第3話

 公園に着く頃にはすでに雪は降り止んでいた。どうやら、一時的な雪だったらしい。


「ついたぁー!」


 疲れたのでベンチに一直線に向かっていく私。それを追うかのようについてくる晴人。


「お、おい。座ったらさっきの雪でスカート濡れるぞ!」


 そう言いながら制服のポケットからハンカチを取り出して、入念にベンチを拭いてくれる彼。


 ハンカチを常にポケットに入れているなんて女子力高いなと感心しつつ、私も見習わないといけないとも思ってしまう。


「よし、オッケー!座っていいよ」


「ありがとう晴人!」


 2人でベンチに腰掛ける。2人で座るとあれほど大きく見えたベンチが小さく感じてしまう。


「ねぇ、晴人は何買ったの?」


「あー、バニラアイスとホットレモンティーとコーラとチキンかな」


「あったかいのか冷たいのか、ぐちゃぐちゃだね。晴人らしいけど、口の中おかしくなりそう」


「そういう雨はお菓子ばっかで太るぞ」


「あー!それ女の子には絶対に言ってはいけないセリフ1位だよ。もー怒ったからね!」


「ごめんって。アイスちょっと食べさせてあげるから」


「え、いいの? 特別許す!」


 "ちょろいな"という言葉も聞こえた気がしたが、気にせず晴人のアイスにかぶりつく。外は寒い上に口の中まで一瞬で凍りつく感覚。


 それでも冬に食べるアイスというのは、どうしてこんなにも美味しく感じてしまうのか...


「ありがとう。冬のアイスもやっぱりいいね」


「お、おう。だいぶ食べたな・・・」


 ほぼ半分近く欠けているバニラアイス。おまけに私の歯形つき。申し訳ないとも思うが、原因は晴人なので問題なし!


 数分の間に私の袋の中に入っていたお菓子が消えてなくなった。食べるのが早いとは昔から言われてきたが、あの量をこの数分で食べ切るのは我ながらやばいとは思っている。


「相変わらず、食べるの早すぎだろ・・・」


「私も気がついた時にはって感じ。引いた?」


「はぁ〜?何を今更。昔からそうだったろ。引くならもっと前から引いてますよー」


「だよね〜、晴人は私のこと大好きだもんね〜?」


「なんかムカつく。ま、大好きだけどな。好きすぎて困ってるくらいに」


 そこまで言われるとは思っておらず、自分から吹っかけたくせにカウンターを食らって思考が停止してしまう私。


「わ、私も同じだから!」


「そりゃどーも」


 サラリとかわされ、平然な態度にむかついてしまう。私だけが、照れているのが無性に気に食わない。


「そろそろ冷えてきたし帰るか。たまにはこういったのんびりした帰り道もいいな」


「う、うん。帰りも手繋いで帰る?」


「当たり前」


「そっか・・・」


 嬉しくてついつい次の言葉が出てこない。今度は彼からではなくて、私からいきなり手を繋いでドキドキさせてやろうと企む。


 ベンチから立ち上がる前に彼が、もうすっかり冷え切ってしまったホットレモンティーのキャップを開け、口を当てる。


 私と彼の間にレモンの香りがほんのりと漂う。そのまま半分くらいまで飲んでいく彼。中学生になったあたりから喉仏が出てきた晴人。


 その喉仏が今隣で上下に動いているのを見ると、つい男なんだと意識してしまう。女の私にはないものだから。


「ん?どうした。飲みたいの?」


 じっと見つめていたからか、晴人と視線がばっちりと合ってしまった。飲み物が欲しくて見ていたわけではもちろんないのだが...


「ううん、大丈夫だよ」


「そっか。行くか」


「うん」


 立ちあがろうとした時、彼に唇を奪われた。"チュッ"というリップ音が静まり返った深々とした公園に鳴る。


 唇が離れた瞬間に彼から香る甘酸っぱいレモンの匂い。


 やっぱりキスはレモンの味なのかもしれないな...






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甘酸っぱいレモンの味 秋風賢人 @kenken25

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