指名依頼

 ダンジョンアウトの後遺症を治すために休んでいたが出席日がついに来た。みんな長期休暇のダンジョンアタック遠征などでより絆を深めたようで羨ましい限りである。

 一方のオレと言えば最近は毎日毎日同じ人から指名依頼が来ては断るという事を繰り返している。依頼内容の詳細は直接話すと言われているが今は旧東京1番ダンジョンの攻略に集中したいからと断っていたのだが、断る度に依頼料金を倍にして再依頼してくるやべー依頼主に粘着されていた。

 資金の限界まで根比べをするなんてヤバいことできないので、一度直接会って断ろうと旧東京ダンジョン管理ギルドの会議室でなら会うと返信した。




 一体どんな輩かと恐る恐る部屋に入ったが、拍子抜けな事に依頼主は20前後の女性だった。

 今どき珍しい仕立ての良い白銀の着物を着て、流れるような黒髪を緩く纏めている一見品のある女性があんな輩みたいな依頼を……?


「無理を言ってお越しいただいて申し訳ありません。依頼人の水鳥小夜子と申します」

「どうも、」

「さ、とりあえずおかけください」


 丁寧に腰を折られていきなり出鼻をくじかれた。

 速攻で断って去ろうと思っていたのに完全に主導権はあちらである。


「ではまず自己紹介を兼ねまして、……ステータスオープン」


 正気かよ、初めて会った他人に自己紹介でステータスオープンするなんて絶対まともな奴じゃない。

 あんまり細かいステータスを見るのは失礼だと名前の辺りだけチラ見したら、以下のような記載だった。


 名前:小夜啼鳥教主教・水鳥小夜子

 種族:人間

 職業:小夜啼鳥の教えを継ぐもの


 あっ、ダメだコレ。

 ガチで関わっちゃいけない人カルト教団だ。


「【私の話を聞いてくださりませんか?】」

「!?」


 反射で逃げようと立ち上がったが走り出す前に足が止まる。この強制力、この人まさかスキルを使った!?

 犯罪者判定ギリギリだぞそれは。

 いや、明確に人にスキルの効果で危害(肉体的・金品・健康問わず)を与えないといきなり犯罪者判定はくだらないから攻撃スキル以外で少し足止め程度なら大丈夫なのかもしれないが、にしても人間相手にスキル使用を躊躇わないなんて間違いなくまともな思想ではない。


「手荒な真似をして申し訳ありません。先程のスキルの効果ですが、こちらが宣教を行うまでその場から離れられなくなるといったものです。何かより優先度の高い用事などがある場合はそもそも効かないので、スキルが効いたということは、特に、特に、特に、用事など無いとお見受けします」

「……は、はい」


 これだから小夜啼鳥教カルトは!!!

 思想ガンギマリで教義の為なら犯罪者墜ちも躊躇わないようなやべーやつしか居ないと評判だが、普通の治癒スキルでカバーできない範囲の治療(具体的に言うと寿命の延長)に適したスキルを多く有するというただ1つのメリットでなんとなくお目溢しされてるガチのカルトだ。

 こいつらが居るせいでオレは第一洗礼の【破滅の使徒】について誰にも言うことが出来ずにいる。

 間違っても認定されてしまったらあらゆる意味で人生終わるので。


「では、本題に入ります」

「あ、はい」


 こいつオレが逃げようとした体勢で固まってるのにそのまま話し始めた。やべーよ。


「先日の配信、見させていただきました。あのガーディアンについてですが、はモンスターということで間違いありませんでしょうか?」

「はい」

「なるほど……つまり、は御姿を真似た不出来で不潔で不本意な汚らわしき邪神ということですね」

「……」


 こちらの返事なんて欠片も待っていないのがわかる。見開かれた目がグルグルと何かを睨みつけて激しく動くのを正面から逃げられずに見せられるオレの気持ちとか考えてくれないかな。


「私共の依頼は、旧東京1番ダンジョンガーディアンの滅殺でございます。その為に必要な行為、金品、人員、装備、政治など全てこちらで準備・負担を行います。教徒一同をもって草刈りも行いますし、他のS級の方にも指名依頼を出します。依頼の達成がなされた場合、こちらが用意できる限りお望みのものをご用意させていただきます。どうか、依頼を受けていただけないでしょうか?」

「……」


 正直、依頼主が小夜啼鳥教でなければ喜んで!と言いたい位だ。その一点においてのみ受けたくなくなるのだが。

 特に草刈りの手伝いがありがたい。

 一人で草刈りする限界というのを身にしみて感じていた所で破格の条件で草刈りをしてくれるというのだから、お願いしてしまいたい。

 だが、相手は小夜啼鳥教だ。


「……なぜ、オレに依頼するんですか」

「貴方様がソロで完結した特殊ジョブだからです」


 こえ〜〜よ!!配信コメント欄でももうそうだよねとは言われてはいたが何を持って断定したんだこの人。


「生命の敵対者、素晴らしいジョブでございます。自らのみを生命と定義する傲慢で忌まわしきダンジョンを破壊するためだけに生まれた素晴らしいジョブです。実際、貴方様はソロで【勇者】以降現れなかった1000層ボスの討伐を行っています。惨たらしい勇者伝説の終焉に挑むことすら憚られていたあのダンジョンを破壊しようという明確な意思!ダンジョンに懐柔されつつあり停滞していた現代においてここまで敵対の意志を持ち続ける事ができる方など貴方様以降現れるか」

「待ってなんでジョブを知ってるんですか」

「あぁ、申し訳ありません。そちら私のスキルである【神託】によるものです。ガーディアンの存在を知り、最もあのダンジョンの破壊に適した方を探している時に【神託】が下ったのです。ダンジョンの破壊者、【生命の敵対者】を支援せよ、と」


 誰だよこんなやばい奴カルトにやばいスキル与えたやつ!!!

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