第12話 紅葉とスポーツジム

「今日はなんか遅かったな。部活?」


「警察」


「警察!?」


 本当は兄さんがひとりで行く予定だったんだけど、警察署の前で偶然モデルと宗教のダブル勧誘受けてる兄さんを目撃したので、結局私も付いてく羽目になった。妹がいうのもなんだけど、兄さんはイケメンだから街歩いてたらよく勧誘されるんだ。


「それより、これ」


「いや流すなよ、何があったんだよ、気になるだろ」


 私は駅前のスポーツクラブで貰ってきたパンフを見せた。


「これがなんだよ」

「ん?だから行くの」


「正気かお前」


 紅葉さんはこの世のものではない異形を見るかのような目で私を見ている。


「なんで急にって……まさか昨日の!?」


「紅葉さんほどの運動音痴は私だけじゃ解決しそうになかったから」


「だからってなんでジム通わせようとするんだよ」


「無料体験だよ。あくまでアドバイスをもらうだけ。紅葉さんもこれに毎月お金を費やすのは嫌でしょ?」


 紅葉さんは玄関を一瞥。私がもう領域内に侵入していることに気づいた紅葉さんは全速力で奥に逃げようとしたところ、私が肩を強引に掴んで引き止めた。


「ぐぎっ……!!」


「これも健康のためだよ。昨日わかったでしょ」


「なんで他人の体事情に首突っ込んでくるんだよ!!!」


「紅葉さんがどうしょうもない生活破綻者だったから。つい……」


「無表情で直球の悪口投げてくんな」


 私はチラシを紅葉さんの顔面間近に掲げる。


「ヒキニートにスポーツジムはきついっす」


「自覚はしてるんだね」


「嫌だ!絶対嫌だ!!死んでも行かん!!!」


 直訳するとスポーツクラブは人の密集地帯なので行きたくないってことだね。

 しかし、そんな反応は予想してた。ほぼ毎日紅葉さんと付き合ってれば内心も簡単に予測できるよ。


「チラシによればプライベートレッスンもあるらしいよ」


「まずそんなところに行きたくない。うちに来てくれるならいいよ。お前みたいにしょっちゅうはごめんだけどな」


「体育の家庭教師なんていないよ」


 紅葉さんは華奢な体を覆ってしまうほどの巨大なクマさん人形の後ろに隠れてしまった。


 困ったな、ここで強引に引き剥がすても可哀想だし。なにより人混みの多い場所に紅葉さんを無理に放り込むと、それはそれで紅葉さんの健康を害してしまうかもしれない。でも人混みに慣れてもらうって意味なら……


「ボクを連れて行きたかったらコイツごと引き摺ってくんだな」


 どうやら紅葉さんに私の考えが漏れていたらしい。ほぼ毎日紅葉さんと付き合ってれば企みも簡単に看破されてしまうようだ。


 まぁ仕方ない。そこまで行きたくないのであればスポーツクラブは諦める。となると誰か知り合いの運動部……それもスポーツ万能な人物に声をかけてみようか。


 でも私の交友関係にそんな人いないしなぁ。

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鳴瀬紅葉は引きこもる【中宮高校の人々!(鳴瀬紅葉編)】 ホメオスタシス @HOMEOSTASIS

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