似た者同士

 学校が始まり、三日後。二学期に入って最初の図書室当番があった。一学期同様、夏山さんよりも早く図書室へと向かう。秘密の部屋で本を読んで待っていると、叔母さんに声をかけられる。

 「晴真。暇なら、この荷物を職員室の私の机に置いてきてくれない?私も今の作業が終わったら行くんだけどさ。お願いしてもいい?」

 この部屋を使っている以上、断ることもできない。

 「……いいですよ」

 俺は手に持っていた本を机に置き、頼まれた荷物を持って職員室へと向かった。職員室に入り、叔母さんの机に荷物を置く。急いで職員室を出ようとした時、担任に呼び止められてしまった。長々と、部活に入らないのか?という話を聞かされ、十分後にようやく職員室から出ることができた。

 (はぁ……もういるかな、夏山さん)

 俺は駆け足で図書室へと戻る。扉を開けると、受付に夏山さんの姿はない。音が出ないように秘密の部屋へと足を進めると、夏山さんの後ろ姿が見えた。気づかれないように、そっと近づく。夏山さんは置きっぱなしにしていた俺の本を手に持っていた。声をかけようとすると、先に夏山さんの方が後ろを振り返り、俺を見て驚く。その瞬間、夏山さんは本を落としてしまい、慌てて本を拾う。

 (もしかして、気になっている本なのかな?)

 そう思って「……読み終わったら貸そうか?」と聞いてみた。すると、夏山さんは急いで受付の方へ行き、戻ってくると手に持っている本を見せてきた。それは俺が持っているものと同じ本。驚いている俺とは反対に、夏山さんは嬉しそうな顔で話し始める。正直、会話の内容なんてどうでもいい……、嬉しそうな顔の夏山さんを見ている方だけで楽しかった。その後は、秘密の部屋で夏山さんと本について語り合う。楽しい時間はあっという間で、時計を見ると十七時になっていた。丁度、図書室の扉が開く音が聞こえ、叔母さんが俺の名前を呼ぶ。夏山さんは慌てて出て行こうとするが、それよりも先に扉が開いた。

 「あら、二人ともここに居たのね」

 叔母さんが俺達を見て微笑む……というか俺を見てニヤニヤしている。夏山さんはなぜか俯いていたので、叔母さんの表情には気づいていない。それが救いだった。「早く帰りなさいね」と言うと、叔母さんは俺達の元を離れる。続くように夏山さんも出て行こうとしたので、慌てて声をかけてしまった。「なに?」と夏山さんに聞かれても、咄嗟のことで言葉が出てこない。「あ、あぁいやなんでもない。俺も帰るわ」と言うと、夏山さんは部屋を出て行ってしまった。本当は「明日から普通に話しかけてもいい?」と聞こうとしたが、言えなかった。聞いた後、夏山さんに困った表情をされたら、ショックを受けそうで。……だから、明日から挨拶だけじゃなくて普通に話しかけようと思った。

 次の日から、挨拶以外でも夏山さんに話しかけるようになった。夏山さんは戸惑っているようだけど、気にせず話しかける。そんな俺達を夏山さんの親友である櫻井さんは不思議そうに見ていた。夏山さんに質問したようだけど、俺が代わりに「友達だよ」と答える。その言葉を聞いて夏山さんは驚いた表情を浮かべた。反対に櫻井さんは一瞬だけ俺の事を睨みつける。俺はあえて気づかないフリをした。その日の放課後、夏山さんの連絡先を聞き、俺達は紛れもなく友達になった。夏山さんと話すようになってから、つまらなかった学校生活が楽しいと思えるように。ただ、櫻井さんは俺の事を嫌っているようだけど……。

 二学期の中盤になると、担任の先生が席替えをすると言い出す。クラスメイトは喜んでいるようだけど、俺にとっては最悪でしかない。隣の席の夏山さんを横目で見ると、同じように沈んだような表情を浮かべている。

 「もしかして、夏山さんも席替え嫌だったりする?」

 そう聞いてみると、夏山さんは深く頷いた。同じ気持ちであることを知り、ちょっと嬉しくなる。クジ引きの順番が回ってくると、夏山さんの隣になれるよう祈りながらクジを引いた。紙を開き、書かれていた番号に机を移動する。夏山さんはどこだろうと見渡すと、俺の左斜め後ろの席に座っていた。俺は急いで机を運ぶ。運び終えた時に隣の席にいたのは櫻井さんだった。やはり嫌われているのか、櫻井さんは怪訝そうな表情で俺を見る。それから二学期が終わるまで、櫻井さんとはほとんど話さず。会話するとしても、夏山さんを間に挟むような形だった。

 冬休みに入り、元旦に両親と初詣へ来ていた。家に近いところだったので高校の同級生は来ていないだろう。そう思っていた時、たまたま櫻井さんと会ってしまった。お互いに気まずく、挨拶程度に軽く頭を下げる。櫻井さんがそそくさと離れていこうとするので、俺は追いかけて話しかける。

 「ねぇ、櫻井さんって俺の事嫌いでしょ?」

 そう聞くと、櫻井さんは思いもよらない言葉を俺に投げかける。

 「〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇……」

 「えっ?」と驚く俺を櫻井さんは真剣な目で見つめる。

 「〇〇〇〇〇〇〇〇〇、〇〇〇〇〇〇〇〇〇」

 それから櫻井さんは俺に全てを打ち明けてくれた。きっと言いづらいこともあるはずなのに。自分の事を言わないのは少し気が引けて、俺も過去の事を全て打ち明けた。初めて知る、お互いの気持ち。友達……それとはまた違う別の絆が生まれたような気がした。連絡先も交換して、三学期が始まる前には櫻井さんと打ち解けることができた。三学期に入ると、いつの間にか仲良くなった俺と櫻井さを不思議そうに見る夏山さん。でも、俺達が話すところを見て微笑んでいるようだった。俺達は三人でいることが増え、一緒に登下校するまで仲良くなった。三学期は学校へ行く日数も少なく、あっという間に過ぎ去る。それは春休みも同じだった。

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