無いし、現金も給料日前で財布の中身の二千円しかない


死神:はぁ〜、給料日前って辛いですよね〜

私の所属する部署はノルマ無しの歩合制なので、給料が安定しないんです〜


男:あんた営業職か?


死神:んー、そう言われるとこの世の営業職と共通点がとても多いですね

労働対価収入…あ、これは働いている人のほとんどが労働対価収入ですね


男:(深いため息をつく)


死神:私の部署は雇われてる人間の魂を専門にしております

平成後期から現代までの間に仕事が激増しまして

死神なのに過労死しそうですよ…はぁ〜(ため息)


男:雇われてる人間の魂専門?


死神:はい


男:(N)自身を死神と名乗る頭のぶっ飛んだ不法侵入者を相手に俺は何故普通に会話してるんだ?…多分心的疲労も重なって夢でも見てるんだろうとこの時は思っていた


男:死神の仕事…あれか?

死が近い人間の元へ現れて、死の宣告をし

そいつが死んだらすぐに魂を回収するっていう…


死神:あー、よく聞くこの世の死神の解釈イメージですね


男:違うのか?


死神:それは新入の死神の仕事です


男:じゃあ、あんたは何をする死神なんだ?


死神:私は勤続400年超えのベテラン平・死神(ひら・しにがみ)です

契約書に基づいて仕事をしています


男:わかりづらい!あんたは何の仕事してるんだよ!


死神:私は人間の契約者を探し、業務委託提携をする死神です


男:業務委託提携?


死神:ざっくり言うと、貴方が死んで欲しい!と思う人間の魂を私が取りに行きましょうか?という契約です


死神:貴方、さっき凄い殺気を放ちながら「殺してやる」って言ってましたよね


男:あ、ああ…


死神:私と契約を交わして頂ければ

貴方を苦しめる人間を一人…

この世から消し去ることが出来ます


男:消し去る…魂を取るのとはどう違うんだ?


死神:最初からそこに着目するとは…さすがです!


男:はぁ…


死神:魂を取るのは寿命が近い人間に対して行う仕事です

消し去るのは寿命関係無しに対象者をこの世に最初からいなかったことにする…ということです


男:へぇー…


死神:ちなみに対象者の記憶を有するか否かは契約者ご本人に決めて頂きます


男:嫌な奴の記憶なんていらねえよ…

消し去る以外に出来ることはあるのか?


死神:はい、ありますとも

こちらをご覧下さい


男:タブレット使ってるのか…


死神:この世の業務スタイルに合わせた方が契約がとりやすいので…タブレットを使用しております


男:ふーん……


死神:いま表示しているのは「生き地獄」プランです


男:生き地獄…


死神:すぐに魂をとらずに寿命を全うするまで…対象者にとって生きた心地がしない人生を歩ませることが出来ます


男:…それ、今の俺なんだけど


死神:ふむ…貴方、まあまあ苦労をされているご様子ですね


男:まあまあ……だと?!!


死神:はい、まあまあです


男:はあ?!あんたどうせ分かるんだろ?俺がどんな人間でどんな目にあって日々を送ってるか!


死神:はい

なので業務委託提携の契約がとれると判断し、こちらへ参った次第でございます


男:新卒採用されて入社して4年も経つのに、1つしか歳の変わらない先輩に仕事の手柄を奪われ続けて

上司からは「いつまで新卒の気分なんだ、出世欲は無いのか?」とか言われ…


死神:あー…出世欲どうこうって私も言われます

体育会系のノリって言うんですか、

アレ本当にめんどくさいですよね〜


男:この前…有名大の新卒の初任給の給与明細を偶然見たんだ

俺の基本給より10万円も多かった…

その新卒、ただ入社してたった1ヶ月通勤してるだけで俺より高い金もらってるんだぞ!おかしいだろう!


死神:なら、そんな会社とっとと辞めて公共職業安定所へ相談すれば良いじゃないですか


男:全然分かってないなあんた……

交通費込みの手取り14万、社宅の家賃は7万!

男:ボーナスはこの超円安と不況のせいで入社して一度も貰ったことが無い!

貯蓄なんか1円も無い俺が!サービス残業月100時間超えの俺が!!

いつどうやって転職活動すれば良いんだよ……(深いため息)


死神:第二、第四土曜ならやってますよ?公共職業安定所

休みの日に行けば良いかと


男:……それが出来たらとっくにやってる!!

だけど、公共職業安定所へ行ってることが社内の人間に知られたら

「社内保険料」という名目の罰金が!ただでさえ少ない給料から差し引かれるんだよ…!!


死神:え…社内の方がリークするのですか?


男:ああ、社内の人事部の人間が交代制で公共職業安定所や弁護士事務所やら…

監視してるんだ…この会社の離職率を上げないためにな…


-死神がひと呼吸つく


死神:ふむ、なるほど

ならば今勤めている会社の会長や社長辺りを私と契約して「生き地獄」行きにしませんか?


男:は?そんなことしたら…俺の仕事が無くなって給料も貰えなくなるだろ?


死神:(小声で)極限状態の人間は視野が本当に狭くて…説明するこちらの手間が増え、困りものですね


男:なんか言ったか?


死神:いえ、何も


男:……あんたと契約をして、「生き地獄」行きに出来る人間は何人だ?


死神:貴方が出される対価によって人数は変わります


男:何を対価にやってくれるんだ?


死神:貴方ですと…少々お待ちを


-タブレットを操作する死神


死神:両目と聴覚と右手で先ほど話されていた有名大の新卒さん1人ですね


男:……ひとつ上の先輩は?


死神:左腕一本で可能です


男:もし、俺が社長を「生き地獄」へ落とそうとしたら?


死神:貴方の肉体と魂では足りませんので、契約締結不可です


男:なのに何故さっき会長や社長を「生き地獄」行きにしませんか?なんて提案してきた…


死神:貴方のお勤め先が絵に書いたようなブラック企業でしたので、変えるなら上を総入れ替えした方が良いかと…

まあ、私が思ったことを勝手に口にしただけです


男:なら、俺が会長や社長をあんたの力を借りずに殺せば良いだけの話だ

…面倒な契約なんかいらない


死神:そんなに簡単に出来ますかね?


男:…やってみなきゃ分からないだろう


死神:この世のお偉方は大抵護衛を付けています

それに、貴方は体格や運動神経に恵まれていませんので


死神:それは非常に厳しいかと思います


男:契約をする気が無いと分かったら馬鹿にするんだな


死神:馬鹿になんてしていませんよ


男:そういうことだから、もう帰ってくれ


死神:え?


男:今日も0時まで仕事してきて疲れてんだよ…


死神:良いんですか?このまま何もしないで


男:うるさいな…警察呼ぶぞ……(寝落ちする)


死神:寝落ちしちゃいましたか…

ご契約者様に連絡を…と、


-死神、通話を始める


死神:お世話になっております

先ほどの会話、お聞き頂けましたか?

はい、はい……

これではまだ足りない…ですか

では契約事項を追加なさいますか?

…かしこまりました、ではこちらなどいかがでしょうか?

ご契約者様の頭髪、毛先から5センチで可能ですよ

はい、…ありがとうございます!

では使用されているタブレットへ新たな契約書のデータを送付致します

ご確認、ご納得頂けましたら署名欄へサインをお願い致します

不明な点がございましたらお気軽にご連絡ください

では失礼致します…


-通話終了


死神:よく眠っておられますね…

先ほど私が通話をしていたご契約者様は大学生の時に貴方に暴行をされ、あまりの凄惨さに泣き寝入りせざるを得なかった被害者です

更なる「生き地獄」をお楽しみくださいね…


-死神、笑いながら去る


-END-





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