第11話 芙蘭と兄
夜、私は自分の部屋で、どうすれば紅葉さんに運動させられるかを考えていた。紅葉さんの身体能力ははっきり言ってしまえば絶望。生まれてこの方運動したことのない人間みたい。
そんな人に無理矢理運動をさせること自体無理があると思うけど、これも紅葉さんの健康増進のため……
「芙蘭、入るぞ」
「どうしたの?」
鮮やかな金髪は染めたわけではなくれっきとした地毛。顔立ちもどこか西洋人を彷彿とさせる整った顔だちをしている。
実は私の両親、父は日本人とアメリカ人のハーフ、母はフランス人の超国際結婚なんだ。なので兄さんは日本人、アメリカ人、フランス人を親に持つミックスだ。ちなみに私は純粋な黒髪です。
「芙蘭」
「何?」
「芙蘭」
「何?」
「芙蘭……」
「なんでしょうか」
兄さんは何故か私の名前を連呼してくる。勉強机でスポーツ紙を熟読している私には兄さんの表情は見えないけど、名前を連呼してくる時は大体やましいことがある時だ。
「芙蘭……様」
遂に私に敬称を付け始めた。これはかなり重大案件っぽい。
私は椅子をくるりと回して兄さんの顔を見ると、思いのほか深刻な顔をしている。目が泳いでいてもう私を直視できないみたい。こういう時は大体救いの手を差し伸べれば兄さんはすんなりと話してくれる。
「言ってみて」
「芙蘭様に借りたゲーム機、借りパクされました」
「誰に?」
「なんか公園のベンチで『世界のアソビ名鑑』プレイしてたら、半年風呂入ってないようなおっさんが近寄ってきて……やりたいけど金がないからできないって……」
「それで?」
「そんで俺は善意でちょっとだけだぞと貸してやったんだが、貸した途端そのジジイ……チーターかってくらいの猛スピードで逃げ出しやがって……」
「兄さんなら余裕で追いつけたんじゃない?」
「俺だって妹の大事なゲームをパクられるわけいかないからと追いかけたんだ!だけどそのジジイ、観念したのかたまたま近くにあった本棚の前にたくさん人が並んでる店に入ってって……たまたまそこのひとつに俺の読みたかった漫画があって……気づいたら……」
結構最新で人気のあるゲーム機だし、売られた、のかな?ここまで聞けば分かる通り、兄さんは頼まれたら断れない上に騙されやすい性格なんだ。
「す、すまん」
「いいよ。そろそろ中間テストでゲー禁しようと思ってたから。逆に手元から遠ざけてくれてありがとう」
「ふ、芙蘭様……!!お詫びに何でもする!俺にできることなら何でも言ってくれ!」
「なんでも?」
実は、兄さんはこれでも陸上の大会で全国まで行った逸材。鳴瀬さんに運動をさせるヒントを教えてくれそう。ちなみに、全国大会ではチームメイトの悪ノリで会場と逆方向の電車に乗ってしまい、パニックに陥った兄さんは片っ端から電車に乗りまくった挙げ句、最終的に飛行機で八丈島まで飛んだらしい。迎えに行くのが大変だった。
「兄さん」
「なんだ?早速か!?」
「例えばの話だけどさ、生まれてから八十年以上も運動していない人に運動を始めさせるんだったら、兄さんだったらどんなことをさせると思う?」
私が質問した途端、兄さんの目が点になってしまった。
「へ?」
「いいから」
「む、ムズっ!!なんだよそれ、そんな難解な問題いきなり無表情で投げてくんなよ」
何故か怒られちゃった。こっちは至って真剣に聞いてるんだけどな。
「自分で言うのもなんだが、俺はあんま頭良くねぇから、難しい方法なんて考えられねえぞ」
「うん分かってる」
「まぁ、でもそうだな。その道のプロフェッショナルに預けろ」
そう兄さんはドヤ顔で言った。
「……」
「ど、どうだ……?」
「あ、あぁ〜」
「正解か、正解なんだな!無表情すぎてわかんねぇ!」
確かにそれなら的確なアドバイスを出してくれそう。まあ今もその道のプロフェッショナルに聞いたつもりだったんだけど。
でも通ってもらうにはお金がかかるし鳴瀬さんはそんなことに浪費するのは嫌だと思う。だけど無料体験なら話は別。アドバイスをもらうだけなんだから一回きりで十分だね。よし、明日駅近のスポーツクラブでチラシをもらってこよう。
「あとひとつ」
「な、なんだ?」
「明日、被害届出してきてね。やり方はわかるでしょ」
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