カメラの前で晒される罪

温故知新

カメラの前で晒される罪

 近年、スマホとSNSの急速な普及により、誰もが手軽に犯罪者を世間に晒せる世の中になった。



「よし、警察には通報したから、後は犯行現場を撮ってSNSにアップするだね!」

「ねぇ、見て! 強盗だって! 警察には誰かが通報したみたいだから、その間にSNS用の動画を撮っておこう!」

「そうだね! 最近は、SNSであげた犯行動画がニュースで取り上げられる事がSNS界隈でのトレンドだから!」

「そうそう! それで広告収入を得ることが出来るから、副業にしている人が増加してるんだよね! 最近だと、あの人気動画配信者とか......」



 とは言え、我欲を満たすために罪を犯す奴らは後を絶たない。


そして、昼下がりのとある町で、銀行強盗をした覆面男もまた、そんな奴らの1人だった。



「うっ!」



(何なんだ、こいつら! 銃持ってる俺相手に嬉々としてスマホを向けるとかバカじゃねぇのか!?)


 行員を脅し、大金を手にした覆面男は、建物を出た直後に大勢の人達からスマホを向けられ、思わずたじろぐ。

だが、どうしても欲を満たしたい覆面男は、持っていた銃を野次馬達に向ける。



「おい、テメぇら! 俺を晒し者にするんじゃねぇ! 死にてぇのか!」



威嚇のつもりで声を荒らげて野次馬達を脅す覆面男。

 だが、スマホを向けていた野次馬達は、怯えるどころか、更に嬉しそうな顔をしてスマホのカメラで覆面男を撮り続けた。



「見ろよ! あの犯人、銃なんて持っているぜ!」

「ねぇねぇ、あれって本物!? それとも、3Dプリンターで作られた物!?」

「おい、あの銃! 警察官が持っている銃だとよ!」

「ということは、ここに来る前にどこかで事件を起こしたってことか!?」

「チクショー! それなら、それも撮ってSNSにアップしたかった!!」

「…………」



(な、なんだよこいつら! どうして喜んでいるんだよ!)


 強盗に入った時、行員の怯えた表情で銃を持った覆面男を見ていた。

だが、野次馬達は男が持っている銃を見て喜んでいる。


まるで、『SNSに上げる良いネタが見つかった!』と言わんばかりに。


想像していなかった異常な光景に、銃を持つ覆面男の手が微かに震えた。



「お、おい! それ以上スマホを俺に向けたら、本当に撃つぞ!」




 パン!!




 最後の警告とばかりに、覆面男は空に向かって引き金を引く。

 だが、SNS映えさせるパフォーマンスにしか映らなかった野次馬達から歓声が上がった。



「おぉ! 撃ったぞ! しかもマジもんの玉を!」

「俺、初めて見たけど、音が大きくてカッコいいな!」

「なぁ! この犯人のことをSNSに上げたら、大手テレビ局のアカウントからDMが来たぞ!」

「私も、ネットニュースの運営から取材依頼が来た!」



 野次馬達の楽しそうな顔を見た男は、血の気が失せた顔でゆっくりと銃を下ろす。



「……お前ら、一体何なんだよ」



(銃を向けられて喜んでるとか、頭おかしいだろうが)


 呆れを通り越し、恐怖を感じた覆面男に、野次馬の一人が、スマホと男の顔を交互に見て目を輝かせると、そのまま男に近づいた。



「あの! SNSのリプであったんですけど! もしかして、この写真の人ってあなたですか!?」

「っ!?」



(これって、俺の学生時代の卒業アルバムの写真!? どうしてだ!? 覆面で顔を隠しているはずなのに、どうして俺だと分かったんだ!?)


野次馬達に見せてもらった卒業アルバムの写真に、寒気を感じた覆面男が思わず顔を引きつらせる。

その様子を見た野次馬は、無言になった犯人を見てさらに目を輝かせると、覆面男に背を向けて、他の野次馬達にスマホの画面を見せた。



「おい、みんな! この犯人、この人だとよ!!」

「や、やめ……」



 野次馬の声に気づいた覆面男は、自分の顔を見せまいと、目の前にいる野次馬の肩を掴もうとした。

 だが、目を輝かせて瞬く間に集まった他の野次馬達に阻まれてしまった。



「マジで見せろよ!」

「いいぜ! その代わり、フォローよろしくな!」

「ねぇ、この人! うちの学校の先輩じゃん!」

「マジ!? それじゃあ、この人のこと知ってるの!?」

「あぁ、この人! うちの同僚の元カレじゃん!!」



(何だこれ、本当に現実なのか?)


 野次馬達によって犯罪だけでなく個人情報まで晒された覆面男はその後、駆けつけた警察官によって逮捕された。


 なお、覆面男がしばらくの間ネットのおもちゃになったことは言わずもがな。

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