第5話 プレイヤー
『それでは続きまして、皆様にとって最大の関心事であろう、どうしてこのメンバーがドラコの玩具箱へと集められたのかについて、予めご説明しておきましょう。観覧者向けのプロモーションも兼ねていますので、こちらの映像をご覧ください』
ドラコの合図でラウンジの明かりが消灯。代わりに天上からスポットライトの光が差し込み、ゲームの参加者の一人である、濃紺のジャケットを羽織った端正な顔立ちの男性を照らし出した。同時にモニターの画面がドラコから切り替わる。
『プレイヤーナンバー〇一。
画面にはスポットライトを浴びて困惑する登呂の顔と共に、簡易的なプロフィールが流され、それがドラコによって読み上げられている。このデスゲームの根底にあるのは
『プレイヤーナンバー〇二。
屈強な肉体にフライトジャケットを羽織った兵衛は、紹介されている最中も
『プレイヤーナンバー〇三。
「ごっ、ごめんなさい!」
必死に手で顔を隠そうと右往左往をする輪花をドラコが静かに一喝すると、蘆木も観念して今にも泣きだしそうな顔を衆目に晒した。
『蘆木様は普段は大手銀行にお務めですが、その裏でデスゲーム興行の収益の資金洗浄を担当してきた経歴をお持ちです。その大胆不敵な行動がゲーム攻略の鍵となることもあるかもしれませんよ』
グレーのパンツスーツを着た小柄な蘆木輪花は、直前の怯え様もあって気弱そうな印象が濃いが、ドラコの言う肩書が事実だとすれば、面の皮が厚い人物なのかもしれない。
『プレイヤーナンバー〇四。
三つ揃えのスーツを着た白髪交じりの御手洗は、言葉に出さないまでも気難しい顔でカメラを睨み付けている。肩書だけを見れば最も成功している人間だ。現在置かれている状況に誰よりも不満を抱いているのかもしれない。
『プレイヤーナンバー〇五。
青いツナギを着たスキンヘッドの龍見は、目を伏せてジッと紹介が終わるのを待っている。動揺は少なく、その経歴からゲームに対して不安よりも自信の方が上回っているのかもしれない。
『プレイヤーナンバー〇六。
「名前だけでも憶えていってくださいね」
若手芸人のような口上で胡鬼子は画面の向こうの観客に笑顔を振りまく。普段はデスゲームを企画している側の人間だからこそ順応が早いのかもしれないが、だからといって自分の命が懸かった状況をこんなにもあっさりと飲み込めるかは疑問だ。すでに胡鬼子の中では何らかの戦略が始まっているのかもしれない。
『プレイヤーナンバー〇七。
胡鬼子ほど積極的ではないが、冴子も画面の向こうへ会釈するなど観客を意識した態度を取った。そこはやはり、デスゲームクリエイターとしての
『そして最後はプレイヤーナンバー〇八。
画面の向こうの観客の反応までは伺い知れないが、参加者一同からも大いに注目を浴びた。元から感心を寄せていた冴子や胡鬼子は元より、無関心そうだった他の五人も驚愕の眼差しで士郎本人を注視している。士郎はこの中で唯一の生粋のデスゲームプレイヤー。それだけで大きなアドバンテージだ。
『観客の皆様は前座として、積木様の見事なゲーム攻略を視聴されたはずです。最年少ではございますが、此度のデスゲーム、ドラコの玩具箱を盛り上げてくださる台風の目となることは間違いございません。私一押しのプレイヤーですので乞うご期待ですよ』
ドラコの
「積木くんだけ到着が遅かったけど、君はもう一戦交えたばかりだったんだ」
「その口振りだと、綾取さん達はまだ?」
「ええ。目覚めた時にはもうあのラウンジだったから。君は貧乏くじ引いちゃったみたいね」
「怪我も疲労もないし、丁度いい肩慣らしだったと思っておきますよ」
「前向き。歴戦の猛者は違うね」
前座という名目で士郎は他のプレイヤーと比べて余分に命の危機に晒されたわけだが、そのことに対する憤りは皆無のようだ。想像以上のイカレ具合に冴子は感心するばかりだった。
『皆様もお気づきの通り、今回ドラコの玩具箱に参加していただくプレイヤーは、これまでデスゲームに運営側として関わって来た方々が中心となっております。何も知らずにデスゲーム会場に集められた一般人たちの
派手なSEと共に、竜の意匠があしらわれた「ドラコの玩具箱」のロゴがデカデカと画面上に映し出された。ご丁寧に「draco presents」と添えられている。
『デスゲームの運営側として関わって来た方々のデスゲーム攻略というのは、これまでの一般プレイヤーとはまた異なる、見応えのある興行になると私は確信しております。さあさあ、この中のどなたがこのデスゲームを生き延びるのか。プレイヤーの皆様も観覧者の皆様も、是非この新感覚デスゲーム、ドラコの玩具箱をお楽しみくださいませ』
ドラコがそう締めくくると、途端に映像はデスゲーム愛好家達が集う各地の闇のパブリックビューイング会場の模様へと切り替わり、仮面で顔を隠した各界のVIPたちが惜しみない拍手を送った。画面の向こうは大いに賑わっているようだ。
『観覧者の皆様へのご説明のため、プレイヤーの皆様は今しばらくこの場でお待ちください』
そう言って、一度モニターの電源が切れた。
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