作戦会議


 国による緊急依頼によって、正式に旧東京1番ダンジョンへの草刈りが始まった。

 オレは配信で実際草刈りをしてきた実績も込みで950階層〜999階層を草刈り担当になった。

 これほど多くのS級が長期間動員された依頼は史上初だと思う。

 1000階層については入ると扉で閉じ込められるので今回草刈り対象から外されている。

 オレが一人で1000階層に籠もる案もあったようだが、毎回必ず第3形態で自殺を強いるのはどうかということで無しになったそうだ。

 それにうっかり自殺成功してしまったら【魔王】のネームド化を誘発する危険性もあるしな。


 更に草刈り期間中にオレの配信履歴からガーディアン対策が正式にねられた。

 もう色々バレてるし仕方ないと開き直ったオレは【王眼】での具体的な鑑定結果も全て情報提供した。


「現時点で最大の懸念点はやはり【勇者】ですね」


 対策本部に招集された精密さんがにこやかに言い切った。

【冒険王】はステータスこそ力を体現した小細工の効かない相手な為、ある意味草刈り次第の対策不能存在なので焦点は自然と【勇者】と【小夜啼鳥】になる。

 攻撃スキルを一切持たない【小夜啼鳥】(スキル詳細は小夜啼鳥教が担保した)と比較しても、【勇者】は装備と使用スキルから剣士、魔法使い、補助術師、盾使いは確定で極めている事がわかる。

 第7洗礼まで受けたとされている【勇者】の不確定なジョブが3ジョブあり、その上で前回の戦いでは【勇者】固有のスキルを一切使用していないというあまりの底の見え無さに対策を考えようにも具体性を持たせづらい。


「戦っていてもアタッカーの【冒険王】をサポートする形で【勇者】が妨害してくるのが厄介でした」

「ただ、【勇者】も厄介ですが、倒す優先順位は変わらず【小夜啼鳥】ですね。蘇生は通されたら全てが無に帰しますし、【ヒールストップ】をされたらまた前回の二の舞になるでしょう」

「一応、【ヒールストップ】で無効化されない回復スキルがあるので【ヒールストップ】だけなら大丈夫です。ただまぁ【勇者】と【冒険王】を回復されるだけでもう無理ゲーなのでいかに【小夜啼鳥】を倒すかというのが焦点というのはそうなんですが」

「へぇ……後で詳細について根こそぎお聞きしてもよろしいですか???」


 目が怖いよ精密さん。

 ここまで総力戦になると今更ジョブやスキルの秘匿なんてしてられないので全て情報開示する予定だが(勿論口外禁止の【制約】あり)、またレシートメールが届くのは勘弁して欲しい。前回のレシートにまだ返信してないから余計胃が痛い。

 一応【生命簒奪】は回復系スキルの扱いではないので【ヒールストップ】対象外だ。

 これまでなんとなく使っていたスキルの詳細を教えてくれた【神眼】はまじで凄い。

 ここで、ずっと黙っていた水鳥さんが口火を切った。


「【勇者】対策には、1つ案があります」

「ほうほう、どのような?」

「【勇者】の【約束の指輪】の片割れを使います」

「……、」


 うっわぁ……、流石に外道な案過ぎて沈黙が痛い。


「それは……盗掘をするということでしょうか」

「必要経費です」


 にこりと笑った水鳥さんは今日も元気に狂ってる。

【約束の指輪】とは、勇者伝説で有名なアイテムだ。

 勇者パーティの一員でもあった双剣士と恋愛関係にあった勇者さんが、将来を誓う時に贈ったとされる2つで1つの指輪。

 効果は、指輪をつけている相手がモンスターから受けるダメージを身代わりするという相手の事を自分よりも大切に思っていないと着けることすらできないまさに愛の証。

 勇者さんは自殺した時も恋人の【約束の指輪】を抱いていたとされている。

 その象徴的なエピソードから女性から人気の高い逸話で、ネット小説でも告白の時に【約束の指輪】を渡して告白するのがテンプレ化していたくらいだ。


 そして水鳥さんはその指輪を利用しろと言っている。


 確かに【王眼】で見た【勇者】も装備していたが……。

 流石に人の道を外れてない???

 それにガーディアンとして再現された【勇者】の【約束の指輪】と、墓に格納されている【約束の指輪】に共鳴効果があるかわからない。そんな不確定要素の為に墓荒らしをしろと言うのかこの人は……。

 冷えっ冷えのこちらに、相変わらずのアルカイックスマイルで続ける。


「他に何か有用な案がありますか?」


 作戦会議の空気は最悪である。



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