ガーゴイルさんとネモ君の、努力なしで救われる魚釣り

冒険者たちのぽかぽか酒場

第1話 幻の魚「ガーフィッシュ」を釣り上げる奇跡は、努力のできた人だけのもの

 

 変な世界。

 努力しても働けない人たちがいて、たいして努力しなくても働ける人たちが、もう退職したいと言っている。

 海のガーフィッシュは、野菜の入っていない野菜バーガーと同じくらい、フェアじゃない。

 地球規模で、おかしくなっている。

 「なぜ、努力をしてこなかった世代ばかり救われるんだろうね、ネモ君?」

 アトランティス湾の釣り場で、ガーゴイルさんがさおをたらして言う。

 ガーフィッシュという名の幻の魚をねらうガーゴイルさんは、釣りのジャケットよりタキシード姿が似合うような、シュッと見える細身の紳士。

 2人は、年が20ほど離れた友人だ。

 お互いにこの 2つの言葉が好きで、仲良くなれた。

 「フェアじゃない」

 「不公平」

 ガーゴイルさんが、くもってきた空を見て言う。

 「きついだろう、ネモ君?いつ生まれたかで人生がほぼほぼ決まってしまう、ニホンという国は」

 「…」

 なかなか言い返せない、ネモ君。

 「ネモ君?君たちの世代にとっては、今の子がうらやましいだろう?」

 「ええ。魚釣りのように、不公平です」

 「そうだね。努力してさおをたらす人には魚は寄ってこないのに、ポケーッとしているだけの人には魚が釣れることがある」

 「…」

 ニホンという国の今に、そっくりだ。

 「そうだ、ネモ君?」

 「はい」

 「今の子たちは、他人の血と努力をもらってばかりで礼も言わない。なぜか、わかるかね?」

 「…」

 「今の子は、だれかに何かをしてもらえるのが当たり前だと思っているからだ」

 「不公平ですよね…」

 「仕方がないさ、ネモ君?」

 「…奇跡がほしい」

 「奇跡、か。奇跡は努力した者だけが引き当てられることを、今の子たちはかんちがいしている」

 そのとき!

 ねらっていた獲物が、釣れた。

 たいして努力もしないで育った今の子の首をくわえる、人食いサメのような姿をしたガーフィッシュ。

 が、赤い血が流れていない。

 「当然さ、ネモ君?過保護育ちの今の子たちには、努力に染まった赤い血など流れていない」

 「努力なしで泳げる世代、ですか…」

 「ああ。ただし、社会の現実についていけないからすぐに退職だ。どうする、ネモ君?」

 「たっぷりと切り刻んで、海に返してやりましょう!」

 今の子は、会社にも海にも負けるんですかね。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガーゴイルさんとネモ君の、努力なしで救われる魚釣り 冒険者たちのぽかぽか酒場 @6935

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ