眩しさの五月晴れ

CHOPI

眩しさの五月晴れ

「まっぶしー……」

 ゴミ捨てのため、玄関から出た際の第一声。目に映る世界が日の光を受けてキラキラと反射する様は、正直言えば寝起きの視界には暴力的でしかない。季節の移ろいの早さに思わずため息が出る。気が付けばGWも終わり、5月の半ばが目前までやってきていた。


 毎年この時期になると、イヤでも思い出す。自分一人だけ、迷子になってしまったような感覚に襲われる。五月病、とまではいかないけれど、かなり落ち込むのは事実だった。


 ******


 ――……数年前、まだ自分が学生から社会人になったばかりの頃。GW、特に予定も無かった自分は、何となく地元へと顔を出した。卒業し、新たな生活が始まって最初の大型連休。とはいえ、地元を離れてから1ヶ月と少し。大して変わるものなんて無いと思っていた。……いや、違うな。そんなことすら何も考えずに帰ったんだ。


『GW、何してる? 時間取れる人は集まろうよー』

 地域性も手伝って、かなり狭かった学生時代のコミュニティ。そのLINEグループは卒業式を最後に止まっていたけれど、委員長の一声に細々とだけど再び動き出した。やがてGWが近くなるころには、ほとんど全員が反応を返すくらいには、まだまだ別れてから日は浅かった。


 だから余計に何も考えず、フラッと地元へ帰ったんだ。だけどそんな自分の考えが一瞬にして変わることになった。たった1ヶ月と少し。そんなわずかな期間で、久しぶりに会った同級生たちは、顔つきや雰囲気が変わっているように感じられた。……あれ、あいつ、あんなに大人っぽかったっけ?とか。あれ、あの子、あんなにハキハキ話す子だったっけ?とか。正直、かなり戸惑いを隠せなかった。


 GW終盤、地元から戻って来てからも、その光景が目に焼き付いて離れなかった。たったの1ヶ月と少し。その期間に自分が知っていたみんなはどこか遠くに、先の方に行ってしまったようで寂しくなった。


 それ以降、なんとなく同級生たちに会うのは気が引けて、地元へ足が向かなくなった。GWも過ぎ、やがて雨が降り続ける紫陽花のキレイな季節になった頃、特段何も言わずに静かにLINEグループも抜けた。誰のせいとかじゃない、強いて言えば自分のせい。


 ******


 カレンダーに目をやる。あれから月日がだいぶたった。今年のGWはあの件以降、本当に久しぶりに地元へと顔を出した。だけどもう、地元に残っている人の方が少なくなっていて、だから街中でばったり会う、なんてことも無かった。


 ……もし。もしも、同級生たちに会うことがあったなら。やっぱり今でもみんなが自分より何倍も先に進んで切るように、何倍も大人になっているように見えるんだろうか。


 ゴミ捨て場にゴミを置き、容赦なく照らしてくる暴力的な日差しから目を逸らして、猫背になった背中にその光を受けながら、少し薄暗い自宅のアパートの入り口がある路地裏を目指した。みんながこの日差しを受けて、楽しそうに笑っていればいい。そう心で願いながら。

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