【冒険王】

「【冒険王】とのタイマン、ですね」


 正直、想定の中ではこのパターンが一番キツかった。

【小夜啼鳥】は最初に倒せないと論外な為除くが、【約束の指輪】で【勇者】にダメージの肩代わりして貰いながら【冒険王】と戦うのが理想形だった。

 何度も思い知らされてきたが、結局はステータスの暴力が一番強い。

 今【冒険王】が受けているダメージは【勇者】の巻き込み【サンダーボルト】のみ。

 前衛特化の耐久的にも化け物クラスなのでダメージとしては10分の1も行っていない可能性が高い。


 そして、なによりも速い。


 ここまでの戦いでオレはずっと【冒険王】とまともに戦うことから逃げ回っていた。

 喰らえば即死の攻撃を一切のクールタイムなく振り回せる、オレより素速いアタッカーと対複数でまともに殴り合うのは自殺行為だったというのもある。タイマンになったとはいえダメージの肩代わりもない現状正面から戦いなんて無理ゲーとしか思えないし。

 だが実際にタイマンになってしまったなら受けに回ってはならない。攻勢あるのみだ。魔力を回し、うち負けないように全身を強化しろ。


『……』

「……」


【狂化】が基本の【冒険王】は静かだ。

 本来の【冒険王】のパーティは、最高のアタッカーを他のメンバー全員で支援する一点特化型。

 だとしたら今のように完全に一人で戦う状況なんて初めてなんじゃないか。

 ずっとソロぼっちだったオレとずっとパーティパリピだったあんた、つまりこれはオレが有利な戦いだと自分に言い聞かせる。こちとらずっとぼっちやってんだ、初めてぼっちになったやつなんかに絶対負けられない。


「ふっ」


 睨み合っている間ずっと練っていた魔力を呼気と同時に放出。

 過剰に練られた魔力の反動に自分の身体すら傷付けているかもしれないが今は無理をしなくてはならない場面だ。ただ目の前の敵を倒さなくてはならない。

 上段からこちらが振り下ろした剣を振り払うように左腕を使う【冒険王】。剣先は直接肌に当たる前に数ミリの見えない壁に弾かれる。オレが放出した魔力で障壁を作ったりするように、身体を覆うように魔力操作しているのだろうか。

 右腕から繰り出されるだろう必殺の一撃を避けるために振り払われた腕の衝撃に身を任せ反転。独楽のように回りながら再度胴体を狙って斬りつければこちらも腕と同じように体表の数ミリ前で何も無い空間に受け止められた。

 硬いとかそういう次元じゃない、全身なのか?


 剣を受け止めている腰に大きく捻りが入る。腕か足か、どちらかがこちらに振るわれるのが確定的だが何処を狙われているかなんてこの近距離で動きを見てからじゃ避けられない。勘だけでしゃがみこんだ頭上、重低音が遅れて聞こえる程の腕の振りに心臓が縮み上がる。

 体勢を崩せないかとその場でしゃがんだまま膝裏に蹴りを叩き込んだが、オレの魔力の練りが甘かったのかびくともしなかった。

 ただ、先程までのように数ミリ前で止められるような感覚はなかった。

 感触の違いに気を取られた瞬間、慌てて剣の腹を正面に向けて構えた。直後恐ろしい衝撃と共に背後に吹き飛ばされた。

 盾にされた剣は砕けたが、それでも直撃を貰わなかった事が大きい。

 真後ろに吹き飛ばされながら即座に【魔剣製生】で生み出した剣を床に突き刺して勢いを殺す。

 金属が床と激しく擦れ火花が散るがなんとかそのまま壁に叩きつけられるのを回避した。

【冒険王】との戦いでポーションを飲んでる余裕がそうあると思えないから余計な負傷は出来る限り減らしたい。


 強制的に取らされた距離のお陰で少し思考ができた。斬りつけた腕と腹、蹴りを入れた膝裏で明らかに感触が違ったのを忘れてはならない。

【勇者】の【サンダーボルト】の巻き添えを喰らっていた時点で全身を魔力で覆っている説は無くなっていたがこれはもしかして魔力を鎧のように部分的に纏っている箇所とそうでない箇所があるということか?

 体外で操作する魔力は体内で操作する魔力の何倍も難しく、繊細な範囲指定をしながらあそこまでの強度をもたせるとか到底オレには真似できない。

 だがスキル外スキルに関しては開祖と言ってもいいほど熟達している筈の【冒険王】なのでオレにはできなくともどんな無茶な事をしていてもおかしくはない。

 魔力の鎧の範囲外を狙ってなんとかダメージを入れられるかどうかが鍵になる。尚魔力の鎧は目視できないものとする。


「……無茶が過ぎるな」


 それでもやらないと勝てないんですけどね。

 


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