言えた想い

  冬休み期間中、私は晴真と何回かデートへ行った。薫には内緒で……というよりも、薫はバイトばかりで誘っても来てくれない。薫がバイトを頑張る理由は知っている。大学に通うための費用を稼ぐため。薫の家は幼い頃に父親が亡くなり、母親が頑張って働いて生活を支えている。だから、せめて大学の費用だけは自分でどうにかしたいと薫は話していた。私は何も力になれないけど、応援したいし、せめて薫の苦手な勉強だけは一緒に頑張りたいと思っている。そんな薫に晴真とのことを黙っているのは辛かった。でも中々言い出すタイミングがなくて……。晴真に相談すると「代わりに言おうか?」と言ってくれたけど、私は自分の口から親友の薫に包み隠さずに言いたい。だから、「大丈夫、自分で言うよ」と微笑んだ。

 冬休み明けの学校初日。HRが終わると、「あのさ……」と薫に声をかける。

 「今日の帰りは二人で帰らない?」

 そう言うと、薫は嬉しそうに笑う。

 「もちろん、大歓迎だけど。でも……晴真は?」

 「他の友達と帰るって」

 「そうなんだ。じゃあ、今日は久しぶりに二人で帰れるね!行こっ!」と、薫は私の手を引っ張り、教室を出る。校門を出て、二人で歩く通学路。緊張で薫に上手く話せるか不安になる。そんな私を薫は心配そうに見ている。

 「どうしたの?なんか体調悪い?」

 「ううん、違うの。ちょっと薫に話があって」

 「どうした……?悩み?」

 言おうとすると緊張で声が震えそうになる。私は深呼吸すると、薫に話し始めた。

 「あのね……。私ね、ずっと好きな人がいるの」

 恐る恐る薫の顔を覗く。薫は驚いたような顔をするわけでもなく、いつも通りの表情だった。

 「……知ってるよ。……晴真、でしょ?」

 そう言う薫は私の顔も見ない。「……ど、どうして」と呟くと、薫は「……誰が一番近くで涼の事見てきたと思ってんの?親友だよ?」と笑う。その顔は笑顔でも、どこか悲しそうに見える。バレているとは思わず、私は動揺が隠せない。そんな私に「いつ私に言うのかな~なんて思ってたくらいだよ」と薫は言う。薫の言葉が胸に刺さる。大切な親友なのに隠し続けていた。たとえ、関係が壊れるのが怖くても、言うべきだったのかもしれない……。「ごめんね」と謝ると、薫は「謝らないで……、言えない雰囲気にしてたのは私の方だし」と俯く。

 「涼、何回かさ。私に好きな人がいないかって話しかけてきたでしょ?……その時に話そうとしてくれてるんだって思ってた」

 「じゃあ……どうして?」と聞くと、薫の表情から笑顔は消えた。

 「怖かった、から……」と言う薫の話を静かに聞く。

 「涼と晴真が付き合ったら、私が一人になるんじゃないかって怖くて。自分勝手だよね……。親友が好きな人と付き合えるなんて喜ばしい事のはずなのにさ」

 薫の言っていることは理解できる。もしも、自分が同じ立場だったら薫と同じようなことを考えると思う。

 「勝手じゃないよ。私だって怖くなるよ、私だって薫が気を遣って傍に居なくなるのが怖かった……」

 互いに本当の想いを打ち明ける。ずっと心に引っかかっていた靄が晴れたような気がした。修学旅行の日に晴真へ告白したことも話そうとすると、遮るように薫は口を開く。

 「付き合ったんでしょ?晴真と……」と言う、薫の顔に笑顔はなかった。私が「……付き合ってないよ。気持ちは伝えたし、晴真も私を好きだって言ってくれた。でも、付き合ってない……」と話すと、薫は驚いた表情で肩を強く掴んだ。

 「は?付き合ってないの?どうして?」

 確かに、普通に考えたら両想いなのに付き合っていないなんておかしい。そう思われてもおかしくはない。「……晴真が受験に集中したいからって」と、私は晴真の事情を薫にも話した。その事については、自分の口から薫に伝えると晴真に話した時、許可は貰っている。私が話し終わった後、薫は小さな声でボソボソと何かを呟く。顔を覗き込むと、薫は我に返ったように話し始める。

 「涼はそれでいいの?」

 心配そうに見つめる薫に「……うん。だって、晴真が受験に合格したら告白するって約束してくれたから。私は晴真を信じる」と微笑む。すると、薫は「……そっか。でも、こんなこと言っちゃいけないかもしれないけどさ。ちょっと安心しちゃった」と笑った。薫の表情は先程と全く変わり、どこか晴れたような表情だった。「どうして?」と聞くと、薫は「だって、私……涼と一緒に居たいもん。昔はさ、一人でも大丈夫だったけど。涼と一緒にいるようになってから一人になるのが怖くなって」と言う。過去を知っている私は「何言ってるの!私は晴真と付き合っても付き合わなくても、ずっと薫と一緒にいるつもりだったよ。離れるわけないし、一人になんかさせない」と、薫を優しく抱きしめる。

 「そうだよね……、なんかごめん!」

 薫は普段と同じ明るい表情に戻り、「じゃあ、まだまだ私が涼を独り占めできるってことだね!」と笑った。薫の笑顔に釣られて私も笑う。その日から、私達はいつも通り三人で学校生活を過ごした。何もない平和な日々に、私は安堵している。学期初めは色々あったけれど、三学期もあっという間に過ぎていき、春休みを迎える。私達は大学進学に向けて、ちょっと遅いけど本格的に勉強を始めた。春休み中のこと。三人で私の家に集まった時、薫も私と晴真と同じ大学へ進学すると宣言。まさかの事で驚いたけど、嬉しかった。三人とも合格出来たら、大学でも一緒に居られるのだと。それは晴真も薫も同じようだった。普段は勉強が嫌いな薫も面倒くさいと言いながらも頑張っていて、私も薫に負けず勉強に取り組む。春休みが明けて、私達は高校の最高学年である三年生となった。あと一年、私は晴真と薫と全力で学校生活を楽しもうと思っている。もちろん、勉強も怠らずに。ただ……、三年生になって初めてクラスがバラバラになってしまった。薫だけが隣のクラス。薫と離れることになって、落ち込む私達。特に薫は「どうして、私だけ違うクラスなの……最悪……」と不貞腐れているようだった。

 「ほんとだよね。薫と一緒が良かったのに……」

 そう言うと、晴真が「涼?その言い方だと、俺とは嫌みたいな言い方になるよ?」と言った。「ごめん、そんなつもりないよ。ただ、薫も一緒が良かったなって」と謝ると、晴真は「冗談だよ、わかってるから」と笑う。落ち込む私と薫を晴真が励ましてくれた。落ち込んでいても仕方ない、私は「じゃあ、休み時間は廊下に出て話せば寂しくないよ」と薫に提案する。薫も拗ねた顔で頷いた。それからは、休み時間になると廊下へ出て三人で話すのが当たり前になっていった。段々と薫もクラスに馴染んできたみたいで、クラスでの事を楽しそうに話す。私もそれを聞いて安心した。薫のいない教室で晴真と一緒にいると、なんだか照れくさい。でも、楽しい。薫はよく「どうせ、私が居ないと二人はイチャイチャしてるんでしょー」と拗ねたように言うけど、それを言われるたびに私は恥ずかしかった。

 

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