裏切り
休日が明けると、薫は私に会って早々に「……球技大会の日、本当に心配かけてごめんね。後、保健室の時、体調がまだ悪くて涼に冷たい態度取ってた……ごめん」と謝る。私が首を振り「大丈夫だよ。それより、体調は平気?」と聞くと、薫は「うん、おかげさまで。今度はちゃんと体調管理も考えて勉強しなきゃだね」と笑顔を見せた。元気になった様子の薫を見て私は安心する。保健室での冷たい態度の薫も体調が悪かったことを考えれば納得ができる。私の方こそ謝りたいくらいだった。
「というか、あっという間にもうすぐ夏休みだよ~。その前に期末テストだし。涼、勉強教えてね」
そう言いながら、足元の石ころを蹴り飛ばす薫。球技大会が終わると、あっという間に夏休みが来てしまう。二年生までは嬉しかったはずなのに、今はなんだか寂しいような気がした。卒業まで刻々と時間が過ぎていくようで。毎日勉強して、三人で他愛もない話をして……。期末テストも終わり、とうとう最後の夏休みになってしまった。今年も夏休みを楽しむぞ、というわけにもいかず……、ほとんど受験勉強の毎日だった。三人で集まって勉強をすることはあっても、海に出かけたり、買い物に出かけたりする余裕はない。ただ、ひとつだけ楽しみがある。それは昨年同様に夏祭りに三人で行くこと。せっかくの夏休みで何処にも行かないのはつまらないので、三人で夏祭りくらいは出かけようと約束をしている。
夏祭りまで、あと一週間。
私は薫と晴真と一緒に学校へ向かっていた。希望している大学の見学で書いたレポートを担任の先生へ提出するために。学校に着くと職員室へ入り、担任の先生にレポートを提出する。薫と晴真は提出が終わると先に校門へ向かった。私は先生に進路の事で呼び止められ、遅れて校門へと向かった。
暑い日差しの中、二人の元へ向かって足を走らせる。
校門まで着き、二人に声をかけようとした時だった……。
目の前で薫と晴真の顔が重なり合う。
追いつかない感情より先に、身体中から冷や汗が流れ、体温が下がっていく。
私は二人を見つめたまま動けなくなってしまった。
足音に気づいたのか、振り返った二人が私を見た。焦ったような、驚いているような……そんな二人の表情が、私の目の奥に鮮明に焼きつく。
『……涼!』
名前を呼ばれた時、身体の糸が解けたように私は動けるようになった。きっと、二人の元から逃げるために。そのために……。何も言わずに、通学路を走って走って走って、ひたすらに走った……。息が切れて立ち止まる。後ろを振り返ってみても、追いかけてくる二人の姿はどこにもなかった。走ったせいなのか、それとも悲しいからなのか……胸が締め付けられるように苦しい、痛い、辛い。考えられるのはそれだけだった。ただただ、涙が滝のように溢れ出して、周囲の人からは変な目で見られていた。一人で電車に乗り、家まで歩く。何度、後ろを振り返っても二人の姿はない……。
その日から私は、二人のメッセージにも電話にも反応せず、連絡の一切を絶った。一週間後の夏祭り、机に向かって勉強に励む。何かに集中していると、二人の事を考えずに済むから。夏休みが終わるまでに、何度か晴真と薫が私の家に訪ねてくる姿を、部屋の窓越しに見かけた。その度に布団に潜り、家族に体調不良だからと帰ってもらうよう言う。家に私だけの時は、居留守を使った。こうして、私の高校最後の夏休みは最悪な幕を閉じた。
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