エピローグ
「ああっ! 俺のボーナスが!」
雑居ビルの二階、その一角にひっそりとたたずむマープル探偵事務所に蓮の悲鳴が響いた。
粉々に破壊された隠しカメラの残骸を両手に、天井を仰いで神への嘆きを叫ぶ。
「あんたも学ばないわねえ」
ジェーンがテーブルの上であぐらかいてモンエナを飲みながら、呆れたように言った。
あれから三日が経っていた。
餅川の依代を壊した結果、トラップもすべて機能を失ったらしく、蓮たちはなにごともなく脱出することができた。
例の少年も爆音とともに力を失ったとのこと。
おそらく餅川の魔力によって強制的に動かされていたゾンビのようなものだったのだろう。
最終的にその少年とタイマンを張ることになったツキギメは、もともとボロッカスだった一張羅がビリビリに破けてしまったものの特にケガをした様子はなかった。
依頼人には魔力のことは隠して説明をした。追加報酬の百万円の内半分を怪盗組に渡し、残った五十万の内十枚が蓮の特別ボーナスとなった。
ということでそのあぶく銭をはたいて高級な隠しカメラを購入、設置したのが昨日のことで、今日確認したら破壊されていた。
「今回は自信あったんすけど……なにも破壊しなくてもいいじゃないっすか」
「この私を盗撮しようっていうのよ。その程度のリスクを背負うのは当然のことでしょう」
ふん、と胸を張って言う。
事実、この美貌を前にはその傲岸不遜な言葉も説得力があるというものだった。
まあ仕方ない。蓮はため息をついてボーナスの亡骸を燃えないゴミ袋に突っ込んだ。幸い、デスゲームの館で手に入れたジェーンの下着映像は残っている。中身がぬりかべだったことだけが残念だが、それでも今後百年くらいはこの映像で戦えることだろう。
「そうそう、蓮」
思い出したようなジェーンの声。
「スマホ出しなさい」
「…………なんでっすか?」
嫌な予感に冷や汗がわく。
そんな内心を気取られないよう、つとめて平静を装って尋ねた。
「この間の乗っ取られていたころの記憶、だんだんと思い出してきたのよ。あのバケモノは気づかなかったみたいだけれど、あんた、私のスカートの下に不自然に足を入れていたわよね」
「ナ、ナンノハナシッスカ」
「ふぅん、しらばっくれるの。あまり良い手とは思わないけれど」
やばい。やばいやばいやばい。汗がだらだらと流れる。デスゲームの館に漂っていた空気よりさらに威圧的ななにかを笑顔の裏に感じる。
「私だって鬼ではないわ。正直に白状してデータとバックアップをすべて削除するなら、減給で済ませてあげるのだけれど」
「げんきゅう……どの程度で?」
「半分くらいかしらね」
「き、きちく……」
「ん? なにか言ったかしら」
「いえ! なにも! ジェーン様は聖女のようなお方です!」
「ええ。知っているわ。それで、どうするのかしら。私聖女だから、あんたに選ばせてあげるわ」
にっこりと。どす黒い笑みを浮かべる銀髪ゴスロリ幼女。
「……………………………………………それで、よろしく、おねがいします」
蓮はスマホを差し出し、絞り出すように言った。
美しい幼女には棘がある。ヘタに手を出すものではないな、と心の底から後悔するのだった。
デスゲームRTA しーえー @CA2424
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