第40話『ゲームこそ至高』

「乾杯!」


 ミヤビの合図により、俺達は酒場にてグラスを小突き合う。


「初のダンジョンクリ~ア~」

「ねえミヤビ、なんだか酔っ払いみたいだよ」

「そう?」

「うん」


 公休ということを良いことに、俺達は何も考えずに祝勝会を始める。


 最近の技術は凄いもので、しっかりを飲み物の味がわかる上にのどごしや腹が膨れる感覚まで再現さている――が、当然、俺らが手にしているジョッキの中身は全員がジュースだ。


 ともなれば、四角いテーブルの上に並べ慣れているラインナップは飲み物だけにあらず。


「最後の最後は私達だけで勝てなかったのが悔しい」

「うん。いつかは私達だけでもクリアできるようにならないとね」

「でもさぁ~。ワドくんの戦いっぷりを見てたら、2人だけでクリアするのにはもっと練習が必要ってのがわかるなぁ」

「だよねー」


 祝いで反省会は別に悪くないが、できれば明るくやってもらいたいものだ。


「正直な話、俺は2人の戦いを見て凄いって思った」


 下がり気味だった目線が、一瞬にして俺へ向けられたのを感じる。


「俺は基本的に1人で活動していることが多いからな。ああいった連携を見ると憧れっていうのを抱くもんだ」

「今となって思うんだけど、誰かと一緒にゲームをするって楽しいんだけど、人数が増えるとゲームをする時間を合わせたりするって大変だよね」

「言われてみればそうだよね。私とシロナミは偶然にもゲームをする時間が一緒だからってあるけど、タイミングが合わなくなった時にレベル差とかできちゃうし」

「そう考えると、ワドくんみたいに1人でゲームをやっていた方が気楽っていうか、没入して楽しむんなら1人でやった方が楽しいのかもね」


 2人が言っていることは本当にその通りだ。

 俺だって、ゲームを始めたての時は毎日のように誰かとパーティを組んでいた。

 しかし時間が経つにつれ、ゲームのタイトルが変わるにつれて、いつしか今のような考えに固まっていった。


 だからこそ、今更ながらにパーティというものへ憧れを抱くようになったのかもしれない。


「ワドくんさえ良かったら、このままパーティを組んでもいいんじゃない?」

「……」


 その申し出は、とても魅力的ではある。


「でもそうなると、ワドくんに経験値が全く入らなくなっちゃうよ」

「あぁ……そういえばそうだね」

「せっかくの嬉しい誘いではあるが、今回はやめておくよ」


 これから先、シロナミとミヤビがどんどん成長するだろうことは、あの連携力や思い切りの良さが物語っている。

 そこに俺も加われば、知識や経験を上乗せできるだけでなく、3人での連携をすることができてより攻略が楽しくなるだろう。


 だが、そんな楽しい未来が待っているとわかっていても、突き動かされる衝動が俺を駆り立てる。


 1人でボスと戦った、駆け引きをしながら戦う高揚感。

 失敗のできない崖っぷちに立たされた危機感。

 誰にも頼ることのできない中、必死に考える臨場感。


 まだまだあるが、これらゾクゾクする感覚を味わえなくなってしまうのはもったいない。


「そう……だよね。ダンジョンをクリアしてレベルアップした私達でもやっとレベル5。ワドくんに追いつくにはまだまだ先だもんね」

「やっぱりそうなるよね~。でもさ、このままじゃワドくんとのレベル差は埋まらないんじゃない?」

「たしかに……」


 誰かに聞き耳を立てられているわけでもないし、別にいいか。


「このゲームのシステム的な話をすると、特有のものがあるだろ?」

「探索者限定の特典みたいなやつだよね?」

「ああそうだ」

「でもあれって、1回しか使用できないから有効的にって考えたらまだまだやらない方がいいんじゃない?」

「ミヤビが言う通りではある。それが、本当に1回しかできないなら、な」


 2人は声を合わせて「どういうこと?」と率直な疑問を俺に投げかけてくる。


「実はこのシステム、何回でも使用できるんだ」

「ええええ」

「うっそ!」

「……でも、なるほど。だからワドくんは最近ダンジョンに行く機会を増やしていたってわけだね」

「そういうことだ」

「でもさあ、それってかなり危険なんじゃないの?」

「あっ、たしかに」


 ゲームへのレベル同期が行えるから現実世界でレベルアップを頑張る。

 それ自体は別に問題ないわけだが、その危険性は未知数。

 闇雲に戦いまくった結果、ダンジョンで命を落としてしまったのでは全く意味がない。


「そうだな。基本的には、おまけ程度に考えるのが妥当。どうせ頑張るんだったら、いろいろと楽しいゲームの方がいいに決まってる」

「そうだよ。だったら、そんな危ないことは控えめにして――」

「だが俺は、なりたいものがある。他人が聞いたら笑われるだろうがな」

「なんだか予想できちゃうかも」

「ミヤビが言いたいこと、わかるかも」


 まあ、2人にならもう把握されているかもな。


「俺は、このゲームで最強になりたい」

「だよねー」

「ですよね」

「そんでもって、探索者としても強くなったら今よりもっと生活が楽になる。そう……俺は2つの世界を謳歌したいんだ」


 2人は顔を合わせて、『やっぱりね』と言いたそうにニカッと笑い合っている。


「どうせやるなら楽しく、だからな」

「でも私は知ってるよ。最終的にゲームを楽しみたいからなんでしょ?」

「まあ、そうだな」


 同じ学校でいろいろと話をしているシロナミにはお見通しってわけだな。


「やっぱり思うんだ。ゲームこそ至高、ってね」


 そうだ。

 俺は、ゲームを全力で楽しむためにいろいろなことを頑張る。

 1にゲーム、2にゲーム、3にゲームだからこそ俺なんだ。


「でもねワドくん。忘れちゃいけないこともあるんだよ」

「ん?」

「服学級委員長」

「うぐっ」

「え、ワドくんってもしかして優等生なの?」

「ちなみに私が学級委員長です」

「あ、なんだか予想できた」

「粗方それで合ってると思うぞ。俺は勉強なんてほとんどできないし、この役職だって俺が立候補したわけではない」

「なるほどねぇ」

「現実のことは悲しくなるから、今は辞めてくれ」


 今はゲームに酔いしれたいんだ……。


「そんなことより別のやつも頼もうぜ」


 話をしながらだったから、食べ物もあっという間になくなっていた。

 それに、味は特に変わっているわけではないだろうが、なんだかいつもより美味しく感じる。


 この楽しみは今だけなんだろうが、それでもいい。

 今だけはこの時間を楽しもうじゃないか。

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ゲーム世界に現実のステータスが反映されるので、現実世界のダンジョンで必死にレベルアップして最強ゲーマーになります。―冒険者兼探索者で二つの世界を謳歌する― 椿紅 颯 @Tsubai_Hayato

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