第12話 地図を読める人はガチで尊敬しかない。
「話は終わった?」
「あぁ。」
村の外で待ってくれていたゲルダと合流し、辺りを見渡す。
暇だったのか襲われたのかは分からないが地面は水浸しとなってぬかるんでおり、モンスターの姿が一切見られなかった。
まぁそれは一時的なものでまた暫くすればどこからともなく現れるのだろうが。
「さて、さっさとインクを探しに行くか。と、言いたいところだが、俺はロクに遠出なんてしたことがないからな。ハーレー王国以外の町や村への行き方が分からん。」
「はぁ?勇者の剣と一緒にこの国の地図が入ってたでしょ?」
「確か裏がいい感じの白紙だったものだからメモ用紙か何かにした気がする。」
「アンタ本当にダメな奴だね。ホラ、僕の貸してあげるから。」
「悪いな。」
ゲルダから地図を受け取り、じっくり見る。
本体をクルクルと回転させたり傾けたりとひとしきり眺めてからひとつ頷くと、地図を綺麗に畳んだ。
「よく考えれば俺は地図が読めんのだった。だから地図を重要なものと思わなかったと言ってもいい。と、いうわけでだ。行き先はゲルダ、お前に任せる。」
「アンタ地図すら読めないとか……僕がいなかったらどうするつもりだったのさ。」
「直感だな。」
「例え行けたとしても帰ってこれなくなるでしょ。」
やれやれといった様子で再び地図を開く。
そしてカイにも分かりやすいように指で現在地であるヒナタ村付近を指差した。
「ここが今僕等が居る所。で、今から向かおうと思っているのはこの先の森を抜けた先にある『シズク村』って所だよ。因みに、昨日みたいにこの森を避けて進めばハーレー王国に着く。」
「ほぉ。」
「シズク村はヒナタ村より少し広くて、旅人達の宿でもあるギルドも置かれてる。村というよりも町に近いかもね。
あと、剣の道場がある事で有名なのさ。教科書もそこで作ってるらしいから、それにインクが使われているかもしれない。
僕もまだ行ったことないし、あまり話に上がらない村だから予想でしかないけど。」
「まぁ可能性があるならどこにでも行ってやるさ。今ならどこまでも行けそうな気がするからな。まぁこれは比喩でしかないから本当にどこまでも行く気はないが。」
「はいはい。」
気の抜けた会話だ。
簡単に踏み入れてしまった森の中は鬱蒼として不気味な雰囲気を纏っているというのに、その怪しさを払拭するかのように二人の足は軽やかに地面を踏んでいた。
「ところで、ゲルダ。」
「何だい?」
「この地図に付け足された赤いバツ印はどんな意味があるんだ?」
「……別に。行ったことある所に気が向いたら付けてるってだけ。」
「そうか。」
それ以上の追求も詮索もなく、カイは特に気にしていない様子で地図をゲルダに返した。
それに安堵するに加え、モヤモヤとした変な感覚にゲルダは頭を抱える。
今はそうでないとしても、どんなになる気は無いと言い張っていても……彼はいつか勇者に興味を持つかもしれない。
突然『勇者になる』と言いださないとも限らない。
もし、もし仮に彼が勇者を目指し出したら__
「僕は、この男を……」
「ゲルダ。」
「!」
急な呼び出しに口から出かけた言葉を飲み込み、裏返りそうな声を押し殺して冷たく「何」と返してカイの方へと視線を向けると__そこには鋭いキバを2本拵えた、マンモスの様な巨大なモンスターが荒い鼻息と殺気をこちらに向けて立ちはだかっていた。
よく見ると2本の内1本のキバは欠けてしまっており、その先端と思わしき物はカイの左手に握られている。
「グースカ寝ていたから平気だろうと思っていじってみたら何故か取れてしまってな。接着剤な何か持ってないか?」
「アンタ何やってんのさ!そんなの無いから!さっさと逃げるよ!!」
「俺は走るのは嫌いだ。」
「こんな時にワガママ言わないでよ!さっきどこまでも行ける気がするとか言ってたのはどの口なわけ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます