〈現代〉夏山 涼
動き始める時間
あの後、華璃が私を探しに来てくれた。「ごめんね。もう帰る」と言うと、華璃は優しい声で「分かった。気をつけて帰ってね」と返事をする。母が公園まで迎えに来てくれて、車で家に帰る。私はすぐに自室へ向かい、ベッドの上に横たわった。
もう二度と会わないと思っていた……。もう二度と会いたくなかった……。三年も経って、久しぶりに見た二人の姿は高校生の時よりも大人になっていた。相変わらず綺麗な薫、相変わらずカッコいい晴真。せめて、二人に会っても怖気づかないような強い自分でありたかった。
(もう、疲れた……)
私はいつの間に目を閉じ、眠ってしまっていた。目を覚ました時には外から鳥のさえずりが聞こえてくる。お風呂に入って、リビングで一人くつろぐ。何も考えないようにするため、久しぶりに本棚にあった懐かしい本を読んだ。本の半分を読み終わった頃、弟がリビングに入ってくる。それと同時に玄関のチャイムが鳴った。弟が玄関に向かい、インターホンに向かって話す。弟の話し声が三分ほど続くと、リビングに戻ってきて私を呼んだ。
「涼ねぇ、晴真さんが来てる……」
困ったような表情の弟に、追い返すように言う。また玄関に戻る弟の後ろ姿を見ていた。戻ってきたと思ったら、弟は「話してくれるまで外で待ってるって」と言う。弟には「気にしないで。どうせ、すぐに帰るから。玄関には近寄らないで」と言い聞かせた。それから三時間経った頃、弟が「まだ、晴真さんいるよ」と私の肩を叩く。今は夏、外で待っていれば熱中症になってしまうかもしれない。そのうえ、あと少しでパートに出ていた母が帰ってくる。私は部屋に戻り、外に出られるような格好に着替える。そして、玄関前の廊下に立っている弟に「行ってくる。すぐに帰ってくるから」と言い、玄関の扉を開けた。外には晴真の姿があり、扉が開く音が聞こえたのか、私の方を見る。驚いた表情の晴真に近づき「ここじゃ、話せない。だから、話せる場所に行こう」と声をかける。そして、晴真の横を通り過ぎた。晴真は距離をあけながら私についてくる。私達は近所に最近できたカフェへと入った。それぞれ、飲みたいものだけ注文。先に口を開くのは私。
「何か用なの……?私は何も話すことない」
そう言うと、晴真は落ち着いた声で話し始めた。
「ごめん……、あの時はごめん。まず謝りたいんだ」
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