盗っ人には……

温故知新

盗っ人には……

「ギャハハハッ! 俺は悪くねえよ! だって、わざわざ『盗んでください』って物を置いてる奴が悪いんだからよ! バーカ!!」



 大勢の警察官に連れられ、留置所から出た男は、留置所前にいる数多のマスコミの前で得意げに叫んだ。


 彼は、年端もいかない中高生を利用し、高級貴金属店や高級住宅街にある民家を襲撃させ、盗ませた物を全て海外に高値で売り、金を得ていた男だった。


 全く反省の色を見せない男に、周囲にいる警察官や集まった野次馬達が冷めた目で見る中、男の傲慢な態度に、頭に血が登った新人警官が突然、拳銃を男に向けた。



「お、おい! やめろ!」



 新人警官の行動をすぐさま気づいた先輩警察官は、慌てて止めに入ろうとすり。

 だが、正義感が強いその新人警官は、何の躊躇いもなく引き金を引いた。



 パン! ドサッ! ギャーー!!!!



 辺り一帯に響いた乾いた音。

 その直後、下卑た笑い声をあげていた男の声が止み、その刹那、男は音を立てて倒れた。



「おい、お前! 自分が何をやったのか分かっているのか!?」



 突然の出来事に、野次馬達が悲鳴をあげ、カメラマン達が一斉に倒れた男と一部始終を収め、それを警察官が必死に止めて自体の鎮静化に走る。

 たった一発の銃弾で、瞬く間にカオスと化した留置所前で、止めに入ろうとした先輩警察官が新人警官に詰め寄る。

 すると、ゆっくりと拳銃を下ろした新人警官が、至極真面目な顔で先輩警察官を見た。



「だってこいつ、全く反省していなかったじゃないですか。だったら、この場で射殺しても良いですよね?」

「お前......」



 法の番人として警察官としては、あまりにも短絡的すぎる犯行理由に、先輩警察官は空いた口が塞がらない。

 すると、遠くから新人警官を賞賛する声が聞こえてきた。



「その通りだよ! 罪の意識のない奴は死ぬしかないんだ」

「っ!? あなた様は......」



 驚いた先輩警察官が慌てて後ろを振り返る。

 その視線の先には、この国の首相たる男が、悠然とした態度で歩いてきた。


 どうして、ここに国のトップが......?


 今日、留置所に首相が来るという情報は来ていない。

 それなのに、国のトップがなぜかここにいる。


 突然の首相の登場に、その場にいた誰もが困惑しつつも疑問符を浮かべる。

 そんな状況で、満足気な笑みを浮かべた首相は新人警官の肩を軽く叩いた。



「いや〜、ここ最近は強盗や特殊詐欺など、他人から盗む犯罪が多くてねぇ......留置所や拘留所に刑務所が定員ギリギリで困っていたんだよ。おまけに、こういう犯罪は狡猾な上に再犯率が高いだろ? だから、捕まえたとしてもすぐ捕まえることになるから、あまりにも非効率だと国会で話題になっていたんだ。だから......」



 拳銃で胸を撃ち抜かれて動かなくなった男の身体を軽く蹴った首相は、ニンマリと笑みを浮かべるとマスコミに向かって大きく手を広げた。



「今、この時をもって『窃盗等に伴う射殺法』を施行致します! まぁ、他人から物なり命なら盗むんだ。そんな奴に、この国で生きている価値なんて無い」



 なお、この法律には『窃盗等を犯した場合、老若男女問わず容赦無く射殺して良い』と記載されていた。

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