第19話 登呂石彦
登呂彦は軽妙なトークが売りのピン芸人として、三十歳手前で最初のブレイクを果たし、バラエティー番組でいわゆる雛壇芸人として注目を集め始める。名前が売れ始めてきた頃に、端正な顔立ちと高身長の存在感を見込まれ、一話限りのゲストとして深夜ドラマへと出演。賑やかしとしての登用だったのだが、元々役者志望だったこともあり、一人の役者として十二分の存在感を発揮し、役者としての仕事も増え始める。
この頃の登呂はまさに絶好調だった。そうして芸人兼役者として順調にキャリアを重ねていく中で、三十五歳の時に深夜帯に初の冠番組を持つことが決定。登呂自身も企画に関わったこのバラエティー番組は深夜帯ながらも視聴率は高水準を維持し、番組三年目にはゴールデンタイムへと進出。役者としてもレギュラーや、物語の黒幕など主要キャラクターを演じる機会も増え、登呂は芸能人としてまさに成熟期を迎えていた。それ故に高所から転落していく。
多忙を極め、プライベートもかなぐり捨てて活動していた登呂の唯一の楽しみは、あろうことか薬物への依存であった。とある薬物売買ルートが摘発される中で、顧客として登呂の名前が浮上。今から十二年前。人気タレントの登呂石彦が警察に逮捕されるというスキャンダラスなニュースが列島を駈け廻った。事務所からも契約を解除され、冠番組は即終了。出演予定だったドラマは代役を立てて撮影が続行されたが、出演していた映画は公開停止が決定。多額の違約金が登呂へと科せられることとなった。
初犯ということもあり、薬物使用に関しては執行猶予判決となったのが、その代償は大きく、芸能人としての復帰の芽は完全に断たれ、違約金等の支払により金銭面でも困窮した。そんな失意の底にいた登呂に手を差し伸べたのは、皮肉なことに薬物絡みで生まれた裏社会との繋がり。当時のデスゲーム界隈は興行としてのデスゲームの価値をより高めるべく、プロの司会者によるバラエティー番組顔負けの盛り上がりを求めていた。
人気番組の司会者として軽妙なトークで人気を集めた登呂はそのスキルはもちろんのこと、著名な人物をも取り込めるのだというデスゲーム運営の権威を示す、一種の広告塔としても必要な人材であった。生活苦に陥っていた登呂も多額の報酬に引かれ、彼はデスゲーム興行の名物司会者としての地位を確立していくことになる。
登呂の第二の人生は順風満帆かに思えたが、デスゲーム司会者としての地位にも徐々に陰りが見えてきた。十年も続けていると、観客から飽きられてきてしまったのだ。近年は軽妙なトークよりも、高性能カメラによるプレイヤーの死に際の感情面や、臨場感ある映像へと観客の興味は移っており、デスゲーム司会者としての地位は揺らいでいる。視聴者の興味が失われては生きてはいけない。皮肉にも芸能界と同じような現象が起きてしまっていた。
デスゲーム司会者として散々罪なき人々を見世物にしてきたのだ。今更自分が見世物にされても文句は言えないが、デスゲーム司会者としての己を登呂はまだ捨てきれてはいない。実際にデスゲームをクリアすれば、それは今後の活動における大きなステータスとなる。
デスゲーム司会者は登呂が知る限り複数人存在するが、実際にデスゲームをクリアした経験を持つ人材は皆無。司会にも説得力が生まれ、新たな地位を確立出来るかもしれない。多くのデスゲーム関係者が集った今回の場を、登呂は自身の再起を図る場所と位置付けていた。だからこそ、見世物として死んでなんていられない。自分はプレイヤーを見世物にする側の人間なのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます