契約


 結局、依頼を受けた。

 物凄く嫌だったが、それを上回るメリットが多すぎてオレは折れた。


 一番のメリットは、【神眼】によるオレのスキル鑑定だった。

 水鳥さんはジョブ欄にある通り特殊ジョブで、普通の人が持ち得ないスキルを沢山持っていたのだが、激ヤバスキル【神託】に続いて【神眼】もやばかった。

【鑑定】系統のスキルであるが、その視る範囲が異なっていて、【神眼】で視ればオレの難解フレーバーテキストスキルの説明文がちゃんとした文になるのだ。

 理由について聞いてみたが「神の前では全て平等であり真の姿を神の眼で見えないものはありません」とぐるぐる目で言われてしまってよく分からなかった。

 支離滅裂な発言を意訳するなら、オレの【王眼】がモンスターの具体的な数値に特化したスキルだとしたら、【神眼】はモノの真価を見通すとかそういうスキルなのかもしれない。

 おかけで今まで眠っていたスキルの地雷を知ることが出来たし(天秤のようにオレにもデメリットあるスキルが何個かあった)、具体的な効果適用範囲、完全に知ることを放棄していたパッシブスキルの効果も知れた。

 まぁ案の定スキル自体はほぼ格下狩りに特化しているモノだらけだったが、ガーディアン戦で使っても死なないスキルはどれかを明確にできただけ良かったとしよう。


「【神眼】で見る限り、【生命の敵対者】は完全制覇ダンジョンクリアに特化したジョブのようです。必然的にスキル外スキルを磨かなくてはならなくなるスキル効果範囲格下狩り、草刈りをする上で効率を求められる多彩な時短スキル、そして最終的な出力不足にならないようにデメリット付きとはいえ破格の効果を持つ短期バフとスキル外スキルを補助する為のパッシブスキル各種で構成されています。まさにダンジョンへの殺意だけで構成された素晴らしいジョブですね、このような素晴らしいジョブを(以下ダンジョン敵視のこき下ろしが続く)」


 総評として、【生命の敵対者】は絶対完全制覇ダンジョンクリアしたいマンとのこと。

 ずっと訳の分からないジョブだと思っていたが、まさか第一洗礼前にオレが一番望んでいたジョブについていたというオチだったのか……。

 なんというか、徒労感が凄い……。


 有用なスキルによる解析で長年の謎の解決までしてもらって、流石に依頼を受けませんなんて言えない。

 根本的な目標自体は【生命の敵対者】を辞める事だしその為に完全制覇ダンジョンクリアしたいして欲しいので利害は一致している。こいつらと関わったことが人生の過ちといえばそうなのだがもう一度関わってしまった以上毒を食らわば皿までの精神で正式に依頼を受けた。


 こちらから提示した希望と条件は以下の通りだ。


 ・草刈りを行う事

 ・草刈りの依頼含めて小夜啼鳥教主導での依頼だとわからないようにして欲しいという事

 ・依頼が完了した際の報酬として小夜啼鳥教関係者はオレ含めて身内には一生接触しない事

 ・オレに関する情報を誰にも明かさない事


 これらの条件を最低条件として上げて納得してもらった。

 もうガーディアンさえぶっ殺してくれたらなんでもしますという勢いなのでそれなりに無茶振りをしたと思ったが欠片も苦にする様子はなかった。

 小夜啼鳥教主導でないように依頼をするとかオレから言っておきながらできるのかと半信半疑だったが、アルカイックスマイルを返されて黙った。


「大丈夫です。民衆の【勇者】への憧れは本物です。その【勇者】が探索者を辞める原因になったダンジョンでガーディアンとして利用されているなんてセンセーショナルな事を知れば民意は簡単に動きます」

「うわあ」


 ネットにも強いタイプのカルト嫌だなぁ……。

 事実依頼を受けてから一日と経つ前にやけにクオリティの高いガーディアン戦の切り抜き動画をインフルエンサーが引用リツイートしたことによって物凄くバズった。

 ちゃんねる登録者数なども副次効果で増えたが全く嬉しくなかった。ある意味炎上したようなもんだし、主導が小夜啼鳥教だと知っていると何もかもが胡散臭く感じる。

 燃え上がるように旧東京1番ダンジョンへの敵視が高まってきた頃、政府から正式に攻略協力依頼が出た。

 しかも出席日も公欠扱いになる緊急依頼の方式で、もうありとあらゆる外堀を埋めるスピードの速さにオレはただ頷いているだけで終った。

 後で聞いたら、国の上層部に小夜啼鳥教の治療を受けている信徒が複数人居るようで今回の爆速対応に至ったそうだ。

 そんな未来が暗くなりそうな事実知りたくなかったな……。

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