第5話

「ふ、二人はどういう関係?」

「まさか、既に結婚してるの!?」


 皆パニックになっているのか、冷静に考えたらそんな分けないって分かるような事まで、聞かれる始末。


 み、皆を落ち着いてー。

 けど私の話なんて聞いてくれそうにない雰囲気だし、どうすれば……。


「ヤッホー華恋ー。一緒にお弁当食べよー!」


 ひっちゃかめっちゃかになった教室に、ハリのある声が響いた。

 どこかで聞いた声だと思いながら入り口を見ると……か、楓ちゃん!?


 樹くんと同じく、うちの学校の制服を着て、スカートじゃなくスラックスを履いている楓ちゃん。

 突然の乱入で、一瞬で皆の意識を持っていっちゃった。


「何だあの美人さん」

「格好いい。王子様みたい」


 あちこちから声が聞こえてくるけど、楓ちゃんはそれを気にすることなく、教室に入ってきて私の手を取った。


「行こう、華恋」

「えっ? で、でも今少し取り込み中で」

「そうなの? そう言えば何だか騒がしかったね」


 楓ちゃんはキョロキョロと辺りを見回して、さっきまで私と話してた大場さんに目を止めた。

 そして。


「お嬢さん。ぶしつけではございますが、少々彼女をお借りしてもよろしいですか?」


 ぶはっ! なにその芝居掛かったセリフー!


 楓ちゃんは大場さんの頬を撫でたかと思うと、その手を顎にもってきて、そのままクイッ。後は持ち前の長身を活かして上から覗き込むようにしてお願いをして。そしたら大場さんの顔が、ボンッて爆発したみたいになった。


「は、はい! どうぞどこへなりとも連れて行ってください、お姉様!」

「ありがとう。ふふっ君はいい子だね」


 大場さんってば。人が変わったみたいに真っ赤になっちゃってる。それにしても、さっきの楓ちゃんのお願いの仕方はなに?


「ね、ねえ樹くん。今のはいったい?」

「楓の編み出したお願い方法。向こうで日本語を忘れないように見てた、日本の演劇を参考にしたんだって。女性だけの、何とか歌劇団ってやつ」


 ああ、あの歌劇団だね。楓ちゃんってば背が高いし格好いいから、よーく似合ってるよ。

 一瞬で虜にされた大場さんは、魂が抜けちゃったみたいになったけど、力を振り絞るようにパクパクと口を動かす。


「あ、あの。もしかして貴女は噂の草薙くん……草薙樹くんの、お姉様ですか?」

「おや、私の事をご存知とは光栄だね。君の言う通り、私の名前は草薙楓。樹のお姉ちゃんだよ」

「やっぱり。で、でも樹くんはいいとして、桜井さんとはいったいどういう関係なんですか!?」

「どういう? そうだねえ、言うならば……将来を誓い合った仲、かな」

「¥℃♂≧$★¢£──っ!?」


 ふぎゃああああっ! か、楓ちゃんいったい、なに言ってるのー!?

 ああ、大場さんが声にならない声を上げて倒れて、教室中が阿鼻叫喚の嵐になってる!


 だけど楓ちゃんは、そんな事は全く気にしてない。


「さあ華恋、行こうか」

「う、うん。けど、行くなら樹くんも一緒に」

「むう、本当は二人きりがいいんだけど、仕方ない。樹、アンタも来ていいよ」


 そんなわけで、悲鳴が飛び交う教室から三人して出る。

 あのまま残っていたら、今度は何が起こるかわからないものね。


 それにしても楓ちゃん。将来を誓い合ったなんて、そんな……。


「ん、どうしたの華恋。私の顔に何かついてる?」

「ね、ねえ楓ちゃん。さっき言ってた、将来を誓い合った仲って言うのは何なの?」

「何言ってるの、忘れちゃった? 昔、私達がアメリカに行く前。最後に会った時約束したじゃない」

「や、約束?」


 えーと、あの時は確か、サヨナラするのが悲しくて三人とも涙ぐんでて。絶対にまた会おうって約束して、それから……。


 ──ねえ華恋。もしもまた会えたらその時は、私達結婚しよう。

 ──楓ズルい。華恋は、僕と結婚するんだから。

 ──楓ちゃんも樹くんも、喧嘩しないで。だったら、三人で結婚しよう!



 ……………………ボンッ!


 さっきの大場さんと同じように、今度は私の中の何かが爆発して、へなへなと廊下に座り込む。


 し、してたよ約束ー! でも、け、けけけけけ、結婚なんて。幼稚園の頃の私、何やってるのぉぉぉぉっ!


「お、その様子だと思い出したみたいだね」

「お、思い出した。でもそんな……」


 冗談だよね。あんな小さい頃の約束なんて。

 いや、さっき教室での、将来を誓い合った発言。あの時の楓ちゃんの目は本気だった。


 そして、気になることがもう一つ。思い出した記憶の中では楓ちゃんだけじゃなく、樹くんも結婚しようって言ってたんだけど……。


「僕も同じ気持ちだから。これだけは、楓にだって負けてない。華恋は僕の、大切な人だよ」


 い、樹くんまで。嘘でしょ!?

 そ、そりゃあ私だって、二人の事は大好きだし。うちに来てくれて嬉しいって思ってるよ。

 けど結婚!? いきなりそんな事言われても、受け止めきれないよー!



 結局この後、楓ちゃんと樹くんに板挟みにされて。頭の中がいっぱいいっぱいになった私はお昼も喉を通らなかった。


 教室に戻ると真奈ちゃんがニマニマ笑いながら、「王子様二人から言い寄られるなんて、やるねえ」なんて言ってきたけど。完全にキャパオーバーだよ。



 背が高くて格好いい、お姉ちゃんの楓ちゃん。

 口数は少ないけど優しくて案外可愛い、弟の樹くん。


 そんな二人の王子様から想いを寄せられていて、更には同居って。

 私の中学校生活、これからどうなるのー!?



※短編バージョンはここまでになっています。長編バージョンもいつか公開したいです。


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我が家の二人の王子様 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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