第8話 手の平くるくるマン
「いやぁ、まさかカイ殿の方からわざわざ王城にいらしていただけるなんて!今日は私の人生の中でも最高の一日となることでしょう!」
「どうやらお前の人生は小鉢サイズみたいだな。あと俺はインクをもらいに来ただけなんだが。」
「そんなご冗談はよしてくださいよ~!全くカイ殿は冗談がお上手なのですね!」
「俺はインクを貰ったらさっさと帰るぞ。」
「そう言わずに!我々一同、貴方様がいらしていただけるのを心待ちにしておりました!」
「帰れとか出て行けとか二度と来るなとか言われた上に腹を押されたんだが?」
「そ、それは王城ジョークってやつですよ!ははは!」
「付き合ってられん。」
「いやいやいやお待ちください!せめて王と話を!」
人や物を引き寄せることができる特殊能力の加護持ちと言ったら、10年前から一人しか名は挙がっていない。そう、カイ・クラウスただ一人。
門番からの報告の後、すぐに確認の為にその姿を見に行った。
10年前……つまりは18歳の頃の写真しか名簿に添付されていないのでオーバはその情報のみでしかカイを知らなかったのだが、すぐに分かった。
目の前にいるこの男は紛れもなく、毎年カードを送り続けても顔を見せないどころか返事も寄越さず、つい先ほどには役職放棄を言い渡してきたカイ・クラウス本人だと。
この10年間、ずっと待っていた。
彼が人を引き寄せる特殊能力の加護があると聞いたとき、まだオーバは僧侶としての役割を終え、官職に就いたばかりの官員だった。
この時初めて役職を知らせるカードを書く仕事を任されたし、初めての相手は他の誰でもないカイだった。
悩んでいるのか、信じられずにいるのか、それともカードがちゃんと届かなかったのか、中々現わさない姿に返ってこない返事。
何度貴方は勇者に選ばれましたと言っても反応を示さない彼に、オーバはどんどん期待を募らせていった。
彼が人を引き付けるのは物体だけでなく気持ちまでも持ち合わせているのではないかとすら思うほど、カードに文字を入れる度にミステリアスな彼が姿を現すその時を夢見て、10年も待ってしまった。
司令官官長という今の地位を手にしても彼は来なかった。おそらく今より高い地位に立てたとしても、更に何十年の年月をかけても、彼は現れることはないのだろう。何故かそう感じた。
だから、手紙を書いた。
カードでもなく、決められた文でもなく、自分の言葉をそのまま綴った。彼の心に届くと信じて。
そしたら……なんと返事が来たじゃないか!
心が躍った。デリトリーの所為で手紙はグチャグチャのベトベトだったが、そんなのはどうでもよかった。
早速それを開いたが……その内容は彼が望んだような内容ではなかった。
オーバは10年もの間、無駄な幻想を抱いていただけだった。
もう待つのは諦めよう。待っても来ないなら、こちらから迎えに行こう。そう決心をする。
しかし何という幸運だろうか!彼、そう、彼が!他の誰でもないカイ・クラウスという男本人が、直々に、こちらが呼ぶ前に、この王城へと足を運んできてくれたのだ!
勇者に選ばれたのは10年も前の話だというのに、門番の人間を瞬時に気絶させてしまうという実力を見せてきたのにも大いに感動した。
やはり彼は他の勇者にはない素晴らしい実力を持っているのだと確信した。
オーバはただ引きずられていくだけのカイとその連れと共に王座へと向かった。
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