第5話 訪問

 

物欲しげに先輩に秋波を送るのはやめようよ、と私がお父さんをつつこうとする前に先輩は沈黙に負けたみたい


「ぜひ、会いに来てください。父も 喜ぶと思います」

「じゃあ今から行こうかな。天海君の自転車は僕が車に乗せるからさ。天海君は助手席に座って、二人は後ろな。ほらほら」


お父さんはうきうきと先輩の自転車を車に積む。


「懐かしいなあ ボクはねえ、アマミン先生に中学3年間担任して貰ったんだ」

「そうなんですね」


楽しそうなお父さんと困惑顔で受け答えをする先輩。その後ろの座席に身を寄せ合うようにして座っている青樹と私。


「ねえイツ、なんでぼく達まで車に乗ってるの?」


流れで車に乗ってしまったけれど、私と青樹は天海先生の家に行く理由って無いよね?二人で顔を見合わせてため息をついた。


「イツ、今日あの霊見える?」

「見えない でもトコ先輩だよね?」


助手席を指さすと青樹はあきれたような顔になる


「え?イツ顔覚えてないの?」

「くっつけてる霊が印象的過ぎて、顔見てなかった、のかな?」


青樹は肩をすくめた


「トコ先輩じゃなくて、天海先輩だけどな」

「らしいね」

「トコって何だろ?」

「名前かな?天海トコ?」


いやー、ないやろ


海南校の少し岬の方へ走った所の神社に車を入れる。

先輩とお父さんが自転車を下ろしているのを眺めていると白髪のオジサンが近寄ってきた


「「こんにちは」」

「ほい、こんにちは」

挨拶すると オジサンもニコニコと頭を下げる


「あ、先生!」


お父さんが自転車から手を放してオジサンの方に駆けていく。自転車が突然傾いてトコ先輩が慌てて支えているけど、お父さんもオジサンも私達の事なんてすっかり忘れたみたいに、並んで歩き出した。


「お父さん 車の鍵!!」


カシャリ

振り返ったお父さんは電子キーで鍵をかけて、嬉しそうに手を振って行っちゃうし、オジサンも笑顔で手を振ると此方に背を向けた


「あのなあ」

「あのな!」

「あのねえ」


最初のは先輩のため息交じり次のは青樹のちょっと怒った声、最後は私のあきれ声だ


「どうする?って言われても困るよね?」


先輩は私達に投げかけた疑問に自分で答えて苦笑した。


「アオ?」


突然、青樹が歩き出した。

青樹の進む先には大きな木があって、霊の気配もする。この距離から分かるなんてちょっと危ないかもしれない。慌てて青樹を追いかけると、先輩もついてきた。


「楠だよ」


大きな木を三人で見上げる。


「大きいでしょ?樹齢200年って言われてるんだ」


少し自慢げに言った先輩がその木に触れる。つられて、私と青樹も木の幹に手を添える。

ザワリと木が震えたような気がした。


「トコ!」


声と共に大きく伸ばびた枝から人が降ってきた?!


えーと、緑っぽい肌にとがった耳、釣り目がちな目は大きくて、宇宙人っぽいけど、地球人のセンスで言っても綺麗な顔だと思う。

あれ?私、霊だけじゃなくて宇宙人も見えるようになった?


「ゴ苦労」


宇宙人は青樹の方を向いて頷いた。青樹ったら呼ばれてた?


「あなた、どちら様なの、ですか?」


先輩が妙な日本語で聞いた。とたんに宇宙人の眉が下がって悲しげな顔になる


「トコ、覚エテナイ?クスノキだ」

「クスノキ くすのき 楠?」


宇宙人が先輩に手を差し伸べ、先輩がその手に触れるのを避けるように、一歩後ろに下がった。


「どちらの楠さんでしょうか?」


先輩、木から降ってきた緑の人を普通の人と思おうとしてますか?


「ねえイツ、クスノキって学校でトコ先輩にくっついているのと同じ霊かな?」


青樹が声も潜めず言うけど、こちらの声が届くことは無いから良いか?

あれ?先輩とクスノキさんが同時にこちらを見た。

クスノキさんにも聞こえてる?


「霊?くっついている?」

「アレもワレだ」


ええええええええええええ?なに?なんで?私達の言葉が聞こえてるの?どうして?


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