第13話 ぶっちゃけ引きこもりにダッシュはキツい
カイの手を取り走り出すと同時にモンスターもこちらに向かって突進の勢いで走り出した。
無我夢中で足を動かすが、人間の足で動物の足に敵うはずがない。どんどん距離を詰められていく。
「おい、どうにかならんのか?もう走り疲れたぞ俺は。」
「アンタがアイツのキバを折らなければ良かっただけの話でしょ!?」
「折ったんじゃない。ちょっと軽く捻ったら取れてしまっただけだ。」
「それを折ったって言うんでしょ!?」
叫びながら走ったら余計に体力が消耗されてしまう。
加えてこちらは木々を避けて走っているというのにモンスターはそんなの関係無しに薙ぎ倒しながら向かって来るのだから、追いつかれてしまうのは時間の問題だ。
「おい、ゲルダ。お前見る限り役職は魔術師だろう?空は飛べんのか?」
「空中飛行は専門外だから、出来るとすれば高く浮く事しか__」
「それでいい。」
カイにも何か考えがあるのだろう。
もうどうにでもなれとばかりに投げやりな姿勢で魔術書を開いて呪文を唱える。
すると二人の身体が宙へと高く浮いた。
だがゲルダの言う通り、浮くだけで飛んで逃げる事は出来ないようだ。
そして当然だが地上ではモンスターがこちらが降りてくるのを待ちわびている。
ずっとこうしているわけにもいかない。言うなら無意味な行動だ。
「浮いてどうするつもりなのさ!まさか『何も考えてない』とか言わないだろうね!?」
「流石の俺も自分の身が危険だというのに黙って捕まったりしないさ。」
カイは下で目を赤く光らせているモンスターに向けて左手を向けた。
「さてさて、ひとつ聞こう。紐なしバンジーは好きか?」
その言葉と共に、カイの何倍とデカいモンスターの身体が空中へと持ち上がる。
そしてこちらに届くか届かないかのギリギリのラインで引力は解かれた。
まるで命綱が断たれてしまったかのようだ。
空気を背中全体で受けながら、モンスターは地面へ一直線に落ちた。
音と地響き。そして舞った砂煙が、その勢いの強さを物語っている。
「……やったの?」
「分からん。」
恐る恐る地面に降り立つ。
モンスターは倒せはしなかったが頭を強く打ったのか気絶していた。
「どうやらうまくやったようだな。」
「ねぇ、アンタ確か持てる物の重さに限りがあるって言ってたよね?重めの成人男性が一人くらいとか。コレどう見てもそれより重いと思うんだけど。」
「見た目はな。さっき折れたキバの表面を見て思ったんだが……中身がだいぶスカスカだった。あとこいつを触ってみろ。体の殆どが毛で肉の部分が全くと言っていい程無い。よくこれであんな馬鹿力とスピードが出せるものだな。」
「それで持ち上げられたってわけね。コイツ、骨に隙間が出来るほど年寄りのモンスターってわけじゃないと思うけど……まぁ、いいか。でももし持ち上げられなかったらどうするつもりだったのさ。」
「諦めるしかないだろうな。」
「考え放棄するの早過ぎでしょ。」
「結果が全てだ。正直死ななきゃどうにでもなるだろうからな。」
「……アンタ、やっぱり他の勇者と違うよ。」
「何だ急に。それに俺は勇者じゃないぞ。」
俺は勇者じゃないし勇者になる気もないと言っただろうとグチグチと不機嫌そうに語るカイを横目にゲルダは小さく、彼に知られないように笑う。
心にかかっていたモヤは少し無くなっていた。
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