控室
第4話 ファーストペンギン
リフティングをクリアした士郎が延々と続く真っ白な廊下を歩いていると、ようやく終点となる鮮烈な赤い扉が姿を現した。目の前にやってくると機械音と共にドアノブが自動で周り、扉が勝手に前方へと開いた。
その先に広がっていた光景は、高級ラウンジを思わせる
「君が最後の一人か。思ったよりも若いね」
真っ赤なソファーに腰掛け足を組んでいたショートヘアの女性が、笑顔で士郎を手招きする。スラリとしたモデル体型で、レザージャケットとデニムのスキニーパンツをスタイリッシュに着こなしている。
「ここにいる全員、ドラコの玩具箱のプレイヤーですか?」
目のあった一人一人に会釈をしつつ、士郎は手招きした女性の隣へと腰を下ろした。
「残念ながらそのようね。私は
「積木士郎です。俺で最後なんですか?」
「ドラコから、最後の参加者が到着するまでしばしご歓談をというアナウンスが流れてね。それからやってきたのが君というわけさ」
士郎の問いには、直ぐ近くのバーカウンターに腰掛けていた、センター分けのパーマヘアが特徴的な青年が答えた。スタンドカラーのシャツに、ニットのカーディガンを羽織っている。
「
胡鬼子が笑顔で握手を求めてきたので士郎もそれに応じる。デスゲームの緊張感の中にあっても、冴子と胡鬼子には余裕が感じられる。恐らく同類の臭いを嗅ぎとったからこそ、士郎と交流を図ったのだろう。
残る五人の参加者は、到着時の士郎を一瞥しただけでそれからは見向きもしない。孤高を望み、目を伏せてどっしり構えている者もいれば、場の空気に飲まれて、落ち着きなくその場を行ったり来たりしている者もいる。
「今回はどういう集まりなんですか? 多重債務者の集まりには見えないけど」
「私と胡鬼子さんは元々面識があったし、全員ではないけど他にも見覚えのある顔もある。私たちからすれば君こそイレギュラーなんだけど、一体何者なの?」
「一言で表すなら、デスゲーム狂いの変態かな」
「うわー。それを自称するのは確かに変態だ」
冴子が感心半分、呆れ半分に苦笑する。
ほぼ同時に、ラウンジに設置されていたモニターの電源が入り、竜頭のゲームマスター、ドラコの姿が映し出された。
『皆様、大変長らくお待たせいたしました。全プレイヤーが揃いましたところで、新感覚デスゲーム、ドラコの玩具箱についての説明を始めさせて頂きます』
その場に緊張が広がり、全員の視線がモニターに釘付けとなる。
『皆様にはこれより、私が用意した八個のデスゲームへと挑んで頂きます。なお、その模様は興行として、各地のデスゲーム愛好家の皆様へと中継されております。どうか序盤で呆気なく全滅してしまうような、つまらないゲームとならないようにご注意くださいませ』
士郎が普段参加しているようなデスゲームなら、この時点で「ふざけるな」と感情的に叫んだり、命の尊さを説いたりと、理不尽な状況に憤る人間が続出するものだが、余裕の無い者も含めてそういった動きは見えない。肝が据わっているのか、あるいは諦観しているのか。
『デスゲームの内容は毎回異なり、ゲームをクリアすることで次のブロックへと進むことが出来ます。なお、ゲームは一部の例外を除いて一人用であり、挑戦者が失敗した場合は別の誰かがまたそのゲームへと挑むこととなります。それを繰り返し、最終ブロックへの到達を目指してください』
「しかしゲームマスター。ある程度ゲーム性を把握出来る二番手以降はともかく、誰もリスクの高いファーストペンギンなんてやりたがらないんじゃないかい?」
沈黙を破りドラコに疑問を投げかけたのは胡鬼子だった。危険の伴う海に勇気を出して飛び込む最初のペンギンになぞらえ、リスクを恐れず新たな挑戦をする経営者などを指すファーストペンギンというビジネス用語を、胡鬼子は最もリスクの高い最初のプレイヤーへとなぞらえたようだ。
『胡鬼子様の懸念はごもっともです。そこで公平を規すためにもう一つルールを設けさせいただきます。私が用意したデスゲームは八個。そしてプレイヤーの人数は八人。もうお分かりですね? プレイヤーの皆様には八個のゲームの中で、最低でも一度はファーストペンギンを務めて頂きます。遅かれ早かれ、誰もが初見プレイに挑まなくてはいけないということですよ』
「誰がどのゲームでファーストペンギンを務めるのかは、僕らが選べるのかい?」
『誰がどのゲームでファーストペンギンを務めるかは天のみぞ知る。即ちルーレットで決めさせて頂きます。興行である以上、ファーストペンギン決めに時間を割かれても困りますので。もちろんこれがデスゲームである以上、プレイヤーに拒否権がないことは、聡明な皆様ならよくお分かりですよね?』
「趣旨は理解したよ。強いられている時点でファーストペンギンとは似て非なるものだけどね」
相手を刺激しない程度の細やかな皮肉で、胡鬼子は質問を締めくくった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます