第2話 ボクの二日目
一日目は、ボクは試しに乗者と下者を繰り返した。本当に思う場所へ行かれるのかを試すためだった。
幸いなことに、ボクが行こうと試した場所はどこもたくさんの者両が現れて、それらはスムーズにできたし、下者から乗者までのあいだ、ボク自身が行った場所であれば乗者していなくても散策も可能だとわかった。
結局、一晩中、電車に乗ったり車に乗ったり歩き回ったりしながら、あちこちをめぐって歩いた。
――二日目――
一度、アパートへ帰ってみることにして最寄り駅まで乗者する。
サキカワさんは、とり憑くのとは違うといったけれど、ボクはやっぱりとり憑いているんじゃあないかと思った。
ライブ仲間の
あれは、者両になっていたんじゃあないだろうか。
アパートへの道を歩きながら、そう思っていた。
外階段を上がってドアの前までくると、鍵がないことに気づいた。
「そういえば……鍵はリュックの中だった。弱ったな……」
白の間を出るとき、ボクは手ぶらだった。まあ、リュックがあったとしても、死んでしまっていたらどうしようもない。
そう考えた瞬間、背中に違和感を感じて自分の肩をみると、リュックの肩ひもがみえた。
「いつの間に……」
疑問に思いながらも、いつも通りにリュックのポケットから鍵をだす。
ドアノブに差し込もうとした手が、ノブを通り抜けてしまう。
「なるほど……そうなるのか」
そのままボクはドアを通り抜ける。
見慣れたキッチンと部屋のドアが正面に広がり、部屋の中まで進んだ。
「りのりん、ただいま」
これもいつも通り、壁に貼ったアイドルグループ『ライラックドリーム』のメンバーである、
リュックを放り出し、つい、いつもの癖でベッドにゴロリと寝転ぶ。
「おおう……これは通り抜けないのか。どんな条件があるんだろう?」
ドアは通り抜けられて、ベッドや床、壁が抜けられないということもないだろうと思って、ボクは横になったままどうやったら下に沈めるのかを考えた。
「おぉわっ!!!」
頭の下で手を組んだままの格好で、上半身だけがベッドと床を通り抜けた。
下の部屋の天井に、鉄棒でひざ掛けをしてぶら下がっているような、
テレビを見ていた下の部屋の人が振り返った。確か、
「あ……黄色……」
サキカワさんは確か、黄色は少しだけ霊感がある人とか言っていた。
――そうか。佐々木さんは霊感があるのか。
「………………!!!」
佐々木さんはそばに置いてあったカバンを引っ掴むと、無言のまま部屋を飛び出していった。
きっと、相当驚かせてしまったか、怖がらせてしまったんだろう。
ボクの体はそのままスルリと天井を抜け、床にバタリと落ちた。
痛くはないけれど、妙な気持ちだ。まだ下に行けるのだろうか?
そう考えるとまた少しだけ体が沈む。地面についたような感覚がある。その先まで沈むことはなかった。
となると、地面までは潜れないということか。
地下鉄とか、下に建造物かある場合はどうなんだろう?
あと、下に潜ったあと、また上にいきたい場合は?
「飛んだりできる……とか?」
ボクは平泳ぎをするように手をかき、ジャンプしてみた。
生きていたころと同じで、ただ床に着地しただけ。
「だよねぇ。空なんか飛べるなら、者両とかいらないだろうし」
佐々木さんの部屋のドアを抜けてまた階段を上り、自分の部屋に戻る。
どうやら自分で通り抜けようと思わなければ、床を抜けることはないようだ。
少しずつ、今のボクにできることと、できないことがわかってきた。
「そういえば……ボクは一体、どんな死にかたをしたんだ? 病気はなかった、と思うけどなあ」
そうなると事故だろうか?
昨日死んで、いきなりこの部屋を誰かが片づけにくるとは思えないけれど、七日経つ前にこの部屋がなくなってしまったら、ボクはどこに行けばいいんだろう?
『思い出の場所へいくも良し。お通夜やご葬儀に参列するも良し』
白の間ではアナウンスがそう言っていた。
お通夜や葬儀か……。
自分のお葬式をみる機会なんて、そうそうないよな。
時計を見ると、まだお昼前だ。カレンダーには七日目に当たる五日後に赤丸が印してある。
この日はライラックのライブがあるんだ。
チケットは購入済みだ。
この部屋は、きっと両親と妹と弟が片づけてくれるんだろう。
りのりんでいっぱいのこの部屋をみられるのは屈辱というかなんというか……。
まあ、仕方がないか。
ボクはボクが亡くなった理由や葬儀のことを知るために、今から実家へ戻ってみることにした。
実家は千葉の海と山がある場所だ。
部屋のドアの前でもう一度、中を振り返った。
りのりんの笑顔がまぶしい。死んでしまってもなお可愛くみえて好きだと思う。
グッズや写真を持っていきたいと思うけれど、手に取ろうにもなぜかそれができない。
ただ、リュックにぶら下げたアクリルのキーホルダーや、パスケースに入れたチェキは生前のままそこにある。
それは手にすることができた。
ボクはりのりんと一緒に撮ったチェキを眺めてほっこりとした気持ちを感じていた。
「りのりん、行ってきます」
外に出て駅に向かい、ボクは実家の場所を思い浮かべながら青い者両を探した。
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