第6話 部活
「イツ、とりあえず、座ろうか」
青樹が私の手を引っ張って木の下のベンチに座らせた。
青樹はどうしてそんなに冷静なの?私の横に座った青樹はちっとも驚いているように見えないんだけど?
つられたように先輩も私の横に座って、クスノキさんは妖精の姿になって先輩の膝に乗った。
「コレなら ワカルか?」
「妖精とか言われても、困るんだけど……」
妖精に見上げられて先輩が困ってるけど、困っても、実際にココにいるのよね。
「この子、いつも先輩と一緒に居ましたよ」
「トコって呼んでたから、ぼくたちもトコ先輩って呼んだんです」
青樹、グッジョブ!先輩がなんか納得した顔になったよ
「それで、トコ先輩か」
「本当は天海先輩なんですよね」
「そう、天海 常葉(あまみ とこは)」
答えながら先輩は膝の上の妖精をしげしげと眺める
「トコのコトはワカにたのまれた」
「わか?」
「ワカって、若葉のことかな?」
「ワカは ワカだ イマはイナイ」
妖精は羽も無いのにトコ先輩の顔の高さに浮かんだ
「トコ、ワレのコト ワスレタノカ?」
「クスノキさんと会ったのは初めてでは?」
「キノウ アッタ」
先輩と妖精が盛り上がってる。妖精はずっと先輩に認識されたいみたいだったから良かったね。盛り上がる二人の間に入るのもナンですから、体ごと青樹の方を向く
「この場所、なんか気持ちいいよね?守られてる感あるよね?」
「結界みたいのがあるんじゃない?」
「けっけい?」
「結界!ほら、今のぼくたちの周りにこのクスノキの精霊の結界的があって誰も近づけない、みたいな?」
「だから ここは静かなのね?」
「え?イツにはあの二人の声が聞こえないの?」
「聞こえるよ、聞いてないけど。青樹は聞いてるの?」
「聞きたくないけど 聞こえてくる」
「そっか、しょうがないね 青樹は聴く担当だからね」
青樹の両耳をふさいであげようと手を伸ばす。でも青樹は逃げる
「なんで?煩いんでしょ?」
「いいよ、ぼくは聴く担当だから!」
「ははは アオ ムキになってる?」
「なってないよ!」
青樹が勢いよく立ちあがって、また、ヘタリとベンチに戻った。
覗き込むとベンチの背もたれに体を預けて、寝息を立てている
「ねえ アオ あれ? 寝ちゃったの?」
青樹の寝顔見てると、私も眠くなるのよねえ。ふあああ あくびが出る。
変だな、昨日もいっぱい寝たはずなんだけど、結界の中って体力使うのかな?
もう ダメだ、ちょっとだけ寝よう。
***
気が付くと、車の中だった。ちゃんとシートベルトもしているし、あれ?
どこからが夢?隣で青樹がやっぱりシートベルトをして眠っている。
「イツ?起きたのか?」
ルームミラー越しにお父さんと目が合う。
「うん」
「お前たち、まだ外で寝ちゃうことあるんだな?」
「嘘!?外で?!」
「寝ぼけてるのか?アマミン先生んちの神社のベンチで寝てたろ?」
あ、じゃあ あれは現実だったんだ
「先生とこの息子さんも一緒になって寝てたのには驚いたけど、寝ている二人に挟まれたら眠くもなるよな?」
「先輩も?」
「ああ、先生にたたき起こされたけどな。お前達は起こすのかわいそうだからって、お父さんが青樹を運んで、息子さんがお前を運んでくれたぞ。昨日も運んでもらったんだっけ?お礼言っておけよ」
「なんで」
「うん?」
「なんでお父さんが私を運ばなかったのよ!」
ううううううう、二日で二回も運ばれるって、それって毎日じゃん!
***
結局、青樹と私は”生徒会アシスタント部”、通称生アシ
今日は2週間後の学祭で展示する「岬線の歴史」の準備で大忙し!なはずなんだけど、私達二人以外はまだ来ていない
「お待たせ」
ガラリと扉を開けて入ってきたのは、頭の上にクマっぽい、クスノキの霊を乗せたトコ先輩
「青島と若林は体調不良で今日は休み」
トコ先輩は窓際の机の上に鉄道会社関係の資料を乗せた。
机の周りに三人が文字通り肩を寄せると、机の上にちびクス(青樹命名)が現れた。
先輩はちびクスに会いたくてこうやっているんだろうけど、触れ合っている肩が熱くてちらりと先輩をみるとニコリと微笑まれて慌てて資料を手に取る。
その資料をちびクスがのぞき込んだ。
「シッテル」
ちびクスが指を一本空中に向けると、そこに映像が浮かび上がった。
おおお!さすが妖精
これはちびクスがみた岬線の岬駅の風景なのかな?人が大勢乗り降りするホーム。
駅前らしい風景のクリーム色の箱は電話ボックス?それから丸い郵便ポスト。
車両の中から海を見ている景色はトコ先輩の頭の上から見ている景色?
「無くなっちゃうの、もったいないですね」
「ナクナラナイモノはナイ」
ちびクス、なぜ得意げなの?
トコ先輩はそんなちびクスの頭を人差し指で撫でて、何故か私の肩にコトンと頭を乗せた。え?!
「充電」
先輩はちびクスを見ながらそうつぶやいた。
びっくりして何も言えない私を青樹が自分の方に引き寄せる
「先輩、イツとの接地面増やしても、充電はされないと思いますよ?」
接地面積って、充電って、意味不明デス
「いや、やってみないと分からないよ。何しろ存在しないと思っていた妖精がいるんだから」
「ナルホド」
先輩が私の肩に手をまわして私を引き寄せ、ちびクスが飛び上がって私の目の前を通過して頭にポスんと乗る気配がした。
「だから 出来ません!ってば イツを放してください」
青樹の声がなんだか遠くに聴こえる。
私、なんだか暗転が近いような気がする……
先輩に憑いている霊(仮)は先輩に認識されたいらしい// 視えちゃう樹姫と聴こえちゃう青樹は似てない双子 TO BE @tobetakako
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます