仲良し三人組
次の日の朝もいつも通りの結城君。私を見て「おはよう」と言うと、席に着いた。ただ、今日はいつもと違う。結城君は休み時間や昼休みにも私に話しかけてくる。
「ねぇ、あの小説以外にも面白い小説あったら教えてくれない?」
「えっと、あ、うん。分かった」
初めは、もちろん戸惑った。でも……それよりも読書仲間の結城君に話しかけて貰えたことの方が嬉しかった。何の前触れもなく突然話すようになった私達を薫は「あれ、二人ともそんなに仲良かったっけ?」と不思議そうに見ている。そんな薫の質問に答えたのは私ではなく結城君だった。
「だって、俺たち同じ趣味を持つ仲間だし。てか、友達だからね」
思いもよらない結城君の言葉に、私も薫も驚く。
「なんで夏山さんまで驚いてるの」
「だって、友達なんて思ってもみなかったから……」
友達……、口に出して言われるとなんだか少し恥ずかしくて、でも、どこか嬉しい。そんな中、照れていた私を薫がどんな風に思っていたのか、その時は知る由もなかった。結城君と友達になってから、私の学校生活は入学当初よりも彩り始めた。時々やってくる学校がめんどくさくなる日も自然と無くなっていて、毎日、学校へ行くのが楽しい。もちろん、今までも薫がいてくれたおかげで楽しい学校生活を過ごせていた。それでも、薫以外の人と連絡先を交換して、少しずつ互いのことを知り、少しずつ仲が深まっていく……、その過程の全てが新鮮で楽しかった。二学期の半分が過ぎた頃、担任の先生が「席替えをするぞ!」と張り切った声で言う。それも、クジ引きで……。クラスメイト達は歓喜の声をあげていたが私は席替えに不満を持っていた。
(……せっかく仲良くなれたと思ったのに)
溜め息をついていると、「もしかして、夏山さんも席替え嫌だったりする?」と結城君が話しかけてくる。
「うーん、まぁね。この席のままでいいかなって」
そう答えると、結城君も「そうなんだ。じゃあ、俺と同じだね。俺もこのままの席がいいんだよね」と微笑む。結城君も同じ気持ちなのだと知り、少し嬉しくなった。クジ引きは出席番号順。着々と近づく自分の番に胸がドキドキと音を立てる。自分の番が回ってくると、薫や結城君と近くの席になるよう祈りながらクジを引いた。ホチキスで半分に閉ざされた紙を開く。番号は三十九番、窓側の後ろの方の席。担任の先生の合図で自分の机と椅子を持ち、番号の場所へと移動する。元の席とさほど遠くなかった私は早めに移動し終わり、席に着いていた。すると、薫が前の席に机を置き、「涼、これからよろしくね!」と笑う。その後、「俺もよろしく」と結城君も薫の隣の席机を置いた。私は一人で(二人とも近い席なんて、私はツイているな)と
(二人の仲を取り持たないと)と意気込んで迎えた三学期。先に教室にいた私と薫に「おはよう」と挨拶をする結城君。二学期の時は無視していた薫が「おはよう」と返す。その後も、楽しげに結城君と薫は話していた。なぜか私の知らないうちに仲良くなっていた二人。下校中、薫に理由を尋ねると「あ~、それはね。元旦の初詣でたまたま会って、そこから話して、連絡先交換して仲良くなったの。それだけ」と軽く説明されて終わり。どんな話をして連絡先を交換し仲良くなったのか詳しくは知らないけど、理由はなんであれ (仲良くなって良かった~)と私は心の底から安堵した。三学期は一学期や二学期と比べて登校日数が少ない。着々と過ぎてゆく三学期だったけど、私と薫と結城君の三人は一緒に下校するようになるまで仲良くなっていた。三人で帰る時間はいつも楽しくて……家に着かなければいいのにと思う日々ばかりだった。あまり関わることもなかった三年生の卒業式も終わり、私達も一年生最後の日を迎える。体育館に集められた生徒達が早く帰りたいとソワソワする終業式の中、私はこの一年の出来事を思い出していた。これと言って濃い思い出もないけれど、同じ趣味の友達ができたという些細なことが毎日を彩り、楽しい学校生活を送ることができたのだと思う。ボーっとしている間に終業式も終わり、各自それぞれの教室へ戻る。一年生の最後のホームルーム、三人での下校、そして私達は春休みを迎えた。
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