メリーゴーランド

第18話 メリーゴーランド

『プレイヤーの皆様。ドラコの玩具箱第四ブロック。メリーゴーランドへとようこそ』


 新たに辿り着いたゲームルームは、間違いなくこれまでで最も華やかな舞台であった。一際目を引くのは広い空間の中央に位置する、遊園地のアトラクションを思わせる豪奢なメリーゴーランド。馬車などは無く、全てが馬で、その質感から木馬のようだ。側面には一から十二の数字が振られ、合計十二体の木馬が時計と同じ感覚で並んでいた。その外周にはさらに、分刻みで六十体もの馬の頭部を模した木像が設置されている。七十二体の馬には共通して、額の部分には鍵穴らしき物が確認出来た。


 横からでは全容は見通せないだろうと、ドラコがメリーゴーランドを上から写した映像を画面に表示すると、屋根には時計の文字盤を思わせる意匠が組み込まれていた。メリーゴーランドそのものが、一つの巨大な時計となっているようだ。


「時計にメリーゴーランド。それっぽい名前の参加者なんていた?」

「馬を騎馬と見立てれば兵の名が入った兵衛さんか。時計を輪に見立てれば名前が輪花の蘆木さんもあり得るけど、どちらも正直しっくりこないな。何か隠しモチーフが存在するのかもしれません」


 これまで違い、今回のゲームは情報量が多すぎる。それ故に何が起きても、誰が選ばれても不思議ではない。


『ルールをご説明いたします。挑戦者には私が出題する時間に関する問いに答えて頂きます。問題は全一問で回答権も一度きり。正真正銘の一発勝負となります。皆様もお気づきかと思いますが、このメリーゴーランドは一つの巨大な時計となっており、メリーゴーランドの木馬は一時間単位、周囲の木馬は分単位をそれぞれ表しております。挑戦者には木馬の額にはまる鍵をお渡ししますので、正解の時刻を示す二ヶ所に鍵を差し込むことがクリア条件です』

「一発勝負と言ったが、失敗するとどうなるんだ?」


 士郎が疑問を投げかける。転落やガトリング砲と違い、命を奪う明確な脅威は現状確認出来ない。


『全ての木馬がプレイヤーへと襲い掛かります』


 ドラコが指を鳴らすと、メリーゴーランドの木馬のうち、十二時の位置の木馬の側面からはマシンガンが、三時の木馬の側面からは回転する鋸の刃が、六時の木馬の側面からは火炎放射器らしき装置が、九時の木馬からはワイヤーを射出する装置が、それぞれ出現した。


『お見せしたのはほんの一部ですが、周囲の六十体を含め、全ての木馬に殺人装置が組み込まれております。またこれらは、時間経過によっても一体ずつ作動し暴れ出しますので、あまり長考し過ぎると、一度も挑戦出来ぬままゲームオーバーとなってしまう可能性も有りますのでご注意を。ゲーム中は周囲に被害が及ばないよう、メリーゴーラウンド周辺は透明なシールドで囲まれます。正解の鍵穴に差し込んでも木馬の攻撃は止みませんが、シールドの外に繋がる扉を、木馬と同じ鍵で開錠出来ますので、クリア後は速やかに鍵を開けて脱出してください』


 手遅れになる前に一発勝負で正解を導き出し、危険な場所から脱出する。アクション性が求められたこれまでのゲームとは異なり、今回のゲームは極限状態でのクイズに近いと言える。


『それでは皆様お待ちかねの、ファーストペンギンルーレットのお時間です』


 冴子が候補から外れ、五分の一の確率のルーレットが回転を始める。ここまで来ると不安を覚えつつも、自分かもしれないと覚悟している者の方が多かった。


『ルーレットの結果、メリーゴーランドでファーストペンギンを務める勇気あるプレイヤーは、登呂石彦様に決定いたしました』

「……私か。上等じゃないか」


 登呂は冷静に決定を受け止めていた。冴子の活躍に勇気づけられたこともそうだが、登呂自身もデスゲームの司会者として多くのデスゲームに間近で関わってきた人間の一人だ。それなりに場慣れはしている。


『それでは登呂様。ゲーム開始前にそちらの鍵をお取りください』


 登呂がメリーゴーランドに近づくと、床から台がせり出してきて、その上には一本の鍵が置かれていた。金色の大きな鍵には、このゲームを象徴するに木製の馬のマスコットがぶら下がっている。


『その鍵はあなた様の命運を左右するとても大事なものです。二つの鍵穴と、シールドの外に脱出する際にも使いますので、決して手放さないようにしてくださいね』


 そんなことはドラコから言われるまでもない。登呂が鍵を手に取ると、台は再び床下へと戻っていった。


『ドラコの玩具箱第四ブロック。メリーゴーランド。ゲームスタートです!』


 登呂がメリーゴーランドに近づくと周囲に安全のためのシールドが張られ、同時にゲーム中の登呂の逃げ道を塞ぐ。事前に説明はなかったが、ゲームスタートと同時にメリーゴーランドがファンシーなBGMを纏ってゆっくりと回転を始めた。流石に開幕早々に殺人装置は発動しないようだが、例えば回転を伴った状態で銃撃や火炎放射が始まれば一大事だ。回転のもたらす視覚的恐怖と音楽による思考のノイズが想像以上に焦りを生む。


『それでは問題です。登呂様が死に、生まれるきっかけとなった時間は何時何分でしょうか? 回答権は一度きりですので、慎重かつ迅速に、正解の鍵穴に鍵を通してください』

「それは、私専用の問題と捉えていいのか?」

『はい。登呂様自身の人生と照らし合わせてお考えください』

「私の人生か……」


 時計回りのメリーゴーランドの前で登呂は目を伏せる。自業自得とはいえ、波乱万丈な人生を歩んできた。時間を前へ前へとひたすら進めていく木馬たちは、決して戻れぬ過去を突きつけているのかもしれない。

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