第4話 アタシの四日目
――四日目――
――ストーカー女、ストーキング行為中に事故か!?
記事にはアタシがストーカー相手を追いかけている途中で、あの事故に巻き込まれたと書かれていた。
昔から思い込みの激しい性格で、多くの友人が、いつかこんなことになるんじゃないかと思った、といったとある。
アタシが子どものころや、学生のころに起こした友人やクラスメイトたちとの諍いまで掘り返されている。
一体、どこで調べて誰が話したっていうのよ!
ネットのニュースが似たような記事でいくつも上がっていた。
どのニュースでも、ついたコメントはアタシに対する非難と、アタシが轢いてしまったことで亡くなった人たちへの同情ばかりだ。
「っざけんじゃないわよ! 多くの友人って誰よ!? それに学生のときの話しまで……誰が喋ったのよ!」
今日はこれから輝の会社にいって、帰りにはあとをつけなければいけないっていうのに……!
炎上してSNSで晒されているのまで見てしまい、アタシは怒りでなにもかもをぶち壊してやりたい気持ちになっていた。
「これも全部、光里のせいよ……あの女……ただじゃ置かないんだから!」
アタシは輝の会社に向かう前に、光里の自宅に行くことにした。
「――いた!」
出勤するところだったのか、駅から光里の自宅までの途中で歩いてくる姿がみえた。
危うくすれ違うところだった。
アタシはすぐさま
「あんたのおかげで変なニュースになってるじゃないの!」
どれだけ文句を並び立てても、以前のように殴ってやろうとしても、全部届かなくて空回りしてしまう。
そういえば、最初にサキカワが、とり憑いたらダメだのなんだのと言っていた。
それは、憑りつける、ということよね。
アタシは光里に
次の瞬間、アタシの視点が変わった。
これまでよりも視界がクリアになった気がする。
思わず手のひらをみてみると、光里の両手のひらがみえた。
ひっくり返したり指を動かしてみたりする。
全部、アタシの思い通りに動く!
――やった!
通勤の人があふれたホームでアタシはつい大声を出してしまい、恥ずかしさに急いで到着した電車に乗った。
そのまま光里と輝の会社の最寄り駅で降りた。
人混みの中、あちこちに視線を移しても、輝の姿はみえない。
今、見つけたとしても、まだ声をかけるには早いか。
アタシは光里の体にとり憑いたまま、近くのネットカフェに入った。
「ここは……来たことがないのに入れた……もしかして光里は来たことがあるのかも」
カバンや財布を漁ると、やっぱりこのお店の会員カードが出てきた。
素知らぬ顔でそれを出し、個室に入るとすぐにネットニュースをみてみる。
案の定、事故のニュースについたコメントは大荒れで、みんながアタシを非難している。
――冗談じゃないわよ……なんでアタシがこんなに叩かれなきゃいけないの?
ストーカーなんてしていないのに。
悪いのは輝のほうなのに。
アタシは悪く書かれたコメントに一つ一つ返信をしていった。
アタシが悪くないこと、ケンカをしたことに腹を立てた光里がインタビューで嘘の情報を流したこと、輝にお金を貸していること、全部。
カバンの中で光里のスマホが震えている。
取り出してみると、共通の友人たちからメッセージが届いていた。
そこにはインタビューを受けたのか、言っていた話は本当なのか、そんな言葉ばかりが流れている。
そこでもアタシは、全部嘘だと返信をした。
光里のふりをして『茉莉萌とケンカして頭にきたから、嫌がらせで嘘をついてやった』と主張した。
途端に、今度は着信が入ってくる。
面倒になったアタシは、とりあえずネットカフェから出ると、片っ端から着信を受けた。
――ちょっと光里? テレビで見たけど、あれ、喋ってたの光里でしょ?
――そうだけど? 茉莉萌にムカついていたからちょっと嫌がらせ?
――嫌がらせって……茉莉萌、亡くなってるんだよ? いくら本当のことだからって、テレビでいうなんて……。
本当のこと?
みんな本気でアタシが輝のストーカーをしてたって思ってるの?
――っていうか、茉莉萌はストーカーなんてしてないし。輝のほうが二股をかけて、しかもお金まで借りてるんじゃない。
――輝が? 茉莉萌にお金借りてる?
――そうよ。だから本当にサイテーなのは輝よ。
そういって着信を切った。
ほかのみんなにも、同じように話してやった。
「……それよりも……」
アタシは気づいてしまった。
とり憑くと、行ったことがない場所でも、体のほうが行ったことがあれば、行かれるんだと。
それならば、輝にとり憑けば、新しい家にだって行くことができるじゃない?
光里のスマホにうるさいくらい、メッセージが届く。
それを読んでから、アタシは全部に、さっき言ったことと同じ内容の返信していく。
「まったく……いちいちメンドクサイわね……」
アタシはもう一度、ネットカフェに戻り、輝の仕事が終わる時間まで待つことにした。
もう、面倒だからスマホはオフにしてしまおう。
リクライニングシートを倒して天井を見つめながら、輝にとり憑いたらどうしてくれよう……。
そのことだけを考えていた。
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