最悪な再会

 ハッと目が覚めると、目の横を涙が流れ落ちていく。時間を確認すると朝の八時。セットしていたアラームにも気づかず、一時間ほど多く眠ってしまっていた。嫌な夢を見たこともあってか、何故か今日のバーベキューに行かない方がいいような気がした。でも、せっかく誘ってくれたのに断るのは良くないと思い、急いで準備を始める。久しぶりに高校の友人に会うからか、待ち合わせ場所の地元の駅に向かう前から胸が高鳴る。待ち合わせの場所までは母に車で送ってもらい、駅に着くと華璃と高校の時の友人である高橋君がいた。私は二人と合流した後、高橋君の車に乗り、三人で食材の買い出しをしてから、バーベキューをする場所へと向かった。

 

 近くに川のある広い公園、この季節になると家族連れや私達のような大学生や社会人がバーベキューをしにやってくる。川からくるマイナスイオンの空気が夏の暑さを和らげ、木々や草木からくる自然の匂いが心を落ち着かせる。私は買った食材を抱え、先にバーベキューの準備をしていてくれる他のメンバーの元に三人で向かった。どこにいるのだろうと辺りを見回すと、メンバーの一人が手を振って「ここだよ~」と場所を教えてくれる。私を含めて六人と聞いていたけど、そこには華璃と幼馴染の佐藤さんしか居らず、華璃が「あれ?あと二人は?」と聞く。

 「あ、今ね。飲み物を冷やす氷はあるんだけど水がなかったから水道で汲んできてもらってるよ」

 佐藤さんは華璃の質問に答え、私は荷物をテーブルの上に置いた。食材を整理していると……、少し遠い場所から聞き覚えのある声がする。

 (まさかね……)

 私は声のする方へ目を向ける。すると、遠くからこちらに向かってくる男女の姿があった。その瞬間、身体中から冷や汗が出てきて寒気がした。遠くからでも、どれだけ会っていなくても私にはわかる……、その男女が誰なのかなんて。私は心を落ち着かせながら、華璃に聞く。

 「ねぇ、どうして嘘ついたの?」

 私から発せられた冷たい言葉に、困った表情の華璃。

 「え?どうしたの、何の話?」

 私が遠くから歩いてくる男女の姿を指さすと華璃は驚いた顔をしていた。

 「ねぇ、来ないって言ったよね……?」

 「私知らなかったの!元々、今いるメンバーでやるはずだったんだけ、高橋が後から二人誘って、人数が二人増えたってことしか知らなかったの!」

 焦る華璃は高橋君へ聞きに行き、すぐに私の元に戻り、申し訳なさそうに言った。

 「ごめん……、私が誰が来るとか、あの二人を呼ばないでとか、何も言わなかったから」

 謝る華璃は何も悪くない。でも、私は華璃に強く当たってしてしまうほど動揺していた。私は引きつった顔で華璃と佐藤さんに話しかける。

 「ごめんね、私帰るね……!誘ってくれたのにごめんね……!」

 こちらに向かってくる二人に見つからないよう、その場から離れようとした。その時、「涼っ!」と後ろから私を呼ぶ声がする。その声に続いて、「涼なのか!」と駆け寄ってくる足音が聞こえた。私は呼ぶ声を無視して歩き出す。追いかける足音が段々と近づいてくる。私が走り出そうとした瞬間、腕を強く掴まれた。私の腕を掴んだのは薫だった。その後ろから晴真が、私の元に向かって走ってくる足音が聞こえる。

 「ねぇ、涼でしょ?」

 薫は息切れした声で私に話しかける。でも、私はその声に応えず、掴まれた腕を振り払おうとした。

 「なんで、こっち向いてくれないの……?ねぇ、涼……」

 必死な薫の問いかけに何も言わないまま、私は俯く。その理由はただ一つ、今、顔を上げてしまったら抑えている涙が溢れそうで、何を言っても声が震えてしまいそうだから。それでも諦めずに何度も話しかける薫。そして、私達に追いついた晴真。「涼なんだろ?」と言って、晴真も同じように私の肩を掴んだ。その瞬間、抑えていた涙が溢れ、私の足元へと零れ落ちていく。私は震える声に言葉を乗せる。

 「離して……」

 細々とした力のない声。それでも、二人の手は私の身体から離れないまま。

 「話そうよ」

 「こっち向いてくれよ」

 そう言って、私の声に聞く耳を持たなかった。私の心は限界を迎えて、混ざり合った怒りと悲しみが爆発する。

 「もうやめてよ……、お願いだから離してっ!」

 私は初めて二人の前で声を荒げた。驚く二人は私を掴んでいた手を離し、「ごめん……」と謝る。私は涙を拭い、深呼吸をする。そして、心を落ち着かせてから二人の顔を見た。

 「どうして……、どうして私のことを裏切った二人がのうのうと話しかけられるの……?」

 言葉にするだけで胸が締め付けられる。

 「……裏切ったわけじゃないの!」

 もう一度、私の手を掴もうとする薫を私は反射的に振り払い、身体を強く押してしまった。薫は私に押された反動で足元にあった石につまずき、その場に尻もちをついてしまう。そんな薫に晴真は「大丈夫か?」と手を差し伸べ、「さすがに、それはやりすぎだろっ」と私を見て言う。

 「やっぱりそうじゃん……」

 私はそう呟いて、その場から走り去った。公園の近くにある川辺の少し大きい岩の上に座る。私はあの日と何ひとつ変わっていなかった。少し後ろを振り返っては悲しくなる。二人の足音は聞こえない。あの日のように、ほんの少しでも追いかけて来てくれるのではないかと期待するが自分が惨めで嫌になる。


 戻れるなら、あの頃に戻りたい。

 晴真を好きにならないように、二人が想い合っていたことに気が付いて、平和で幸せな高校生活に……。

 そうすれば、こんなことにはならずに済んだのに。

 ずっと三人で一緒にいられたのに……。



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