第7話 オレの七日目
――七日目――
今日が最終日だ。
七日なんてあっという間だった。
今朝もいつも通りの朝を迎え、二人が過ごすのをソファに腰かけてみつめていた。
午前中は楓を連れて散歩に出かけ、買い物をして家に戻り、食事をする。
きっとしばらくは、毎日こんなふうに過ごすんだろう。
そのうち仁美は仕事を探して働くようになり、楓は保育園に通うようになるんだろうか。
「オレのまったく知らない生活が始まるんだな」
そう思うと少し寂しさを感じる。
夕方になって、今日は勤が奥さんを連れて訪ねてきた。
――洋平、連れて帰って来られてよかったな。
――うん。あのあと、お義母さんたちは大丈夫だったのかしら?
――たぶんお骨のことは大丈夫。でもね……。
勤と奥さんは弁護士をしている。
オレはなにかあったときのために……というか、こんなふうになったときに実家と揉めた場合、仁美の力になってくれるように、ずいぶん前から二人に頼んでいた。
もちろん、報酬は少しずつ数年かけて支払い済みだ。
哲哉のほうは保険会社勤めだから、保険のことを相談して、オレになにかあったあとも二人が生活に困らないような保険に加入していた。
その申請手続きは、どうやら無事に済んだようだ。
――えっ? 離婚?
――うん、そう。洋平のお母さんは、あの親父さんと離婚してお兄さん夫婦と一緒に家を出るんだって。
――それでね、勤が葬儀に出たときに、いろいろと相談されたんですって。
「……おふくろ、そんなことを考えていたんだ」
勤が聞いてきた話しによると、兄も結婚して、聡子さんがひどい目に遭わされるのを見ていられなかったらしい。
母親と兄とで何度も父親に苦言を呈しても、まるで改める様子はなく、これまで来たそうだ。
オレが死んで葬儀の話しになったとき、横やりを入れて仁美の邪魔をしたことが、二人にとって決定打になったらしい。
――洋平のお袋さんと、お兄さん夫婦で話し合って、葬儀は止められなかったけど、遺骨は仁美さんに渡そうって決めたんだけどどうしたらいいか、って言われてさ。
――そうだったんだ。
――着いた時に、子どもは置いてくれば良かったのにって言ったのも、子どもを抱いて遺骨が持てるのか心配だったっていうのと、やっぱり子どもには、あの親父さんは見せたくなかったかららしいよ。
――二人とも落ち着いたら洋平さんのお墓参りをさせてほしいそうだけど、仁美さんはそれ、許せる?
――うん。だって洋平のお兄さんには楓がお世話になったし……お義母さんにもお義姉さんにも、酷いことをされたわけでもないし……是非来てください、って伝えてほしい。
――わかった。そう伝えておくよ。
母親の離婚には、勤の奥さんが力を貸してくれるそうだ。
結果がどうなるのか、オレは知ることができないけれど、勤たちに任せておけば、きっと大丈夫だろう。
この姿になって、オレから仁美と楓にしてやれることはなにもなかった。
それでも、こうなる前にしておいた準備は、きっと今後の役に立つはずだ。
仁美は今日も楓と一緒に居間で寝るようだ。
遺骨があるあいだ、そうするつもりなんだろうか?
「仁美、楓、本当に……心から愛しているよ。本当は嫌だけど……いい人がいたら、再婚することも考えるんだぞ。二人とも、幸せにならなきゃあ駄目だからな」
枕もとでそういったとき、楓の目がオレをみた。
――パパぁ……バイバイね。
そういって手を振る。
――なあに? 楓? パパがいるの?
仁美は半身を起こして周りをキョロキョロと見ている。
オレは涙が止まらないまま、それでもできる限りの笑顔で、楓に手を振り返した。
「楓……みえていたんだ……オレだって、ちゃんとわかっていたのか……」
壁掛け時計に目を向けた。二十二時四十三分。時間だ。
サキカワさんの名前を呼ぶと、呼び鈴の音とともにサキカワさんが現れ、オレは促されて白の間へ戻った。
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