第6話 オレの六日目

――六日目――


 昨夜、家に着いたのは日付が変わる少し前だった。

 荷物を片づけ、寝室にはいかずに居間に布団を敷いた仁美は、楓と二人、そのまま寝付いてしまった。

 家の居間に飾られたオレの写真の前に、持ち帰った骨壺が置かれている。

 ソファに腰をかけ、ぼんやりとそれを眺めていた。

 仁美は相当疲れたようで、昼近くなったけれど、まだ眠っている。


「嫌な思いをさせちゃったな。本当にごめんな」


 触れられないとわかっていても、その手に自分の手を重ねた。

 隣で眠る楓も、きっと疲れたことだろう。華ちゃんと遊んだ楽しい時間だけを覚えていてほしい。

 スマートフォンのアラームが鳴り、仁美がようやく目を覚ました。

 生きている限り日常は続いていく。食事をして掃除をし、買い物に出かけていく。

 ただ、その中にオレだけがいない。


「今日は六日目か……」


 オレはシャツのポケットからチケットを出し、日時の確認をした。


「結局、そんなに使わなかったな……チケット。まあ、どこに出かけるわけでもなかったし、こんなものか」


 昨日は勢いに任せて兄を使って親父を殴った。

 悪意をもってとり憑いたことになるんだろうか?

 仁美にあんなことをした親父を許すことはできない。だから後悔はないけれど……。


「戻れなくなって浮遊霊になったら、ずっとここにいられるんだろうか。でも悪霊になって二人に悪影響を与えたらまずいよな……」


 一緒にはいたい。でも危ない目や恐ろしい目に合わせるのは嫌だ。

 地獄に行かされるとして、その場合は生まれ変わることはできるんだろうか?

 疑問ばかりが湧いてきて、いっそサキカワさんを呼んで聞いてみようかと思ったとき、インターホンが鳴った。

 仁美が急いで玄関に向かう。勤か哲哉が来たんだろうか?


――散らかしていてすみません。どうぞ、こちらです。

――いえ、こちらこそ無理を言ってすみません。


 入ってきたのは職場の同僚たちだ。

 わざわざ線香をあげに来てくれたらしい。


――葬儀場が遠くて出向くことができなくて、申し訳ありませんでした。

――とんでもないです。お気遣いいただいてありがとうございます。

――それから、今野くんの私物を……。


 そう言えばデスク周りにいろいろと置いていた。

 オレはみんなにお礼を言って頭をさげた。

 みんなと入れ替わりに、今度は哲哉がやってきた。

 高校の同級生で親しくしていたやつらと一緒だ。


――このたびは急なことで……葬儀に出られず、こんなふうに押し掛けてすみません。

――いいえ、わざわざ来ていただいてありがとうございます。


 みんな卒業後は地元を離れて都内に出てきているやつらばかりだ。

 実家があるとはいえ、仕事があるとお通夜も葬儀もどうしても出られなかったという。

 それはそうだ。

 オレだって、もしもみんなが先に亡くなってしまったとしても、栃木までは行かれなかったと思う。

 身内ならともかく、友人や知人だとどうしても難しい。


――花や電報を送るくらいしかできなくて……でも哲哉からお骨がこっちにあるって聞いたので、せめてお線香だけでもと……。

――本当にありがとうございます。洋平も喜ぶと思います。どうぞこちらへ……。


 みんなの姿をみているだけで、オレは胸がいっぱいになった。

 実家はあんな人たちだったけれど、友人には恵まれた。職場の人たちもそうだ。

 それに今の家族も……。

 もっと一緒に過ごしたかった。今、思うのは、本当にただそれだけだった。

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