暗い黒い気持ち

 残りの課題は夏休みが明ける前までに何とか終わらせることができて、無事に二学期を迎える。二学期に入ると文化祭の準備が始まり、いつもの二倍、学校が楽しかった。パンケーキカフェに決まったクラスの出し物。私は厨房だけど、涼と晴真はホールに決まる。

 (美男美女だもんね~二人はさ)

 ただ、涼が他校の男子から見られるのは嫌だけど、仕方ないと割り切ることにした。文化祭前日の放課後、食材を買いにクラスの女の子と学校の外へ出ていた。その間に、涼と晴真には教室で待ってもらっている。早めに買い出しを済ませて、学校へと戻る。教室の扉の前に立つと、涼と晴真が楽しそうに話している声が聞こえきた。盗み聞きしていたわけじゃない……。でも、文化祭の当日、二人で回ろうと話を聞いてしまった。気持ちを抑えて、表情を作る。

 「お待たせ~!さ、帰ろう!」

 同時に二人が私の事を見る。私は何も聞いていない、知らないふりをする。そして、三人で学校を出て、帰宅した。

 文化祭当日。ウキウキと心が踊る反面、昨日の二人に会話を思い出すと胸がざわついた。出し物のパンケーキカフェは思ったより反響が良くて、他校の生徒から在校生まで沢山の人が訪れる。反響が良かったのは多分、晴真と涼が居たからだと思うけど。晴真には「イケメンだ」なんて沢山の声が聞こえてきて、涼には「あの子、可愛くね?」なんて他校の男子がコソコソと話す声が聞こえてくる。どっちも私の友達なんです、なんて自慢したくなるけど。涼には関しては今すぐにでもホールから厨房へ変わってほしかった。一回目の休憩は涼と一緒に文化祭を回る。涼といる時は心が穏やかで、他校の男子の目なんて気にしないくらい、楽しい。でも、涼の口から「好きな人いないの?」なんて聞かれるとは思わなくて。どう答えたらいいのか戸惑ってしまった。涼への気持ちを誤魔化すには、冗談でも交えなきゃ、涼が好きだと言ってしまいそうになる。休憩を終えて、教室へ戻ってきた時、八つ当たりするみたいに晴真へ嫌味を言ってしまった。こんなにも自分の気持ちがコントロールできなかったのは初めてだった。仕事に入ると、それから二時間後には教室に涼と晴真の姿が消えていてる。

 (やっぱり……二人で回ってるのかな)

 黒い気持ちが滲みだす。「表情暗いけど何かあったの?……大丈夫?」とクラスの子に余計な心配をかけてしまった。「大丈夫」とクラスの子に笑いかけるが、それは自分にも言い聞かせるための言葉だった。一時間が経つと、次は私も休憩に入る。つけていたエプロンを外していると、教室に涼と晴真が戻ってきた。私はまた笑顔を作って二人に駆け寄る。そして、三人で文化祭を回り始めた。私はずっと涼と晴真の間に立つ。空気なんて読みたくもない。文化祭はあっという間に終わり、お客さんのいなくなった学校は少し静かになった。教室でできる限りの片づけをして、五時には学校を出る。帰りも、いつも通り三人で。

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