好きな人

 修学旅行当日の朝。結局、全く眠れなかった俺はバスで眠ることにした。俺達のグループはバスの最後尾の席に乗り、学校を出発した。バスの揺れが心地よくて、隣では薫も涼も眠っている。涼の寝顔を見ていると余計に眠くなり、いつの間にか寝てしまっていた。空港に着くと、涼の声で目が覚めた。バスを降りて、飛行機に乗り込む。約三時間後には真っ青な空の広がった沖縄に到着した。飛行機から降りて、空港の外に出ると、薫が嬉しそうにはしゃぐ。俺はまだ眠くて、涼の隣で小さな欠伸をしていた。空港の外にはバスが止まっていて、まずはバスで泊る予定のホテルに向かった。ホテルに着くと、それぞれ自分の荷物を持って、部屋へと向かう。俺は高遠と平海と同じ部屋。

 「今日の夜は三人で恋バナでもするか?それとも怖い話?」

 一人はしゃいでいる平海に対して、「そうだな」と愛想笑いをするが、高遠は反応せず無言だった。その理由は何となくわかっている。荷物を置いたらホテルのロビーに戻り、クラスごとにバスへ乗るように案内される。修学旅行の一日目はクラスごとに時間をずらしながら、平和祈念公園へと向かう。バスの中では、ホテルの部屋で無言だった高遠と適当に話をして過ごした。目的地に着くと、ひめゆり平和記念資料館を見学する。見学が終わると、今日は他の観光地へは行かず、ホテルへと戻った。夕食の時間まで各部屋で過ごし、時間になるとホテルにあるレストランでバイキングを楽しむ。涼も薫もデザートばかりで、俺を含めた男子三人は主食や肉ばかりを食べていた。夕食を済ませると、部屋に戻り、寝る準備を始める。俺は先に風呂へ入り、高遠と平海が風呂に入り終わるまで、ベッドで寝転んでいた。俺の次に風呂から出てきた高遠がベッドに腰かける。

 「……別に聞くことでもないから、聞いてなかったけど。なんで俺と優人を同じグループにしたんだ?」

 いつかは高遠に聞かれるだろうとは思っていた。「ん~、別に他の奴らに比べたらマシだったから?というか、話したことのある奴と同じグループになった方がいいだろ?」と答えると「へぇ~。まぁ、俺らも他に組みたいと思う人がいなかったし有難かったわ」と高遠は笑う。だが、その笑顔はどこか嘘くさい感じがした。

 「……本当に聞きたいことはそれだけ?」

 そう聞くと、高遠は表情を変えた。真剣な眼差しを俺に向ける。高遠が口を開いたタイミングで、平海が風呂から出てきてしまい、話はそこで終わってしまう。高遠が「……俺、そろそろ寝るわ」とベッドに潜るが、「えぇ?もう寝るの?夜はこれからだろ」と平海は不満そうな顔で、ベッドに寝転がる。

 「まぁ、寝ながらでも話はできるか」

 全く話を聞かない平海に「……俺は寝るって言ってるだろ」と言う高遠。「俺も眠いから寝ていい?」と聞くと、平海は「それはダメだ!」と大きな声を出す。正直、面倒だが、俺も高遠も平海の相手をすることに。適当に話を合わせて頷いていると、突然、「なぁ、結城は好きな人とかいんの?」と平海が言った。

 「……え、俺?」

 「そうだよ」

 「まぁ、どうだろうね……」

 俺がはぐらかすと高遠が間をあけず「夏山さん?櫻井さん?どっちが好きなの」と言った。ベッドから起き上がり、高遠を見る。高遠も平海も同時に起き上がった。「何が言いたいわけ?」と睨みつける俺に、「別に……ただ聞いてみただけだよ」と言う高遠。平海は何事かと困った表情をしていた。

 「ど、どうしたんだよ。二人とも」

 ピりついた空気を変えるように、高遠は平海に話しかける。

 「優人は好きな人いるもんな、可愛い子がさ」

 これ以上、空気を悪くしたくないので、「へぇ~そうなんだ」と相槌を打った。

 「幼馴染の日和ちゃんって子なんだ」

 「おい!そんな名前まで言わなくたって」

 「だって、優人が話を振ったんだから、先言わないとでしょ」

 平海は照れて顔を赤くしている。その姿に、思わず笑ってしまった。「それなら、二人はどうなんだよ。俺は名前まで言われたんだから、教えろよ」と不貞腐れた態度の平海。俺が口ごもっていると、先に高遠が口を開いた。

 「……俺は……夏山さんだね」

 俺は相槌を打つ余裕もなく、黙り込む。反対に、平海は楽しそうに高遠へ質問攻めをしている。

 (……わかっていはいたけど)

 黙り込む俺に「どうした?」と高遠が声をかける。

 「あ、いや、なんでもない」

 本当は気づいていた……高遠が夏山を好きな事を。だからこそ、あえて同じグループに誘った。それがもう一つの理由。

 「……さすがに、俺はもう眠いから寝るわ。おやすみ」

 俺は布団をかぶり、二人に背を向けた。すると、平海も満足したのか、俺に続いて二人も寝たようだった。



 

  

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