第8話 吸血鬼の性

 杉崎すぎさき亮平りょうへいくん。黒髪ストレートで右瞼の泣きぼくろが特徴の男の子。そんでもって私的にクラスでは一二を争うほどのイケメン。だけどどういうわけかあんまり友達はいない。


「ねえ杉崎くんまだ班わけできてないよね?」


「ああ、そうだが」


「なら私たちと組まない?ちょうどひとり欲しかったんだよね」


「分かった」


 私の提案に、杉崎くんは直ぐに乗ってくれた。



「連れてきたよ」


「よろしく」


「杉崎っち!?」


「こいつは……」


 私が連れて来た羽沢くんに、小杉くんはおろか伊月すらも驚いて目を丸くしている。多分、イケメンだから女子からの競売率が高いみたいに思ったんだと思う。いやオークションじゃないけど。


「よく連れてこれたな……」


「まあ私の交友関係の広さの賜物よ」


「俺はただ座ってただけ……ブフッ」


 私は急いで杉崎くんの口を塞ぐけど、小杉くんがジト目で私を見てくる。でもとりあえず、いい感じに男二女二に固まったかな。


「しおりによると役割も決めるらしいぞ」


 そう言って私のしおりを眺めていた羽沢くんがそう呟く。

 何々?しおりに記載されていた役割としては四つ。班長、副班長、記録、写真を決めなければならないらしい。


「じゃあアタシが班長やる!」


 と、一目散に伊月が手を上げた。班長としては心配しかないけどまあ早く決まったし良しとしようか。


「では俺が副班長を」


 杉崎くんも小さく手を上げる。残りは記録と写真だね。


「じゃあ私は記録やるね」


「え!?俺が写真かよ!?一眼レフなんて家に……」


「スマホでいいと思うよ」


 なんか勘違いしてよもや校外学習に高性能カメラを持って行こうとした小杉くんを私が食い止める。と、なにやら小杉くんが私に耳打ちしてきた。


「なあ、お前大丈夫か?昨日俺吸血鬼について色々調べてみたけど、吸血鬼は流水の中を通れないらしいぞ。あと写真はどうか知らないが吸血鬼の身体は鏡に映らないんだって。写真係は俺だからなんとか対応できるけど、集合写真なんて撮られた日には……」


「うっ……そうだね。また優子ちゃんに魔法かけてくれないかな」


「それがアイツ。召喚の副作用だとか言って昨日から高熱出して寝込んでるんだよ」


「私もしかして終わった?」


「俺ができることはなんとかするけど、その、それ以外のことは……」


 それ以外とは、さっき言ってた集合写真とかかな。流石に学校側に強制されたものは小杉くんじゃなにもできないね。そもそも私以外にはコミュ障拗らせてるのに……


 となるとどうすべきか。流れる水の中は渡れないようじゃ、海水浴場すら楽しめない。待って、そもそも吸血鬼って神社とか侵入できるの?


 集合写真はもういっそのこと撮影NGにするしかないかも。でも今までずっと映ってきたのにここで撮影NGにすれば違う意味で不審がられるかな。


「二人とも小さい声で何話してんのー?」


 流石に二人でヒソヒソ話していたのが長すぎたみたい。

 伊月がぽかんとしながら私たちを見ている。


「ごめん、ちょっと用があって」


 と、伊月が自慢げにしおりを見せる。


「見てみて!杉崎っちが班の目標とか公約とかいろいろ書いてくれて!すぐ終わっちゃった!」


「そ、そうなんだ。ありがとう杉崎くん」


「ああ、俺もできる限り班の一員として役に立ちたいからな」


 杉崎くんなんていい人!でも公約って選挙か何か?


「とりあえず、用が済んだから俺は次の授業の教室に行くぞ」


「うん、杉崎君お疲れ!」


「杉崎っちばいばい!」


「お疲れ」


 杉崎くんは自席に戻ってリュックサックを背負いつつ教室を出ていく。そういえば杉崎くんっていつも授業が終わるとすぐに教室を出てくよね。部活かな。


「じゃあ、俺も……」


「今日の放課後、モール行かない?」


 小杉くんが席を立とうとした途端、伊月が大声で私に提案してくる。なんか小杉くんがシュンとしちゃった。お疲れって言って欲しかったんだね。


「お疲れ小杉くん」


「ん?小杉っちおつー!」


「う、うん……」


 小杉君はバツが悪そうに去って行った。


「それでさ!モール行こうよ」


 次の授業の教科書をリュックサックから出す私に、準備を終えた伊月が張り切って言う。


「モール?映画見るの?」


「せっかくの校外学習だから、新しい服買いたくて」


「そうなの……まあ暇だしいいけど」


 伊月が教科書を抱えた私を押しながら、私たちは教室を出る。


「そういえば伊月トレカ部はいいの?」


「サボる!」


「なにやってんのよ」


 実は、伊月はこの学校オリジナルの部活等、トレーディングカード部(通称トレカ部)に所属している。やることはお察しの通り、カードゲームで遊ぶだけの部活らしい。それでも、伊月はカードゲームで全国大会にまで出場する実力者なんだとか。なんのカードゲームかは知らないけど。まあ、全国にまで名を馳せている伊月の才能は素直に羨ましい。


「あ、アタシトイレ行きたい」


「じゃあ私も行くよ」


 次の授業までは時間があるので、トイレに行くことにした。


「私ここで待ってるね」


 そう言って私は洗面台の前に腰掛ける。


「うん!てあれー?この鏡壊れてるね」


 壊れてる?鏡が……って


「あっ」


「だって小唄映ってないじゃん。あれーアタシは映ってるなんでだろ」


 思い出した!小杉くんがさっき言ってたこと。吸血鬼は鏡には映らない。本当に映らないんだ……じゃなくて!


 やばい。この展開はまずい。吸血鬼じゃなくても確実に不審がられる!!!


「えっと鏡のことは私が言っとくからとりあえずトイレしてきてよ」


「えー!ダメだよ!小唄、試しにこっちの鏡の前に立ってみて!」


「いやその……」


「いいから」


 まずい。伊月のスピリチュアルモードが発動してしまった。どうしよう!女子トイレに小杉くんを呼ぶわけにもいかないし……大罪呪法も伊月には使いたくない。


「ほら早く!」


 そう考えてる間にも伊月が私のことを押して……


「やっぱり映ってない!!」


「いや……あの……」


「ねえねえどうしたの?鏡のせい?それとも小唄が……」


「ごめん!伊月!」


「ぶひゃ!!!」


 もう最後の手段として残しておきたかったがしょうがない。私は伊月に目と目を合わせ《嫉妬》の能力を使う。


「私が鏡に映ってなくてもなんともないよね!?」


「うんどうしたの今更ー?」


 あっ、危ない。これでひとまず事態はおさまったね。でも、親友に初めて能力を使ってしまった。素直に罪悪感がすごい。


「さっ、授業遅れちゃうし行こうか」


「うん!」


 こうして、私は溢れ出る罪悪感を払い除けるように足早に教室に向かった。

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陽野森小唄は吸血鬼【中宮高校の人々!(陽野森小唄編)】 ホメオスタシス @HOMEOSTASIS

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