守りたい思い
春休みが明けると、俺達は二年生になった。三人とも同じクラスで、安堵する。特に夏山と離れるのは避けたかった。夏山は自覚がないみたいだが、表立って騒がれていないだけで、男子生徒の注目の的だ。もしも別のクラスになってしまったら、あっという間に囲まれてしまう。初日の自己紹介は名前だけで適当に済ませる。あまり長く話しても女子がうるさくて他のクラスメイトに迷惑をかけてしまう。順調に自己紹介も進み、櫻井の番になった時だった。後ろの席から櫻井の名前を呼ぶ女子生徒の声。その声に耳を貸さず、櫻井は無視して自己紹介を終える。でも、どこか顔色は悪そうに見えた。休み時間になると、櫻井に「大丈夫か?」と声をかける。櫻井は青ざめた顔で「大丈夫」と無理に笑った。その日の昼休み、三人で話していると、先程の女子生徒が近づいてくる。彼女の名前は岡田優美と言って、俺の嫌いなタイプ。岡田さんは櫻井と話し終わると、甘えたような声を出しながら俺に近づいてくる。呆れてしまい、適当に返事をして、すぐ席に戻った。俺の前では良い子なふりをしているけど、櫻井の様子からして岡田さんとは良い関係ではなかったことは見てわかる。それから毎日のように、岡田さんは櫻井に話しかけている。それも俺達の話の間を割って。岡田さんの自慢話ばかりが盛り上がり、三人だけで楽しく話もできない状態。俺達もそろそろ我慢の限界だった。
そんなある日のこと。いつものように岡田さんが俺達の元へやってくる。すると、櫻井が「ごめん、私達の三人で話したいことあるから、また今度にしてくれる……?」とはっきりと断った。俺がいるからか、大人しく去っていく岡田さん。櫻井と夏山は安堵した表情で話し始めた。だが、次の日から明らかに櫻井の様子がおかしい。それは岡田さんも同じ。櫻井を見て嘲笑っている。夏山に聞いてみると、靴箱に悪口の書かれた紙が入っていたと話してくれた。憤りを感じても、証拠がない以上、どうしようもない。日が経つにつれて、櫻井へのイジメは酷くなっていく一方。俺と夏山は櫻井が心配だった。
櫻井へのイジメが始まってから一ヶ月経った頃、突然、夏山が俺と櫻井から距離を置くようになった。何度話しかけても「ごめん」その一言しか返ってこない。大体予想はついている……夏山が距離を置くようになってから櫻井のイジメがなくなった。といっても夏山がイジメられている様子はない。これは俺の考えに過ぎないが……。多分、櫻井のイジメをやめる代わりに俺達と話すな、とでも言われているのだろう。好きな人が困っているのに何もできないなんて最低だ。夏山を助けたい……でも、どうしたら助けられるのか。悩んでも答えは見つからないまま、一ヶ月が過ぎた。
そんなある日のこと。昼休みになると、急ぎ足で教室を出て行った夏山を追いかける。「夏山、どこに行くの?」と声をかけるが、夏山は振り向きもせず「ごめん」と答えた。ただ、夏山の肩は震えていた。一言だけ言うと、夏山は歩いて行ってしまう。多分、向かっているの図書室だと思う。分かっているけど、俺はついていくことができなかった。その日の放課後、忘れた荷物を取りに、教室に戻る。その時、夏山が岡田さんやその取り巻き達と一緒に、空き教室へと入っていくのが見えた。足音を立てず、静かに夏山の元へ向かう。そして、教室にそっと聞き耳を立てた。中では夏山と岡田さんが言い合っている声が聞こえてくる。震えた夏山の声を聞いて居ても立っても居られず。録画しているように見せかけるため、岡田さんの立っている方にスマホを向けながら教室の扉を開けた。タイミングよく岡田さんが夏山に手を上げる寸前だった。すぐに夏山の前に立ち、戸惑う岡田さんと取り巻きに「本当にくだらないね、君達は。人をイジメて誰かに取り入ろうとするのもくだらない」と言い放つ。岡田さんと取り巻きは慌てて空き教室から出て行く。振り返ると、安心したからか、夏山は地面に倒れ込みそうになる。慌てて身体を支えると、夏山は肩を震わせて「ごめんなさい」と謝った。俺は夏山を優しく抱きしめる。胸に顔をうずめ、何度も謝りながら涙を流す夏山を守りたいと強く思った。しばらくして夏山も泣き止み、俺から身体を離す。その後、夏山は荷物を取りに教室へ、俺は先に校門へ向かい、夏山と櫻井を待っていた。空き教室の前で聞き耳を立てていた時、櫻井には夏山が岡田さん達といることを連絡しておいた。だから今頃、二人で話しているところだと思う。十分程経つと、校舎の方から校門に向かって歩いてくる二人の姿が見えた。二人の顔は涙で目が腫れていて、想像なんかしなくても泣いたんだと分かる。
「よし!今日は俺の奢りだな」
俺の言葉を聞くと、泣き腫らした目の二人は満面の笑みを浮かべる。久しぶりに三人で帰ることができて嬉しい。特に嬉しいのは夏山と話せるようになったことだけど。
次の日から、岡田さんが俺達に関わってくることはなくなり、以前と変わらない学校生活に戻った。ただ、時間はあっという間に過ぎ去り、二年目の夏休みを迎える。昨年は全く予定のなかった夏休みだけど、今年は一つ予定ができた。それは夏山や櫻井との夏祭り。夏祭りの日までが待ち遠しく、一日一日が長く感じる。高校で出された課題も終わって
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