覚悟
二日間の休みを明けると、次のイベントは修学旅行。まずは、グループ決めからしないといけないのだが……。五人で組むグループのうち俺と涼と薫の三人は決まっていても、残り二人が決まっていない。
(残り二人か……)
悩んだ様子の涼と薫に、俺は男子二人を連れてきた。その二人の名前は
「こいつらと組めば決まりだな。薫と涼、それでいい?」
そう聞くと、薫は涼を心配そうに見るが、涼は笑顔で「大丈夫」と答えた。グループのメンバーが決まったところで、次は修学旅行の三日目にある自由行動の観光地決め。その日は結局、行きたい場所ばかりで決められないまま話し合いは終わった。修学旅行当日までの約三週間のうち、何回か設けられていた話し合いの時間を使って、ようやく観光地を決めることができた。話し合いの中で、高遠と楽しげに話す涼の姿を見て、正直、嫉妬してしまっていた。そんな自分が情けなく感じる。告白すらできないくせに……嫉妬なんて。
沖縄へ三泊四日の修学旅行、その前日の夜。自宅療養に入った母と二人きりで話していた。「明日から修学旅行ね。母さんの事は気にしないで楽しんできてね」と微笑む母。でも、俺は少し心配だった。
「……うん。俺が居ない間は叔母さんが来てくれるんだよね?後、父さんも仕事を早めに切り上げてくるって。昼間もばあちゃんが居るんでしょ?」
質問攻めの俺に、母は溜め息をつく。
「そうよ。だから、何も心配せずに楽しんで」
「でも、やっぱり心配だよ……。確かに修学旅行は楽しみだけど」
母が眉間に皺を寄せて俺を見る。
「その顔やめてよ、さすが元ヤンだ」
「楽しんで帰ってこないと、あたし、晴真と口聞かんよ」
「……わかったよ」
きっと母なりの励まし方なんだと思う。昔から、何か辛いことがあっても笑顔だった母。そんな母だから余計に心配してしまう。突然、母が「そうだ!」と大きな声を出す。「突然、どうしたの」と聞くと、「妹から聞いたわよ~。晴真、学校に好きな子いるんだって?」と楽しそうに笑う。動揺を隠しきれず、思わず母から目を逸らした。母に伝えた犯人はきっと叔母さんだろう。思い返せば、昔から母も叔母さんも恋愛話が大好きで、執拗に「好きな子はいないの?」と聞かれていた気がする。その度に「いないよ」と言うのが面倒だった。
「あれ?今回は本当にいるみたいね」
母はニヤニヤと俺を見て、笑っている。話を逸らそうとしたが、質問攻めの母を止めることはできなかった。
「……で、どんな子?可愛いの?それとも綺麗?」
「母さんには関係ないだろ」
「えぇ~、教えてくれたっていいじゃない。一人息子の好きな人くらいさ」
母は俺の腕を指でつつく。「別にいるなんて言ってない」と言うと、母は不貞腐れたように「あっそう。……修学旅行で告白するの?」と言った。他の質問には真面目に答えるつもりはなかったが、その質問にだけは「……するつもりはない」と答えた。母は「どうして?好きなんでしょ?妹の話によれば、相手の子も晴真の事が好きみたいに見えるって」と目を見開く。
「……たとえ、そうだとしても今は考えられない。高校三年の最後までは告白はしないよ」
母が倒れて、病気が分かってから、心に決めていた。初めは両想いだと分かった時点で涼に告白するつもりでいた。でも、母が倒れてから将来の事を真剣に考えるようになった。いつまでも母が元気でいられるか、そんな先の未来なんてわからない。だから俺は、一人でも立派に生きていける人間になりたい。俺が目指している大学は生半可な気持ちでは入れない。大学に合格するまでは勉強に集中して、その後、……できるなら告白したいと思っている。
「……そうなのね。まぁ、晴真が決めた事なら口出ししないわよ。でも、いつか晴真の好きな人、あたしに会わせてね」
「……うん」
母と話し終わると、俺は寝る準備を始める。でも、ベッドに寝転がり目を閉じても、中々
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます